文部科学省は毎年,いじめの認知件数を公表していますが,この数値がいじめの実態を反映したものでないことはよく知られています。当局の取り締まりの強度によって,数が大きく左右されますものね。
この点は,上の図からも分かります。各県の中学校のいじめ認知件数は,いじめを容認する生徒の割合と相関していません。東京や神奈川は,いじめを容認する生徒が多いにもかかわらず,当局が認知した件数は少ない。これらの県では,闇に葬られた,いわゆる「暗数」が多いものと思われます。私の郷里の鹿児島などは,その逆です。
私はここにて,横軸のいじめ容認率から各県のいじめの「期待度数」を出し,それを統計上の認知件数と照合することで,いじめ把握度という指標を計算してみようと思います。各県がいじめの把握にどれほど本腰を入れているかを測る,ガンバリ尺度です。
首都の東京を例に,計算の過程を説明します。2012年度の『全国学力・学習状況調査』の生徒質問紙調査によると,東京の公立中学校3年生のいじめ容認率は8.7%です。同年5月の公立中学校3年生の生徒は231,211人(『学校基本調査』)。よって,いじめを容認している中学校3年生の実数は,20,115人と見積もられます。
この数をもって,いじめの期待度数とし,統計上の認知件数と比べてみるのです。2012年度の『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,同年度中に都の中学校で認知されたいじめ件数は4,660件なり。先ほど割り出した期待度数の,おおよそ23%に相当します(4,660/20,115 ≒ 0.23)。
大都市の東京では,当局が掬ったいじめ件数は,期待される水準の5分の1というところです。いじめは「見えにくい」現象ですので,これでも「よし」とすべきでしょうか・・・。
それを知る目安を得るには,他県との比較が必要です。私はこのやり方で,47都道府県の中学校のいじめ把握度を計算しました。下の表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しました。上位5位の数字は赤色にしています。
最初の図からも分かることですが,鹿児島はスゴイですねえ。この県では,期待度数の3倍以上のいじめが認知されています。ほか,数値が1.0を越えるのは山梨です。2011年10月の大津市いじめ自殺事件以降,全国的にいじめの取り締まりが強化されていますが,この2県はとくに本腰を入れたのだろうと思います。
しかし,これら2県は全体の中ではイレギュラーなケースです。いじめ把握度の全国値は0.28であり,0.2(2割)を下回る県もちらほら見られます。福島と佐賀は0.1未満。この2県では,かなりの数の「暗数」が潜んでいる可能性が・・・。
さて,各県のいじめ把握度を地図化してみましょう。0.2未満,0.2以上0.3未満,0.3以上0.4未満,および0.4以上という4つの階級を設け,各県を塗り分けてみました。
相対評価ですが,0.4を越える県,つまり期待度数の4割以上を拾っている県は,「がんばっている」県と評してよいでしょう。濃い青色がそれですが,全国的に散らばっており,地域性のようなものはなさそうです。各県の政策の有様が影響していると思われます。トップの鹿児島県は,「いじめ対策必携」なる資料を全教職員に配布している模様です。
http://www.pref.kagoshima.jp/ba04/kyoiku-bunka/school/shidou/hikkei.html
いじめの量を測る指標としては,児童生徒のいじめ容認率のような指標がいいでしょう。各県のいじめ認知のガンバリ度を計測するには,いじめの期待度数といじめ認知件数を照合して出す,いじめ把握度がよいでしょう。これらの指標も定期的に公表し,各県の状況診断に与してみてはどうでしょう。
ここにて,私が申したいことです。