2016年10月4日火曜日

世代の軌跡を見る

 先日,プレジデント・オンラインにて「聞いてはいけない,残酷すぎるデータ」という記事を公開しました。この記事は,よく読まれたそうです。
http://president.jp/articles/-/20248

 私のエゴが入った「オモシロ・グラフ」を4つ紹介したのですが,最初の図1がウケたようです。男性の「時代×年齢」の自殺率を等高線グラフで表現したものですが,「初めて見た」「ユニークだ」という感想が多く寄せられています。

 この図法だと,各時代の年齢層別の自殺率を,上から俯瞰(ふかん)することができます。どの時代のどの層がヤバかったか。それを一目瞭然で知れる仕掛けになっています。

 このグラフのもう一つのミソは,世代の軌跡をナナメにたどれることです。「時代(5年間隔)×年齢層(5歳刻み)」の等高線上では,それぞれの世代が生きた軌跡は「ナナメ」のラインで表されます。

 各世代のラインがどういう色のゾーンを通過しているかをみることで,「どれほど大変だった時代か」を視覚的に知ることもできます。異世代理解にも役立つのではないでしょうか。この点も「面白い」という感想を多くいただきました。

 今回は,この図法で世代の軌跡を見れる典型例をご覧に入れようと思います。人口中の女性比率です。世の中には男性と女性がいますが,人口比の上では女性がちょっと多くなっています。女性のほうが事故などの死亡率が低く,かつ長生きするからです。

 しかし若年層では男性のほうが多いですし,時代による変異もあります。世代とは,この両方の条件を掛け合わせた概念ですが,女性比率が際立って高い世代があります。終戦時(1945年)に20代だった世代です。生まれでいうと,1916~25年生まれ世代ということになります。

 『国勢調査』のデータによると,1945年の20代の女性比率は6割を超えていました。戦争で男性が海外に出向いていたためですが,外地から男性が帰ってきた後でも,この世代の女性比率は高い水準にありました。戦争で命を落とした男性が多かったからです。

 この様を,例の等高線グラフで可視化できます。「時代×年齢」のゾーンを,女性比率の水準(2%刻み)に依拠して塗り分けると下図のようになります。


 黄色の帯が左上から右下に走っていますが,これが,1916~25年生まれ世代の軌跡です。終戦時に若き20代だった世代。戦死した男性が多かったため,この世代はその後一貫して,女性比率が54%を超えていました。

 戦争の傷跡は,はっきり出るものですねえ。細かいデータがあればの話ですが,「人を信頼できない」「政府を信頼できない」といったメンタリティについても,同様の図柄になるかもしれません。これなども,戦争が人間形成に残す傷といえましょう。

 まだデータを出していませんが,配偶関係が「生別」という女性の割合も,この世代で一貫して高いかもしれません。だとしたら,上図と同じようなナナメの帯ができることになります。

 先日のプレジデント記事で紹介した等高線グラフは,社会の出来事が人間に及ぼすインパクトを可視化するのにも使えます。世代研究を志す学徒にとって,重要なツールといえるでしょう。