2021年9月28日火曜日

性犯罪の何%が裁判になるか?

  性犯罪に関する法改正が議論されています。細かい内容は各紙の報道に譲りますが,基底的な問題意識は,性犯罪がきちんと裁かれていないのではないか,ということです。いわゆる「暗数」が非常に多いことも,よく知られています。

 こういう現実を印象や肌感覚ではなく,データで可視化する(固める)のは意義あることでしょう。そこで,タイトルのような問いを立ててみます。性犯罪の何%が裁判になるか?

 犯人を法廷に立たせるには,①警察が被害届を受理して捜査に踏み切ること,②犯人が検挙されること,③検察が起訴すること,という3段階を経ないといけません。この3つの関門を通過する率を出し,かけ合わせることで,上記の問いへの答えが得られます。

 まずは①です。2019年1~2月に法務省が実施した『第5回犯罪被害実態(暗数)調査』によると,16歳以上の女性1771人のうち,過去5年間に性犯罪(強制性交,強制わいせつ)の被害に遭ったという人は30人です。被害経験率は1.69%。

 総務省の『住民基本台帳人口』によると,2019年1月1日時点の16歳以上の女性人口は5701万451人。先ほどの比率をかけると,2014~18年の5年間において,性犯罪の被害に遭った女性は96万5733人と見積もられます。推定被害女性数です。

 警察庁の『犯罪統計書』によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの認知事件数は3万7314件。先ほどの推定被害女性数に占める割合は3.86%です。低いですねえ。被害者の大半は警察に行かず泣き寝入り。勇気を出して訴え出ても,「よくあること,証拠がないので難しい」と突っぱねられることも。

 次に②です。警察が捜査に踏み切った事件のうち,どれほどが犯人検挙に至るか。警察庁の同資料によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの検挙件数は2万6645件です。上述の認知件数で割って,性犯罪の検挙率は71.41%となります。

 最後に③です。検挙された犯人は検察に送られますが,このうちの何%が起訴されるか。法務省の『検察統計』を紐解くと,2014~18年の強制性交,強制わいせつの起訴人員は8861人,不起訴人員は1万3823人です。起訴率は,両者の合算に占める起訴人員の割合で39.06%となります。

 これは,他の罪種に比して低い部類です。性犯罪は物証が得にくいためでしょう。近年,(訳のわからない)無罪判決も相次いでいることから,検察も起訴をためらうようになっているのかもしれません。

 これで,①~③の関門の通過率が得られました。太い赤の数字です。この3つをかけ合わせると,「性犯罪の何%が裁判になるか?」という問いへの答えは,1.08%となります。実際に起きている推定事件数の1.08%,93件に1件しか裁判になっていないと。

 この現実がどういうものかを,グラフで表すと以下のようになります。ちゃんと裁かれる事件はほんの一握り,いや一つまみということが,視覚的に分かりますね。


 これでは法治国家ではなく,放置国家です。法改正により,こうした酷い実態が変わることを切に願います。