2018年1月6日土曜日

女性の最貧国

 今から10年前の2007年,「ワーキング・プア」という言葉が流行語大賞に選ばれました。和訳すると「働く貧困層」,就労しているにもかかわらず,最低限の生活を営むだけの収入しか得られない人のことです。

 OECDの国際成人学力調査「PIAAC 2012」では,収入のある人の年収を,国民全体の中での階層に割り振っています。以下の6つの階層区分です。
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/

 Less than 10 
 10 to less than 25
 25 to less than 50 
 50 to less than 75 
 75 to less than 90 
 90 or more

 一番下は,下位10%未満です。この最下層に属する者の割合を,性別・年齢層別にみると衝撃的な事実が分かります。下図は,男女の年齢曲線を,日本とスウェーデンで比べたものです。



 日本では,男女差がとても大きくなっています。男性の働き盛りでは,最下層のプアは1割もいませんが,女性はさにあらず。加齢と共に上昇していきます。一方,北欧のスウェーデンでは性差がほとんどありません。

 理由は明白。日本では,女性は結婚・出産すると正規雇用を辞し,家計補助のパート就労が多くなるためです。しかし,女性の社会進出が進んだスウェーデンはそうではない。出産・子育て期でも,女性の大半はフルタイム就業です。上のグラフには,そうした両国の違いが表れています。

 未婚者と既婚者に分けてみると,日本の女性にとって結婚が「厄災」であることが知られます。上記調査では,「あなたは配偶者・パートナーと同居しているか」と問うています。既婚者でも配偶者と別居しているケースはあるでしょうが,ひとまず,この問いにイエスと答えた人を既婚者とみなしましょう。

 各国の30~40代男女のサンプルを未婚と既婚に分け,上記の意味でのプア率を計算してみました。年収が,収入のある国民全体の中で下位10%未満の人の割合です。米独は年齢を訊いていないので,分析対象に含めることはできませんでした。



 25か国のデータですが,日本の特異性が際立っています。女性のプア率が高く,未婚者では36.5%,既婚者では56.5%です。働き盛りでみても,日本の既婚有業女性のプア率は半分を超えると。

 女性は結婚するといろいろ縛りが生じ,稼げなくなる国が大半かと思いきや,そうではな国も多くあります。フランス,スウェーデン,イギリスなどはそうです。女性のプア率は,未婚者より既婚者で低くなっています。

 しかし日本の女性は,未婚者と既婚者の差が大きい。女性が結婚すると稼げなくなる社会です。ゆえに結婚相手の男性に高収入を期待せざるを得ないと。男性のプア率が「未婚>既婚」であるのは,その表れです。稼げないオトコは,結婚できない。それはどの国も同じですが,日本はその度合いが高くなっています。

 上表の女性のデータを,グラフで視覚化しておきましょう。日本が女性の最貧国であることの「見える化」です。



 日本の女性のプア率が際立って高いこと,未婚者と既婚者の差が大きいこと(斜線の均等線よりずっと上),を見て取ってください。

 私はこれまで,男性の年収と未婚率の関連を何度も明らかにしましたが,「女性は高望みしてけしからん」という思いがなかったといえば,ウソになります。

 しかるに,上記のようなデータをみると「致し方ない」という気もします・

 ・女性は結婚すると稼げなくなる
 ・ゆえに,結婚相手の男性に高収入を期待せざるを得ない。
 ・今時,そういう(若い)男性は滅多にいない。
 ・よって,未婚化・少子化が進行する。

 こういう現実も存在するのではないでしょうか。日本の強固なジェンダー規範に依拠する,何とも馬鹿げたことです。

 この循環を断ち切ることが求められるのですが,根元の「女性は結婚すると稼げなくなる」を変えることがまずもって必要になります。夫婦二馬力で,ガシガシ稼げるようにすることです。保育所の増設は,そのための戦略です。保育士不足を解消するため,「保育士の月給3000円アップ」(昨年公表の「新しい経済政策パッケージ」)でよし,としている場合ではないのです。

 保育所不足=「女性は結婚すると稼げなくなる」現実は,少子化をもたらし,社会の維持・存続を脅かす。こういう危機感をもって,保育士の待遇改善に目的を特化した次世代育成税を導入したらどうか。日本教育新聞の新年号で,こういう主張をしました。興味ある方は,大きな図書館等でご覧ください。
https://twitter.com/tmaita77/status/948753698615828481