晴天のお正月ですが,いかがお過ごしでしょうか。
年始ですので,やや大きなテーマを据えましょう。大晦日の朝日新聞に「来なかった第3次ベビーブーム 産まない,産めない」と題する記事が出ています。
https://www.asahi.com/articles/ASKDT6HWYKDTULZU014.html
人口統計の素養がある人は,タイトルだけで内容は推して知るべしでしょう。戦後初期の第1次ベビーブーム,その子世代の第2次BB(70年代前半)があり,その流れでいくと第3次BBも起きたはずなのですが,現実はそうではなかったと。
第1次BBは,1947~49年に生まれた団塊世代です。この期間中は,年間の出生数が250万人を超えていました。第2次BBは,71~74年に生まれた団塊ジュニア世代です。この期間中の年間出生数は200万人超え。ここでは,先行世代と幅を揃えるため,71~73年生まれとしましょう。
上記の2世代のスパンは24歳なので,これを適用すると,論理上の第3次BB(団塊ジュニア・ジュニア)は95~97年生まれとなります。
2016年10月時点の年齢統計を使って,この3世代の人口量を拾うと以下のようになります。出所は,総務省の『人口推計年報』です。
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.htm
団塊世代は639万人,団塊Jrは596万人ですが,その下の団塊JrJrになると370万人とガクンと減ります。
上記の朝日新聞記事で言われているように,第3次ベビーブームは来なかったようです。表の数値をもとにすると,団塊から団塊Jrへの人口再生産率は,5957/6394=93.2%と見積もられます。しかし,団塊JrからJrJrへのそれは,3701/5957=62.1%です。
上の2世代の再生産はスムーズにいったが,JrからJrJrへの再生産はそうはいかなった。仮に,団塊から団塊Jrの時と同じ率で子が生まれた場合,団塊JrJrの数は,595.7×0.932=555.2万人になっているはずですが,現実は370万人。
期待値と現実値の差は185万人です。これは,95~97年の3年間に生まれた世代でみた差分ですが,世代の幅を広げれば損失量はもっと多くなります。
来るべくして来なかった第3次ベビーブーム…。それは,人口ピラミッドを一瞥するだけで分かります。
想定される第3次BB(団塊JrJr)世代は,現在20歳前後ですが,グラフから分かるように,先の2世代から期待される人口量を大幅に下回っています。繰り返しますが,第3次ベビーブームは来なかったのです。
それをもたらすはずだった団塊Jr世代は,私よりちょっと上の世代ですが,この世代は大変でした。大学を出たのは90年代初頭で,バブルが崩壊し,結婚・出産期が平成不況が深刻化する時期ともろに重なりました。当該世代が25~27歳になった98年に自殺者が3万人の大台にのったのは,よく知られています。
それから暗黒の時期が続くのですが,当時の政権のキーワードは「格差があって何が悪い」「痛みを伴う改革」といったもので,若者の自立支援などは後回し。これでは,実家を出て結婚し,子を産むなど,そうできたものではありません。そういえば,山田昌弘教授の『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)が大ヒットしたのも,この頃でしたね。
上記のピラミッドを見て,年輩の方は「若者は結婚を面倒がるようになった」とか草食化とか言うかもしれませんが,そういうメンタルの要因を取り上げる前に,その下にある社会状況に目を向けないといけません。第3次BBが起きなかったのは,90年代後半から今世紀初頭にかけての「政策の失敗」の故であるともいえるでしょう。生まれるべくして生まれなかった命が人為的に奪われたと。
まあ今更,過去のことを糾弾しても仕方ありません。大事なのは,同じ失敗を繰り返さないことです。若者の離家を促すべく,生活の基盤である「住」の支援を強化すること,女性が結婚相手の男性に高収入を期待しなくてもいいよう,夫婦二馬力でガシガシ稼げるようにすること,そのために保育所を増設すること(保育士の待遇改善を図ること)。その財源として,次世代育成税のような課税も辞さないこと。
先月末の記事でみたように,子どもを持てるか否かが経済力とリンクするようになっていることにも要注意。
http://tmaita77.blogspot.jp/2017/12/blog-post_27.html
今後,森林保護税が導入されるそうですが,自然保護と並んで少子化の克服も,社会の維持存続に関わる最優先事です。そのための費用を国民で分担することに,不合理はありますまい。上の世代は誰しも,下の世代の世話になるのですから。
元号が変わる今年が,そういう方向に向かう元年になることを願います。