文科省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,小・中・高・特別支援学校のいじめ認知件数は,2010年度では7万7360件でしたが,2016年度では32万3143件となっています。6年間で4.2倍の増です。
これをもって,今の子どもは悪くなっている,陰湿になっているなどと,単純な解釈をする人は少ないでしょう。いじめ自殺の続発など,問題の深刻化を受け,いじめの把握に本腰が入れられるようになっているためです。2013年には,いじめ防止対策法も制定されました。
いじめの認知件数は,学年別にも集計されています。私は,教員採用試験の書籍を執筆している関係上,毎年このデータを見るのですが,最近になって傾向の変化がみられます。以下の表は,2010年度と最新の2016年度のデータです。
赤字はピークです。ちょっと前の2010年度では,いじめの認知件数は,中学校1年生で最多でした。これをもって「中1ギャップ」などと言われています。
ところが2016年度では,小学校2年生で最も多くなっています。いじめの認知件数はどの学年でも増えていますが,低学年ほど増加が顕著で,小2では9倍,小1では12倍にもなっています。
右端の数値は,熊本県のアンケート調査による,いじめの被害経験率です。2017年11~12月にとられたデータで,「今の学年で,いじめられたことがある」と答えた児童・生徒の比率です。自己申告ですので,いじめの現実態に近いと考えていいでしょう。
児童・生徒の自己申告によるいじめ被害率は,おおむね低学年ほど高く,小1~小3では2割を超えます。ほう,文科省のいじめ統計の学年カーブは,現実に近くなっているようですね。
グラフにすると分かりやすいでしょう。折れ線はいじめ認知件数,棒はいじめ被害率です。前者は左軸,後者は右軸で読んでください。
2010年度の認知件数は,自己申告のいじめ被害率の学年変化との齟齬が大きかったのですが,2016年度では,両者の傾向が近似するようになっています。
低学年の児童は,いじめの被害を言葉にして訴えるのも難しいでしょうが,最近になって,それが上手く拾われるようになっているのでしょうか。だとしたら,いじめの「暗数」も減っていることになりますね。
幼い子どもの声には,慎重に耳を傾けないといけません。7月17日,愛知県の小1児童が熱中症で死亡する事故がありましたが,灼熱下の校外学習で,「疲れた」という言葉を頻発していたのだそうです。これが当人なりに発した,熱中症のサインでした。
https://www.asahi.com/articles/ASL7N5HZBL7NOIPE01Q.html
この伝でいうと,低学年の担任には,経験豊かなベテラン教員を充てるという配慮も必要かもしれません。私の小1・小2時の担任は,定年間際のベテラン女性教師でした。
上記のいじめのデータを見る限り,低学年の子が発する(拙い)サインが,以前よりは感知されるようになっているのかもしれません。