2018年10月23日火曜日

20代後半の未婚男性の所得中央値

 29歳で年収550万円の男性が,「普通の男の婚活」という記事をブログに投稿したところ,「その年でその年収は普通か?」という反応が相次いでいるそうです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15475640/

 今時,29歳で500万以上も稼ぐ人なんて,そういないでしょう。この人は婚活中ということですので未婚者かと思いますが,20代後半の未婚男性の所得分布をとってみましょうか。2017年の『就業構造基本調査』から,データを作ることができます。都道府県編の「人口・就業に関する統計表」の表23です。


 「DB」ボタンを押して,「性別 × 年齢 × 配偶関係 × 所得」のクロス表を作るといいでしょう。この資料でいう所得とは,税引き前の年間所得額です。

 下の表は,20代後半の未婚男性有業者(204万人)の所得分布表です。所得の階級区分は,原資料によります。


 一番多いのは,300万円台となっています。全体の28.4%がこの階層に属します。冒頭のブログの主は年収550万とのことですが,上記の全国統計によると,所得が500万円を超えるのは全体の7.1%しかいません。ご自身を「普通の男」と称していますが,全然普通じゃないですね。

 では,この年代の「普通の男」の収入はどれくらいか。上記の度数分布表から代表値を出してみましょう。よく使われる平均値よりも,中央値(Median)がベターです。中央値は,全データを高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる値をいいます。

 このブログを長くご覧いただいている方はお分かりでしょうが,度数分布から中央値を出すときは,按分比例を考えを使うのですよね。累積相対度数が50ジャストの中央値は,300万円台の階級に含まれることが分かります。

 按分比例を使って,その値を割り出しましょう。以下の2ステップです。

① 按分比=(50.0-48.8)/(77.3-48.8)=0.042
② 中央値=300+(100×0.042)=304.2万円

 はじき出された中央値は,304.2万円です。これが,20代後半の「普通の男」の所得です。冒頭のブログ主の男性(29歳,年収550万円)は,これから大きく隔たっています。「普通じゃねえだろ!」という反発(嫉妬)が寄せられるのは当然なり。

 結婚期のフツーの未婚男子の所得は300万円ちょっと,税引き後の手取り年収だと,確実に200万円台です。婚活中の若い女性にすれば,頭をガツンと殴られる感じでしょうね。しかるにこれが現実。

 地域別にみると,もっと悲惨な状況が露わになります。同じやり方で,20代後半の未婚男性の所得中央値を,47都道府県別に計算してみました。一昨日,ツイッターで発信したところ,非常に多くの方が見てくださっています。ここに,結果を再掲いたしましょう。


 20代後半の未婚男性の所得中央値が300万円を越えるのは12県だけです。先ほどみた全国値(304.2万円)は,人口が多い大都市に引きずられたものであることが知られます。全国値だけを見ていてはダメですね。

 35の県では,所得中央値が300万円を下回っており,250万円に届かない県も5県あります。郷里の鹿児島はここに含まれちゃっています。本県の婚活女性は,300万稼ぐ男性に出会えたら「御の字」というところです。婚活イベントにやってくる,フツーの若い男性の所得が244万円なんですから。繰り返しますが,これは税引き前の所得で,手取りにしたらもっと悲惨な数値になります

 このデータは,各地の婚活業者の参考になるかと思うのですが,どうですかねえ。「400万,できれば500万の収入がある人を」と口にする女性が目にしたら,ぐうの音も出なくなるでしょう。

 ツイッターのリプで「これは未婚者のデータで,稼ぐ人は早く結婚するんじゃないか」という疑問がありましたが,既婚者も含む全体のデータも大して変わりません(右欄)。鹿児島は,244万円から263万円にアップする程度です。既婚者を含めても,300万円のラインには程遠し。

 これまで何度も申していますが,夫婦二馬力じゃないとやっていけない時代になっているのですね。専業主婦という選択肢は,現実問題としてかなり難しい。

 しからば,二馬力が可能になるように保育所を増設しないといけないのですが,政府がしていることを見るとどうでしょう。認可保育所の費用が無償になる一方で,保育士の給与は月額3000円ほど上げるだけとのこと。これでは保育士のなり手は増えず,待機児童問題は解消されないでしょう。消費税アップで得られた財源の用途を,間違えないでほしいものです。

 ブロゴスで,「アマゾン本社に6000匹の犬が出社 増えるペットOKの職場 認められる効果」という記事が出ていますが,子連れ出勤を広めることはできないものか。イタリアやニュージーランドで,子連れで出勤する議員の姿には勇気づけられます。
http://blogos.com/outline/333312/

 今回のデータから若者の貧困化が痛いくらい分かりますが,その挽回を,当事者にのみ委ねるのは酷というものです(夫婦でもっと働け,というように)。聞けば,企業の内部留保は過去最高になっているとのこと。それでいて,労働者の給与(取り分)は惨憺たる状況。労働者への配分率を高めるべきかと思います。それが,消費の活性化,出生率の向上となって,社会全体に潤いをもたらすでしょう。

 「若者の**離れ」が言われますが,それは「おカネの若者離れ」に由来する部分が大きいことも,今回のデータからうかがえるかと思うのです。