2018年10月12日金曜日

地元の大学への進学率

 朝日新聞で,都道府県別の大学進学率の連載が組まれています。本日は,「なぜ女子に家賃補助? 東大男子が知らない進学不平等」という記事が出ています。
https://www.asahi.com/articles/ASLBC6335LBCUUPI003.html?iref=comtop_8_07

 有料記事で最初のちょっとしか読めないのですが,インタビューに答えている,四本裕子・東大准教授の言葉に目がとまりました。「講演で地方の公立高校に行くと,女子生徒から『兄は東京の大学に行っている。だけど,自分は女の子だから家から通える大学にしなさいと親から言われている』という話を本当によく聞きます」。

 地方出身の私にすれば,非常によく分かります。高校の頃,九大に行ける力があるのに「女子なんだから,地元の鹿大にしなさい」と,親に言われていた女子生徒がいました。勿体ないなあ,と思ったのを覚えています。

 ふと,次の疑問がわきました。県別・性別の大学進学率はこれまで何度も出したけれど,地元の大学への進学率に限ったら,男子より女子が高い県が多いのではないか。性差が大きいのは,県外進学でしょうからね。

 2018年度の『学校基本調査』によると,今年春の大学入学者は62万8821人で,出身高校と同じ県(以下,地元)の大学に入ったのは26万9382人,その他(県外)は33万9553人,となっています。*地元と県外の合算が全体に等しくならないのは,高卒認定試験経由者等がいるためです。

 半分以上が,地元から離れた大学に入っているのですね。わが国の大学の地域的偏在を考えると,さもありなんです。性別にみると,県外進学者の比重は女子より男子で高くなっています。

 下の表は,県内と県外に分けた大学入学者数を,男女別に整理したものです。この数を推定18歳人口で割れば,地元の大学,県外の大学への進学率が出てきます。分子には上の世代も含まれますが,今年春の18歳人口からも,浪人経由で大学に入る者が同程度いると仮定します。

 注釈を繰り返しますが,県内と県外の和が合計に一致しないのは,高卒認定試験経由者や,外国の学校卒業者等がいるためです。


 県内・県外をひっくるたた合計をみると,今年春の大学進学率は53.3%となっています。「同世代の半分が大学に行く」という今の状況の数値的な表現です。性別にみると,男子が56.3%,女子が50.1%です。朝日新聞でも問題にされていますが,ジェンダー差が出ています。

 しかし県内と県外にバラすと,様相は違っています。地元の大学への進学率は,男子より女子がちょっと高いではないですか(黄色マーク)。「男子>女子」なのは県外進学率です。やっぱり,大学進学機会の性差は,県外進学が可能かどうかによるのですねえ。

 47都道府県別にみると,地元の大学への進学率が「男子<女子」である県は数多し。以下の表は,県別・性別に地元の大学への進学率を出したものです。黄色マークは最高値,青色マークは最低値を意味します。


 首都の東京をみると,地元(都内)の大学への進学率は,男子より女子が高くなっています。右端の数値(女子-男子)をみると,こういう県が多いことに気づきます。多くの県の値がプラス(男子<女子)です。

 赤字はその度合いが大きい県ですが,京都,兵庫,岡山,徳島では,女子の地元大学進学率は,男子より5ポイント以上高くなっています。徳島は,トータルの大学進学率でも女子のほうが高いのですが,その秘密はココにあったのですね。地元の四国大学,鳴門教育大学が受け皿になっているのでしょうか。

 ここでお伝えしたいのは,地元の大学への進学率に限ると,男子より女子が高い県が多い,という事実です。該当する県に色を付けた地図にすると分かりやすいかと思うので,以下に掲げておきます。


 言わずもがな,県外の大学への進学率にすると,全県で「男子>女子」となります。ゴチャゴチャするので,その一覧表を提示するのは控えましょう。先ほども申しましたが,大学教育を受ける機会のジェンダー差は,県外に行けるかどうか,ということによる部分が大きいようです。

 朝日新聞の記事で四本准教授も言われているように,地方では,女子を外に出したくない,行かせるにしても自宅から通える大学でないとダメだ,という家庭がたくさんあります。

 これは偏狭なジェンダー観念だけの問題ではないでしょう。よく知られているように,自宅外進学にはコストがかかります。ある方がツイッターで教えてくれたのですが,自宅・私立より,下宿・国立のほうが大学4年間の総コストは高いのだそうです。
https://twitter.com/look_mam_look/status/1049908513852575749

 そうでしょうねえ。アパート代,食費・光熱費等の生活費はバカになりませんから。これの4年間トータルは,国立と私立の学費差をはるかに上回るでしょう。

 このコスト負担は非常に大きい。都会の大学に出せるのは,兄弟姉妹で1人だけ。しからば男子優先(勉強の出来に関係なく)。こういう家庭が多くても不思議ではありません。ずっと昔から言われていることですが,大学の地域的偏在,地方から都市への移動進学者への支援の不足,というのも一役買っています。

 ツイッターでも書きましたが,大学の地方分散が進むか,東大のように女子学生の家賃補助をする大学が増えれば,高等教育機会のジェンダー差も幾分か緩和されるかもしれません。冒頭の朝日新聞記事を最後まで読めないのが残念ですが,記事の最後のほうには,地方の女子が置かれた厳しい状況(自宅外に出してもらえない!)について書かれているのだと推測します。女子限定の家賃補助は,それを少しでも和らげるための制度であると。

 地元の大学への進学率に限れば,男子より女子が高い県が数多くある。地方に埋もれた女子の才能。東大の家賃補助は,それを掘り起こす策であるのではと思います。