2018年12月16日日曜日

あなたの稼ぎは多いか,少ないか

 40代男性で年収650万円は高収入かが議論になり,大多数の人が「そうではない」と否定したそうです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15743624/

 うーん,どうなんですかねえ。多くの人は自分の経験やフィーリングをもとに判断しているのでしょうが,正確なジャッジを下すにはデータに当たるのが一番。2017年の『就業構造基本調査』から,40代前半男性の所得分布をとると,以下のようになります。税引き前の年間所得額の度数分布です。所得の階級区分は,原資料によります。


 所得が判明した439万人の分布ですが,400万円台に山があるノーマル分布です。問題の650万円は,黄色の階級に含まれます。この階級のちょうど真ん中ですので,右端の累積%値から,全体の上位25%値であることが知られます(累積%値 ≒ 75.0)。

 上位4分の1に相当する値ですので,高い部類に入ると判断されます。冒頭の議論への参加者がどういう人たちなのか存じませんが,印象やフィーリングには齟齬が生じるもの。横着しないで,ちゃんとデータに当たってみるものですね。

 これで終わりでは面白くないので,上記の度数分布表をもとに,所得の高低を測る目安を作ってみましょう。以下の5つの値を計算してみます。

 下位10%値 下位25%値 中央値 上位25%値 上位10%値

 下位10%値は200万円台前半,下位25%値は300万円台,中央値は400万円台,上位25%値は600万円台,上位10%値は800万円台の階級に含まれることが分かります。按分比例を使って,それぞれの値を推し量りましょう。

下位10%値:
 按分比=(10.0-7.9)/(14.4-7.9)=0.324
 下位10%値=200+(50×0.324)=216万円

下位25%値:
 按分比=(25.0-20.9)/(37.4-20.9)=0.250
 下位25%値=300+(100×0.250)=325万円

中央値:
 按分比=(50.0-37.4)/(55.0-37.4)=0.717
 中央値=400+(100×0.717)=472万円

上位25%値:
 按分比=(75.0-70.0)/(80.7-70.0)=0.466
 上位25%値=600+(100×0.466)=647万円

上位10%値:
 按分比=(90.0-88.1)/(92.5-88.1)=0.439
 上位10%値=800+(100×0.439)=844万円

 この5つのポールをもとに,6つの階級を設定できます。こんな感じです。


 働き盛りのアラフォー男子の皆さん,あなたの所得はどのゾーンに入りますか?私は…… むーん,自分の稼ぎの相対位置がはっきり分かっちゃうのも辛いですねえ。

 上位10%のスタープレイヤーのラインは,844万円です。このラインを越えれば,40代前半の男性の中では「やり手」に属します。

 これは40代前半の男性の診断表ですが,他の年齢層のも見たい,という要望があるでしょう。同じやり方で,他の年齢層(5歳刻み)についても,5本のポールを立ててみました。それに依拠すると,6つの階層分けは,以下の表のようになります。


 どうでしょう。20代前半は学生バイトが多いので,見方に注意してください。50代になると,上位10%入りのラインは1000万超に跳ね上がります。

 結婚期の20代後半をみると,所得が325万円あれば,中央値超えの高い部類に入ります。女性が結婚相手に求める年収は500万円とかいう記事を目にしたことがありますが,このレベルの稼ぎがある人は,20代後半男性では10人に1人です。よほどの幸運がない限り,叶わぬ夢といえるでしょう。

 これは全国のデータから作ったものですが,言わずもがな,地域差もあります。私は,鹿児島と東京という両極の生活を知っていますので,この点は肌身で感じますね。この2都県の診断表も試作してみましたので,ご覧に入れましょう。


 やっぱり違いますね。私の年齢層(40~44歳)だと,フツーと判断される中央値は,東京は556万円,鹿児島は411万円です。私の場合,鹿児島の基準でみても,フツーのラインに達していないのですが…。

 40代前半でスタープレイヤーと判断されるラインは,東京は1069万円,鹿児島は688万円なり。こちらも大きく違っています。東京では普通よりちょっと上は,鹿児島ではスターです。

 赤字は,所得300万円がどのグループに含まれるかを示します。東京では,30代以降は,下位25%値にも満たないプアと判定されます。鹿児島の結婚期(20代後半)でいうと,所得300万円といったら,上位3分の1ほどにある「稼ぎ手」の部類です。前に書いたことがありますが,本県では,300万稼ぐ男性に会えたら「御の字」です。

 「年収**万円は高収入といえるか?」。こういうネタの記事をよく見かけますが,本記事では,データをもとにした判断の手法の例を紹介してみました。度数分布表から按分比例で5つの区分線を出し,それに依拠して6つの階層に分けるやり方です。その気になれば,もっと細かい階層分けも可能です。

 忘年会の季節ですが,「てめえの稼ぎは多いのか」という話題が出た時,スマホで本記事の診断表を見ていただき,盛り上がっていただければと思います。