2019年1月2日水曜日

平成の若者のワーキングプア化

 平成最後のお正月ですが,いかがお過ごしでしょうか。横須賀では,気持ちのいい青空が広がっています。

 元号が変わるということで,平成を振り返る記事や番組が目につきます。12月30日のNHKサイトの記事「平成で変わった家族の形」では,鮮やかな「X」グラフが提示されています。単身世帯の数が,夫婦と子の世帯の数を上回った,ということです。「おひとりさま」の時代の到来ですね。平成に次ぐ時代では,こういう変化を見越したサービスの提供が求められます。同記事では,冷凍食品の伸びのグラフも示されています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181228/k10011761401000.html

 私はこの記事に触発され,平成の大変化を可視化するグラフを数葉,ツイッターで発信しました。私のツイッターには,不気味な日本地図の画像が並んでいます。大卒就職率,女性の社会進出,離婚率,非正規率,若者のワーキングプア率…。平成の初頭と今では,模様の変化があまりにも明らかです。

この中で最も注目されているのは,若者のワーキングプア化です。「よくぞ可視化してくれた!」という声が多し。多くの人が実感しているのでしょう。平成最大の(負の)変化はコレです。

 地図の元データを見たい,自分の県の具体的な数値を知りたい,というリクエストもありましたので,ここにてお応えいたします。私は『就業構造基本調査』に当たって,20代後半の男性有業者のうち,所得が200万円に満たない人の割合を計算しました。働く貧困層(ワーキングプア)の比率です。

 実数を出すと,1992(平成4)年では29.7万人でしたが,2017(平成29)年では41.5万人に膨れ上がっています。少子化によりベース人口が減っていますので有業者全体に占める割合は7.8%から14.7%と,ほぼ倍増しています。最近では,20代後半男性の7人に1人がワープアです。

 これは全国の数値ですが,47都道鵜府県別に同じ値を出し,高い順に並べると以下のようになります。左は1992年,右は2017年のランキングです。


 どの県でも,若者のワーキングプア率が上がっています。1992年では1割を超える県は15県でしたが,2017年では富山県を除く46県です(うち9県は2割超!)。平成の四半世紀にかけて,若者のワーキングプア化(貧困化)は大きく進行しました。

 平成の大卒者の就職率カーブを描くと,世紀の変わり目をボトムとしたV字型になります。最近は景気回復・人手不足の影響で学生の就職率は良好,バブル期の水準にまで戻っています。しかるに収入は,当時に比して大幅減です。これは,雇用の非正規化が進んでいるためでしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/954845960487682049

 上表のデータを地図に落とすと,列島貧困化の状況が露わになります。ツイッターで発信したのは,コレです。1割を超える県に色をつけたマップです。ここに再掲します。


 これが,平成の時代にかけて進行した変化です。凄まじいとしか言いようがありません。これでいて,現政権の支持率が若者で高いというのですから,ちょっと怖い思いがします(絶望の時代では,人々は独裁者を希求するといいますが)。また,企業の内部留保率が過去最高というニュースには怒りを覚えます。富の分配がなされていません。

 これは,当の若者の問題にとどまらず,社会全体にも跳ね返ってきます。ツイッターで多くの人が言われていますが,上記の地図に象徴される若者の貧困化が,未婚化・少子化の原因になっていることは間違いありません。

 平成の30年間にかけて,上の世代では理解困難なまでに,若者の自立が難しくなりました。バブル崩壊後,不況は深刻化し,97年から98年にかけて自殺者は大幅に増え,3万人を越えました(98年問題)。当時の政権のキーワードは「痛みを伴う改革」といったもので,若者の自立支援は後回し。離家して,結婚・出産することも容易ではなくなりました。「パラサイト・シングル」という言葉が生まれたのもこの頃です(山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』ちくま新書,1999年)。

 よくいわれる「若者の**離れ」ですが,その大半が「おカネの若者離れ」に由来することを認識したほうがいい。

 若者の収入が目減りしているのは,上述のように,雇用の非正規化による部分が大です。人件費削減のため企業が雇用の非正規化を進めているためですが,若者自身が,柔軟・自由な働き方を求めている面もあります。

 12月29日の記事でも書きましたが,21世紀は「パート」労働の時代になると思っています。少子高齢化により,国民の多数が体力の弱った高齢者になること,世の中の基底的な仕事はAIがやってくれるようになること,が根拠です。時代の必然ともいえましょう。病的ともいわれる日本の長時間労働を正す上でも,雇用の非正規化は悪いことではありますまい。

 ただ日本では「働かざる者食うべからず,正社員にあらずんば人にあらず」という価値観が根強いため,パート労働者は一段低い存在とみなされ,正規職員と明瞭な待遇差をつけられています(同じ仕事を同時間こなしても給与差がある,社会保障の対象にならない…)。それがゆえに,上記の地図のような異常事態が生まれていると。

 しかし,時代は変わっているのです。国がなすべきは,身分差別とまで形容される正規・非正規の待遇格差を是正することです。昨年夏に成立した働き方改革法では,それが志向され,職務内容が同じ場合は均等待遇を確保すること,正規・非正規の差をつける場合は合理的な説明をすること,が雇い主に義務付けられます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html

 正社員として働くことを欲し,一生懸命シューカツしている学生さんも,一つの会社に定年まで身を委ねる,という気持ちは持たないほうがいいでしょう。会社も,そんな体力はないのです。正社員の副業が奨励されていますが,「組織に寄りかかってばかりいないで,自分で稼ぐ術も身に付けてくださいよ」というメッセージです。そもそも人生100年の時代,一つのことだけでずっと食っていくなど,到底無理な話です。

 今の会社を切られたら「おしまい」の人間になるべからず,複数の顔を持ちましょう。これからは,没頭できる趣味のある人が強くなるでしょう。幸い,SNSという文明の利器もあります。好きなことへのハマりっぷりを,じゃんじゃん発信すればいい。上手くいけば,それでメシが食えるようにもなります。

 見ている人は,ちゃんと見ていますからね。プロ無職の「るってぃ」さんには,年間300万円出してくれるスポンサーがついているそうな。この人が,SNSで継続的に面白いコンテンツを発信続けていることが買われた結果です。
https://r25.jp/article/570888727721531625

 20世紀は「フルタイム」「正社員」の時代でしたが,21世紀は「パート」「フリーランス」の時代になると思います。厳しいと同時に,楽しい時代の幕開けではありませんか。話が広がりましたが,今回データでみた若者のワーキングプア化は,時代の変化に制度が追い付いていない過渡期の病理であると信じましょう。

 ではでは,よいお正月をお過ごしください。今年も,よろしくお願い申し上げます。