2019年1月15日火曜日

一人親世帯と二人親世帯の学力差

 家庭環境と学力の相関関係は,あまりにも知れ渡っています。教育社会学で為されてきたのは,家庭の所得や親の職業との相関分析です。

 しかるに,家族形態による差というのも考えられます。たとえば,一人親世帯と二人親世帯の差というのはどうでしょう。二人親を前提に諸々の制度が組み立てられているわが国では,一人親家庭は過酷な状況に置かれています。後で述べますが,日本の一人親世帯の子どもの貧困率は,きわめて高い水準にあります。

 そうである以上,子どもの学力,ひいては教育達成に強く影響すると考えるのが普通です。ざっとネットで検索したところ,一人親世帯と二人親世帯の学力差は明らかにされていないようです。そんなデータあるわけないだろ,と言われるかもしれませんが,見つけました。OECDの国際学力調査「PISA 2012」です。

 年次がやや古いですが,2012年に実施された調査では,同居している家族について尋ねています。これをもとに,一人親家庭と二人親家庭という変数が設定されています。これを学力とクロスさせれば,目的の分析をすることができます。

 日本の15歳生徒のデータをみると,一人親世帯の子は全体の12%となっています。今となっては,全生徒の8人に1人がシングル家庭の子です。決して少数派ではありません。読解力の平均点を出すと,一人親世帯の生徒は515点,二人親世帯の生徒は546点です。両者の間では31点もの開きがあります。やはり,差があるものですね。

 はて,他国と比べて,この差は大きいといえるのか。調査対象の34か国(OECD加盟国のみ)について,同じデータを作ってみました。下記サイトのリモート集計機能を使ったことを申し添えます。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 以下の表は,一人親世帯と二人親世帯の点数差が大きい順に,各国を配列したものです。


 なんと,家庭環境による読解力の格差が最も大きいのは,日本となっています。

 私は前に,家庭内における「関係の貧困」と国語の得意意識の相関関係を明らかにしたことがあります。家族との会話頻度が高い群ほど,国語の得意率が高い,という傾向です。家庭の年収を統制しても,有意な傾向がみられました。
https://dual.nikkei.co.jp/atcl/column/17/1111184/100800013/

 日本の一人親世帯の大半は母子世帯ですが,賃金のジェンダー差ゆえ,母親は尋常ではない長時間労働を強いられます。家庭での子どもとの接触時間も限られがち。もしかすると,こういうことが影響しているのかもしれません。塾通いや参考書購入等の費用が賄えない,という経済的要因よりもです。

 上記は読解力の格差ですが,理系の学力のほうはどうでしょうか。科学的リテラシーの平均点を出すと,日本の場合,一人親世帯が526点,二人親世帯が554点と,28点もの開きがあります。読解力と並んで,こちらも大きな格差です。

 上表の読解力の点数差を横軸,科学的リテラシーの点数差を縦軸にとった座標上に,34か国を配置したグラフにすると,以下のようになります。点数差とは,二人親世帯の平均点が一人親世帯より何点高いか,です。


 日本は右上にあり,読解力,科学的リテラシーとも,家庭環境による差が大きいことが知られます。日本は,国際的にみて生徒の学力が高い国なのですが,このような格差を内包していることを忘れるべきではありません。

 どうして,こういうことになるのか。冒頭で述べたように,日本は,一人親世帯に諸々の困難が凝縮する社会だからです。それは,一人親世帯の子どもの貧困率が凄まじく高いことに表れています。

 貧困率とは,所得が中央値の半分に満たない世帯で暮らす国民の割合をいいます。以下のグラフは,一人親家庭の子どもの貧困率を高い順に並べたランキングです。日本は『国民生活基礎調査』,他国は「Family Database」から得た数値です。


日本の一人親世帯の貧困率は50.8%で,ブラジルの次に高くなっています。「日本は,子どもの7人に1人が貧困!」などとメディアで騒がれますが,一人親世帯の子に限ると半分以上です。二人親世帯(オレンジのドット)との差が最も大きいことにも注目です。

 このような条件が,子どもの学力,ひいては教育達成(どの学校段階まで行けるか)に影響しないはずがありません。未婚の母子世帯の所得控除が認められ,低所得層の大学等の学費が無償化される見通しが立ちました。この流れを加速化していってほしいと思います。

 また,一人親世帯の多くは母子世帯であることを考えると,シングル家庭の貧困の要因として,賃金のジェンダー差があるのは明らかでしょう。日本の一人親世帯をみると,親が働いている世帯のほうが,働いている世帯よりも貧困率が高いという,何とも奇妙な現象が起きています。シングルマザーが就労しても,生活保護レベルの給与も得るのが難しいことの証左です。
https://twitter.com/tmaita77/status/1084219496112345089

 日本の子どもの貧困は,社会福祉の域を超えた,雇用労働全体に関わる問題であることも見落としてなりますまい。