2019年3月14日木曜日

親の養育態度と自尊心

 子どもの社会化に際し,基礎集団としての家庭は重要な役割を果たします。親がいるかどうかという外的な構造面よりも,親が子にどう接しているかという内面が重要です。

 そこで出てくるのが,親の養育態度です。やさしい親もいれば厳しい親もいますが,そういう性向が一定の持続性を持つとき,養育態度という概念で表されます。心理学者のサイモンズが,親の養育態度の4類型を提示し,子どもの人格形成との関連を明らかにしているのは有名です。

 国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動等に関する調査』(2014年度)では,対象の児童・生徒に,家の人に褒められる頻度と叱られる頻度を訊いています。選択肢は,以下の4つです。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/

 ①:よくある
 ②:時々ある
 ③:あまりない
 ④:ない

 ②を選んでいる児童・生徒が多いので,①をよく褒められる(叱られる)群とし,②~④をよく褒められない(叱られない)群と括ります。褒められ頻度,叱られ頻度をこのように2分し,両者をクロスさせると,親の養育態度の4類型ができあがります。下図のような感じです。


 褒められ,叱られる「ノーマル」型,叱られるだけの「厳格」型,褒められも叱られもしない「放任」型,褒められるだけの「溺愛」型,の4タイプです。

 叱るというのは,理路整然と子どもが納得いくように説き伏せることで,頭ごなしに怒るのとは区別されますが,そういう細かい部分は,ここではオミットしておきます。

 私は,褒められ頻度と叱られ頻度の回答をクロスさせ,調査対象の児童・生徒(小4~6,中2,高2)を,上記の4タイプに分類しました。上記調査の個票データを使ってです。下の帯グラフは,4タイプの構成の学年変化を表したものです。


 どの学年でも,よく褒められも叱られもしない「放任」型が最も多くなっています。学年を上がるにつれ,このタイプの比重が増してきます。小4では29.2%だったのが,高2では62.8%,3人に2人です。

 加齢とともに子離れ(親離れ)が進むのが常ですが,その表現ともいえるでしょう。しかし,親子関係の希薄化をここまで露骨に見せつけられると,ちょっと寂しいですね。進路選択の時期は,親子でもっと語らい,主張をぶつけ合うことがあってもいいように思いますが…。

 まあ,年齢を上がるにつれ,自身の思考や行動の拠り所となる「重要な他者」は,親から友人へと移行するのが常です。IT化が進んだ現在では,ネット上の友人(ネッ友)の影響も大きいかな。

 ところで,親がどういう養育態度をとりやすいかは,家庭の経済力によって違っています。小学校4~6年生については保護者調査もしており,家庭の年収とのクロスをとることができます。下図は,家庭の年収に応じて,4タイプの内訳がどう変わるかをグラフにしたものです。サンプル総数は6404人で,各群ともサンプルサイズは十分です。


 年収が高い家庭ほど,褒め,かつ叱る「ノーマル」型が多くなっています。叱るだけの「厳格」型,褒めも叱りもしない「放任」型は,低所得層ほど多い傾向です。

 しつけの階層差といいましょうか,分かる気がしますね。親の金銭的・精神的余裕の差の表れかなと思います。褒めるには,子どもの些細な取柄まで拾ってあげないといけないので,結構労力がかかるのですが,低所得層の親にはその余裕がない。嫌でも目に付く短所をあげつらい,叱ってばかり。いやそれすらせず,放任になってしまう。低所得層の場合,叱るの中に,頭ごなしに罵倒する「怒る」が多く交じっているのではないかと思われます。

 これをカバーすべく,学校では「褒める」指導に重点を置くべきです。家庭環境に恵まれない子の場合,なおさらのこと。子どもの見えざる取柄を拾い上げ,それを認め,自信をつけさせるのも,教員の重要な力量といえましょう。

 最後に,親の養育態度が子どもの人格形成に与える影響についてです。褒められ頻度と叱られ頻度のクロスにより,養育態度の4類型を導き出したのですが,子どものメンタルとの関連しているでしょう。ここでは,自尊心とのクロスをとってみます。

 発達段階の影響を除くため,小4~6年生のサンプルに限定します。また家庭環境の影響も除去すべく,家庭の年収も揃えましょう。年収分布のボリュームゾーンである,400~599万円の家庭を取り出します。

 このような限定をして,養育態度の4類型と自尊心の関連をとってみました。以下の帯グラフは,4つの群ごとに,自尊心(今の自分が好きだ)の自己評定の分布がどう異なるかを示したものです。


 「とても思う」と「少し思う」の比率をみると,溺愛,ノーマル,放任,厳格という順序です。やはり,叱られるだけの子どもは委縮してしまうようですね。

 叱られて自己の欠点を正し,褒められて自信を持っている「ノーマル」型の自尊心が最も高いと思っていましたが,褒められるだけの「溺愛」型のほうがちょっと高いようです。これは,叱るの中に「怒る」が混じってしまっている関係上,「ノーマル」型の自尊心が下がってしまっているためではないかと推測されます。

 私としては,子どもが納得いくように「叱る」こと,そして「褒める」ことの双方を行う,「ノーマル」型の養育態度を支持したいです。親にすれば労力が要ることですが,子どもが自信をもって社会のあらゆる領域に参画し,自己を成長させていくことを可能にする自尊心を育むためには,必要不可欠なことだと思います。

 日本の子どもの自尊心は他国に比して低いのですが,親に余裕がなく,養育態度に歪みが起きやすいからかもしれませんね。働き方改革は,未来を担う子どもたちの健全な育ちのためにも必要なんだなと思います。

 親の養育態度は,子どもの人格形成と関連していることが知られます。頭ごなしに怒るのは容易いこと。労力を伴うのは,子どもの些細な取柄を拾って褒め,悪いことをしたら,ちゃんと理由を示しながら叱ることです。家事は機械や外注で省力化し,こちらのほうに力を入れたいものです。