2020年10月28日水曜日

転入超過数地図の変化

  コロナ禍で,国民の生活は甚大な影響を被ってますが,生活不安のようなマイナス方向と同時に,プラス方向の変化も見受けられます。対面での取引の見直し,テレワーク,そして地方移住の増加などです。

 最後の地方移住ですが,東京の人口の出入りの統計によると,7月以降,転入者よりも転出者が上回っているとのこと。東京のような大都市は,転入が転出よりも多い,つまり転入超過の状態であるのが常ですが,変化の兆しが統計にも表れてきました。

 昨日,総務省『住民基本台帳人口移動報告』の2020年9月のデータが公表されました。都道府県別に,当該月の転入者数と転出者数を知れます。東京都のデータは以下のごとし。カッコ内は,2019年9月の数値です。

 転入者数=27006人(30590人),転出者数=30644人(27228人)

 今年の9月は,転入者より転出者が多くなっています。昨年のデータ(カッコ内)ときれいにひっくり返っているのも興味深い。人口を吸い寄せるのが常の東京都も,転入超過数がマイナスに転じています(27706-30644=-3638人)。

 東京から転出した人は,どこかの県に居を移していることになります。これぞ地方移住なんですが,それが進んでいる様を地図上で可視化できます。以下は,9月の転入超過数がプラスの県に色をつけたマップです。左は2019年,右は2020年です。


 どうでしょう。今年になって,転入超過数がプラスになった県が地方にも増えていることが分かります。北海道,北東北に色がついてますね。岩手県の達増知事も,「転入超過数がプラスになった」とお喜びです。

 北関東にも色がつき,マイナスに転じた東京都を,周囲の近郊県が取り囲む形になっています。遠く離れた地方に行くのはためらわれるが,週に何回かなら都心に通える近郊への移住が増えた,ということでしょうか。神奈川県の三浦半島もおススメです。京急で品川まで1本。ぜひご検討を。2017年春に当地に移住した私から申し上げます。

 「密」を回避するためテレワークを導入する企業が増えてますが,それなら東京にいる必要はないですからね。各種のイベントや文化施設は東京に多いですが,活動自粛が続いており,文化・娯楽面のメリットもなし。あるのは高い家賃だけ。東京からの脱出が増えるのは,頷けるところです。

 以下のグラフによると,東京が首位からドンケツに一気に落ちているのが知られます。


 以上は9月のデータですが,こういう傾向が急に生じたのではなく,徐々に進んできたことも示しておきましょう。以下のグラフは,4~9月の月別の転入超過数を折れ線グラフで描いたものです。青色は2019年,オレンジは2020年です。


 大学進学や就職でドッと人が入ってくる4月の転入超過の山も,今年は昨年の3分の1ほどしかなく,7月以降は転入超過がマイナスの状態が続き,前年同時期との落差も大きくなっています。10月以降もこの傾向が続けばと思います。人口過密の東京から地方(近郊)へと,人が動くのはよいことです。「新しい生活様式」の必然の結果でもあります。

 では,どういう人が東京を出て行っているのでしょうか。今まで見てきたのは人口全体のデータですが,老若男女がいます。ジェンダーの差はあまりないですが,年齢差別にみると,明確な転出層を見いだせます。9月の年齢層別の転入超過数を折れ線でつないだグラフにすると,以下のようになります。転入超過数の年齢カーブの対前年比です。


 2020年では,20代の転入超過数の山はなくなり,30~40代ではマイナスに大きくふれています。東京を出て行っているのは,働き盛りの30~40代みたいです。テレワークが可能になったことに加え,「密」な環境を避けて子育てしたい,という親御さんなどでしょうか。

 地方ほど,1学級当たりの子どもの数は少なくなっています。2019年度の公立小学校の中央値をみると,東京は30.0人であるのに対し,最も少ない高知県は16.6人です。高知といえば,イケダハヤトさんがおられる所ですが,学級密度は東京の半分なんですね。移住して「密」を避け,少人数教育の恩恵にあずかりましょう。

 大変な時代ですが,長らく続いてきた慣行を覆す変化も出てきています。東京脱出は,その典型の一つです。社会は変わる,だから社会学は面白い。それをいちはやく「見える化」するのが私の商売です。