2020年12月2日水曜日

都心から近郊への人口移動

  本日公開のニューズウィーク記事にて,東京から人口転出が起きていることを示しました。コロナ禍の影響であるのは言うまでもありません。テレワークが可能になったことに加え,イベントや催いも自粛継続中。東京にはもはや「密」と高い家賃しかなく,脱出が増えているのは,頷けるところです。

 しからば,どこへ転居しているのか。既存統計で分かることを詰めてみようと思います。

 まずは,最新のデータにて,東京都心から人口が出て行っていることを可視化しておきましょう。東京都の人口統計に,都内の自治体別の人口が月別に出ていて,現在,11月1日時点の人口まで公表されています。前月(10月1日)と比して人口が増えたか減ったかで,都内23区を塗り分けた地図にしてみました。左は2019年,右は2020年のマップです。


 色がついているのは,10月1日より11月1日の人口が多い,すなわち10月中に人口が増えた区です。2019年では,この時期,23区全てで人口が増えてましたが,今年は激変しています。人口が増えたのは3区(千代田,中央,台東)だけで,残りは人口減少(流出)に変わっています。

 たった1年間で,ものすごい変わりようですね。コロナ,恐るべし。冒頭のニューズウィーク記事でも書きましたが,今や東京は,人口の最流出地域です。上記の図は,都心脱出傾向の可視化に他なりません。

 では,どこに居を移しているか。総務省の『住民基本台帳人口移動報告』によると,今年10月の東京からの転入者数を県別にみると,1位は神奈川(7474人),2位は埼玉(6268人),3位は千葉(4693人),4位は大阪(1369人),5位は愛知(903人),となっています。東京に接する3県への移動が大半ですね。

 地方移住というよりも,都心に週何回かなら通える近郊への移住が進んでいる,というのが本当の所のようです。まあこれも,東京一極集中の弊が緩和されるという点で,歓迎すべきことであると思います。

 東京から人口を吸い寄せている,埼玉・千葉・神奈川に絞って,もう少し深めてみましょう。これらの県のどこで人口が増えているか。各県の人口統計から,10月の人口増加が大きい自治体(市町村)を明らかにしてみました。下表は,埼玉県と千葉県内において,10月中に人口が増えた市町村の一覧です(11月1日の人口が,10月1日より多い市町村)。埼玉の人口統計はココ,千葉はコチラです。神奈川の市町村別人口は,9月1日時点までしか公表されてませんので,ここではオミットしています。


 数字は,11月1日と10月1日の人口の差分です。埼玉をみると,首位は越谷市,2位は富士見市,県庁所在地のさいたま市も増えていますね。越谷市は武蔵野線と東武伊勢崎線が通っているエリアで,私の大学院時代の先輩がお住まいだったような。東武東上線沿線も強い(和光,川越,朝霞…)。都心への通勤の利便性でしょうか。

 千葉をみると,3ケタ増えているのは船橋,流山,柏,八千代,印西といった北西エリアです。千葉は広いですが,都内への通勤の利便性はキープしようという意図が感じられます。流山市は「母になるなら流山」というフレーズで知られ,子育て支援に力を入れている自治体ですね。東京を出て行っているのはどういう年齢層化というと,30~40代の子育て年代です。東京脱出民のニーズをうまく汲んだことが,功を成したといえるかもしれません。

 上記の自治体名の表では,どういうエリアで人口が増えているかという地理的位置がイメージしにくいので,人口増加地図にしておきましょうか。首都圏(1都3県)の区市町村の白地図を用意し,今年10月中に人口が増えた自治体に色を付けてみました。11月1日の人口が,10月1日より多い自治体です。神奈川県は,上述のように9月1日までの人口しか出てませんので,8月中に人口が増えた自治体に色をつけていることを申し添えます。


 都内23区がほぼ真っ白で,それを円状に取り囲むように色がついています。小学校の社会科で習ったドーナツ化現象みたいです。千葉の西部,埼玉の南東部,東京市部,神奈川の北東部です。東京湾アクアラインで都心とつながっている,千葉の木更津市も色がついているのも面白い。遠方への移住の前に,ひとまず近郊移住。こんなところでしょうか。

 神奈川の鎌倉や藤沢も人口が増えていますね(100人超)。海が身近にある,住みよいエリアです。私が住む横須賀市は残念ながら,近郊移住の地に選ばれてないようで,人口は増えていません。よく藤沢と対比されますが,安くて速い京急で品川とダイレクトにつながっています。横須賀の南の三浦市もよし。きたれ,三浦半島へ。

 コロナ禍は,東京に集中し過ぎた人口を吸い上げられるという点で,近郊の自治体にとってはチャンスでもあります(不謹慎な言い方ですが)。上述のように,東京を脱出しているのは,30~40代の子育て年代です。この層のニーズに適う,子育て支援を充実させるといいのは,千葉の流山市が実証しているように思います。

 遠い関西では,兵庫県の明石市が子育て支援に非常に積極的で(給食無償,養育費取り立て,おむつ宅配による見守り…),子育てファミリーを呼び寄せ,税収を着実に伸ばしています。

 今はまだ近郊移住の段階ですが,徐々に地方移住のステージに達し,人口の地方分散が進めばよいと願います。自然な成り行きに任せるのではなく,それを人為的に促すのは国の役割です。