2020年12月11日金曜日

フルタイム就業者の収入性差の国際比較

  だんだんと寒くなってきました。ステイホームの年末ですが,いかがお過ごしでしょうか。

 2018年のISSP(国際社会調査プログラム)の調査結果が公表されました。毎年,特定の主題を立てて,日本を含む各国の意識調査をしています。ホームページから個票データもダウンロードでき,大変ありがたいです。

 2018年の主題は「宗教」で,私が関心を持つ設問はあまりありませんでした。しかし貴重なのは,毎年共通の属性を問う設問です。性別,年齢,就業状態,配偶関係,世帯人数などいろいろですが,就業者の年収(月収)も尋ねています。個票データを使えば,各国の男女別の分布を出し,平均値を計算して比較することもできます。

 稼ぎのジェンダー差が大きいのはどの国か,という問いへの答えを出してみようと思います。この手のデータはILOサイトのデータベースにもあった気がしますが,ここでは,フルタイム就業者に絞った比較をします。全労働者だと,フルタイム・パートの構成が影響しますからね。

 私は,上記のISSP調査(2018年)の個票データを使い,各国の25~54歳のフルタイム就業者のサンプルを取り出しました。フルタイム就業者とは,週35時間以上働いている人です。この条件に当てはまり,収入の設問に有効回答をしている就業者は,日本だと男性が236人,女性が146人です。この人たちの年収の分布を整理すると,以下のようです。


 年収の区分は,階級値で示されています。150万円は100万円台,250万円は200万円台という具合です。マックスの2000万円は,年収1500万円以上を指します。

 分布をみると,同年齢のフルタイム就業者でも違いますね。最頻階級は,男性は400万円台ですが,女性は何と100万円台です。フルタイム就業者でこれです。男女とも低いですが,女性の低さには驚きます。200万未満(フルタイムワーキングプア)の率は,男性は3.8%ですが,女性は31.5%にもなります。

 上記の表から平均値を出してみます。やり方はご存知ですよね。男性の場合は,以下のようにして求めます。

 {(50万×1人)+(150万×8人)+…(2000万×1人)}/236人=526.4万円

 男性は526万円,女性は303万円と出ます。男性は女性の1.74倍,同じフルタイム就業者でこれです。不合理ともいえる格差です。賃金の性差に加え,女性は家事・育児等による制約も課されるためでしょう。

 それは多かれ少なかれ,どの社会も同じ。収入が「男性>女性」なのは万国共通。日本よりそれが顕著な国もあるかもしれない。こう言われるでしょうか。ISSPは国際調査ですので,他国のデータも出せます。上記と同じように,各国の25~54歳のフルタイム就業者の収入分布を出し,男女の平均値を計算しました。

 以下は,日本を含む7か国の一覧です。算出された平均値は各国通貨で,日本とアメリカは年収,他は月収によります。


 7か国のデータですが,「男性/女性」倍率は日本が一番大きいですね。日本は1.74倍ですが,お隣の韓国は1.40倍,アメリカは1.24倍,北欧のスウェーデンは1.07倍で,男女差はほとんどありません。女性の社会進出先進国の色が出ています。この国では,保育所の枠を用意するのは自治体の義務です。

 他の調査対象国のジェンダー倍率も出してみます。2018年のISSPの個票データから,27か国の男女別の平均年収(月収)の計算できます。以下は,倍率が高い順に並べたものです。日本,ノルウェー,ニュージーランド,アメリカは年収,他は月収によることを申し添えます。


 フルタイム就業者で比して,男性は女性の何倍か? むむむ,日本の1.74倍は,データが出せる27か国の中で最も高くなっています。

 われわれの感覚からすれば,もはや違和感もないレベルですが,国際データの中で位置づけてみると,異常であることが分かります。日本は,収入のジェンダー差が最も大きい社会なり。

 フルタイム就業者の平均年収の「男性/女性」倍率が1.74倍,これを当たり前のことと見なしてはいけません。日本はまだまだ,ジェンダー平等を進める余地が多分にあることを教えられます。