2021年1月17日日曜日

九州の高学歴女性

  未婚化が進んでいますが,どういう人が未婚の状態にとどまっているかを知らないといけません。

 身も蓋もない言い方ですが,男性の場合は,低学歴・低収入といった不利な属性の人です。この2つはきれいに相関するというのではなく,私みたいに学歴は博士卒,しかし収入は並以下という,ちぐはぐな人もいます。後者が仇となってか,私は44歳の今でも未婚です。定職に就いてない,多額の借金(奨学金)がある,という要素もありますが。

 しかし女性にあっては,この定理は当てはまりません。30~40代の男女有業者を学歴別に分け,未婚者のパーセンテージを計算し,折れ線グラフにすると以下のようになります。2017年の『就業構造基本調査』のデータを加工して作成しました。


 男性は低学歴層が高い傾向です。中卒は34.4%,高卒は32.2%,大卒は27.5%となります。院卒になるとちょっと上がりますが,私のような高学歴ワーキングプアが多くなるからでしょうか。

 対して女性は反対で,学歴が上がるほど未婚率が高くなります。高卒は21.2%,大卒は24.5%,院卒は37.3%,4割近くです。①学のある女性は敬遠される,②相手の男性への要求水準が高くなる,③結婚で失うものが多くなる,という事情が考えられます。

 ③については聞いたことがありますね。大学院博士課程を終え,大学の専任教員のポストを得た女性研究者が,結婚相手の実家に挨拶に行ったところ,「仕事を止めることを視野に入れてほしい」と言われたそうです。研究者のポストを得るのに,どれほど苦労したと心得ているのか…。アメリカだったら裁判を起こされるのではないでしょうか。

 できる女性の未婚率は高くなる。今となってはよく知られていますが,地域による違いもあります。30~40代女性全体の未婚率と,同年齢の大学・大学院卒の女性の未婚率を,東京と鹿児島について出すと以下のようです。やや古いですが,2010年の『国勢調査』によります。配偶関係不詳は分母から除いて計算した数値です。

 ①:30~40代女性全体の未婚率
  東京=29.4% 鹿児島=21.5%

 ②:30~40代の大学・大学院卒女性の未婚率
  東京=30.7% 鹿児島=30.3%

 東京でも鹿児島でも,高学歴女性の未婚率のほうが高くなっています。しかしその差は鹿児島で大きく,東京では1.3ポイントですが,鹿児島では8.7ポイントもの開きがあります。

 そういえば中学のとき,いましたねえ。数学がバリバリできる女子生徒で,教師から「お前,嫁のもらい手が無くなるぞ」とからかわれていました。郷里のことを悪く言うのではないですが,土地柄のようなものもあるかもしれません。

 上記の①と②を,47都道府県すべてについて出してみました。結果を視覚的なグラフで表しましょう。横軸に②,縦軸に②と①の差分をとった座標上に,47の都道府県を配置しました。前者は高学歴女性の未婚率の絶対水準,縦軸は全女性と比した相対水準です。


 どうでしょう。右上は,大卒女性の未婚率が高く,かつ全女性との差も大きい県です。なんとなんと,沖縄を筆頭に,九州の全県がこのゾーンに位置しています。九州では,高学歴女性は結婚しにくい。こんなことが言えそうです。

 学のある女性への眼差しの地域性といいますか,疎まれる,失うものが多い…。こういうことを意識して,都会の大学をでた女性が郷里に戻ってこないとしたら,大きな損失です。前に,若年女性の回復率という指標を県別に計算しました。同一コーホートの10代前半と20代後半の女性人口の対比です。九州の県でこの値が軒並み低い傾向はありませんでしたが,高学歴女性に限ると,話は違うかもしれません。

 ちなみに上図の縦軸,すなわち大卒女性の結婚のしにくさは,各県の女子生徒の大学進学率と相関しています。どういう傾向かは察しがつくかと存じます。下図は,今年春の女子の4年制大学進学率(18歳人口ベース,浪人込み)との相関図です。大学進学率の計算方法については,こちらの記事をご覧ください。


 横軸は,大学・大学院卒女性の未婚率が,全女性より何ポイント高いかです(30~40代のデータ)。すなわち,高学歴女性の結婚のしにくさの指標です。図をみると,この数値が高い県ほど,女子の大学進学率が低い傾向にあります。相関係数は-0.648で,統計的に有意です。

 右下は,大卒女性の未婚率が相対的に高く,かつ18歳女子の大学進学率が低い県ですが,福岡を除く九州の県が見事に固まっています。横軸は今から10年以上前のデータでタイムラグがあるとはいえ,偶然にしてはできすぎています。

 高学歴女性への偏狭な眼差し…。地域に漂うこうしたクライメイトを意識し,女子生徒の進路展望から大学進学が外れているとしたら,問題であるといえましょう。2015年でしたか,鹿児島県の知事が「三角関数を女子に教えて何になる」と発言し,猛バッシングを浴びました。あれから5年以上経過しましたが,状況が変わっていることを切に願うばかりです。

 昨年(2020年)の『国勢調査』では,学歴も調査項目に入れられ,大学と大学院は分けてきかれました。大学院卒の女性に限ったら,ここでみた傾向はもっとクリアーかもしれません。いや,そんなことがあってはなりません。

 先日,「高学歴Uターン女子が田舎で経験した男尊女卑」という記事を見かけました。ズバリ,結論部で次のように言われています。「なぜ若者が東京や大阪に出たっきり帰らないか,女は子どもを産む道具だくらいに考えている経営者がたくさんいるからですよ」。

 ここで出したデータの背景が垣間見られます。女子,とりわけ高学歴女子のUターンを阻んでいるのは,仕事がないという事情だけでなく,地域の偏狭な文化である可能性も否定できないのです。それが地域の存続を脅かしていることは,言うまでもありません。

 こうした問題が,特定の地方に集中しているのではないか。データを添えて,注意を喚起しておこうと思った次第です。