育児・介護休業法が改正され,男性の育休取得が後押しされることになりました。制度の細かい変更事項については,厚労省のホームページに譲りましょう。
こういう法改正は,世の中の声(世論)に押されてのことであるのは,疑いようがありません。それほどまでに,日本のパパの育休取得状況は酷い。育休取得を申し出た男性社員に対し,「男が育休だと?ふざけんな」という怒号が全国の会社で飛び交っています。
いわゆる会社(上司)の無理解ですが,これを正さない限り,法を変えても,男性の育休取得促進は難しいのでは,という懸念も出ています。私もそう思いますが,男性の育休取得を阻んでいる要因としては,もっと大きなものがあります。
それは後述するとして,まずは男性の育休取得の実態をデータで可視化しましょう。ここでお出しするデータの特徴は,他国と比較することです。
内閣府の『少子化社会に関する国際意識調査』(2020年度)では,20~40代の子持ちの有配偶男性に対し「直近の子が生まれた時,出産・育児に関する休暇をとったか」,同じ条件の女性に対し「直近の子が生まれた時,あなたの配偶者は出産・育児に関する休暇をとったか」と問うています。「とった」と答えた人に対しては,その期間も尋ねています。
日本のデータをみると,「とった」と答えた人の割合は17.9%で,取得した休暇の期間は「2週間未満」が82.3%と大半で,「6か月以上」という長期は6.2%しかいません。
育休とりましたか? とった人はその期間を答えてください。二段階(枝分かれ)設問ですが,上記の結果をグラフでどう表現したものでしょう。できれば一つで視覚化したい。対象者全体を正方形に見立て,横軸で育休の取得の有無(とった,とらなかった),縦軸で育休期間を示しましょう。
以下は,調査対象の4国の結果を,この方式で図示したものです。
どうでしょう。横軸をみると,日本のパパの育休取得率が低いことが知られます。上述のように日本は17.9%ですが,フランスは58.6%,ドイツは63.0%,スウェーデンに至っては86.7%です。すごい違いですね。
次に縦軸を見ると,日本の育休期間は2週間未満が多くを占めますが,他国はもっと長く,スウェーデンでは半分近くが半年以上の長期です。これも「!」ですね。グラフで見ると,日本の情けなさが露わになります。「こんなだから,日本は少子化が進むんでねえの」という声が聞こえてきそうです。
はて,どうしてこんな状況になっているのか。育休をとらなかった男性,夫が育休をとらなかった女性にその理由を複数回答で訊いた結果をみると,日本では,1位が「業務が繁忙で休めなかった」(39.4%),2位が「出産・育児の休暇制度がなかった」(37.4%),3位が「休むことによる減収が怖かった」(26.2%)です。上司の無理解より,こうした理由が大きくなっています。
2番目は何なんでしょう。「育休の制度がない」って,法律では規定されていることなんですが。おそらく自分の勤務先の会社にない,就業規則に書いてない,ないしは育休取得を申し出たところ「そんな制度はウチにはない」「法律の育児休業は大企業に適用されるもので,ウチみたいな零細企業にはない」とか言われたのでしょうか。
こんな思い込みを持たされているとしたら恐ろしい。法で定められている育児休業は,全ての労働者に適用されるものです。人が属する集団(社会)にはレベルがありますが,全体社会のきまり(法律)よりも,自分が属する小社会(会社)の決まりが優先されると思っているのでしょうか。
所属集団の流動性が低い日本では,こういう思い込みが蔓延っています。ウチ社会とソト社会の敷居が高いことに由来する,と言ってもいいでしょう。たとえば学校での教師の暴力(体罰)は等閑視されますが,一般社会の刑法に即せば立派な暴行罪(傷害罪)です。学校の外で子どもを叩いたら即110番。しかし学校という部分社会の内部では,全体社会のきまり(法)は適用されない。こういう治外法権の小社会では,世間一般の感覚では理解しがたい「ブラック校則」も幅を利かせています。
ウチの会社には育休制度なんてない。こういう思い込み(刷り込み)は,子どもの頃より,世間ずれした学校での決まり(校則)を絶対視するよう強いられてきたことによるかもしれませんね。
しかし状況は変わってきていて,文科省がブラック校則を見直すよう通知を出しましたし,学校での教師の体罰も警察沙汰になるようになってきました。ウチ社会とソト社会の敷居も崩れつつあります。これが進み,労働者が冷静・適正な判断ができるよう願ってやみません。