さて,ふと目にしたNHKのニュースによると,コロナ禍の影響で,フリーランスの働き方を選ぶ人が増えているとのこと。正社員として勤めていた先の仕事が減っているためでしょう。あるいは,自宅でPCを使った副業をしてみて,これは本業でいけるかもしれない,という展望を持った人もいるかもしれません。
しかし,そうは甘くないのが現実。フリーランスのフリーは自由,ランスは兵隊という意味で,元々の意味は「自由兵」ですが,フリーとは「不利ー」で,何の保障もない「不利兵」と揶揄する言い方もあります。上記のNHK記事でも,フリーランスの保護するセーフティネットの整備が不可欠と指摘されています。
給与も悲惨をきわめています。データで示しましょう。
資料は,毎度使っている『就業構造基本調査』(2017年)です。コチラの統計表から,有業者の年間所得分布を従業地位別に呼び出せます。正規雇用者,非正規雇用者,そしてフリーランスのデータを出してみます。フリーランスとは,従業地位が「雇人のいない業主」のことです。
なお労働時間も入れられますので,普通に働く人だけを取り出してみましょう。年間の就業日数が250~299日,週の就業時間が43~48時間という人に限定します。月に22日,1日あたり8~9時間ほど働いている人達です。あと一つ,性別も組み込み,男性と女性に分けます。言わずもがな,稼ぎには大きな性差があるからです。
これは,家計補助やお小遣い稼ぎの短時間労働は含んでいません。月22日,1日8~9時間ほど働いているフルタイム就業者のデータです。それでこの有様とは,少ないなあという印象です。最近よく言われる「安いニッポン」が数字で出ています。
フリーランスをみると,男性の31.6%,女性の72.4%が200万円に達しないプア,フルタイム・ワーキングプアです。フリーランスは労働時間の際限がなくなりがちで,かつ給与の未払いなども横行しています。こういう搾取に遭いやすいのは,とりわけ女性のフリーランスです。
上記の分布から中央値(median)を計算してみましょうか。本ブログを長くご覧の方は,分布から中央値を出すやり方はご存知かと思いますが,久しぶりですので,算出方法を説明します。男性のフリーランスを例にします。
按分比=(50.0-31.6)/(56.3-31.6)=0.7437
中央値=200万円+(100万円×0.7437)=274.4万円
フルタイムで働く男性フリーランスの所得中央値は,274万円と出ました。同じやり方で,他のグループの所得中央値を算出すると以下のようになります。
男性正規 = 420.3万円
男性非正規 = 259.5万円
男性フリーランス = 274.4万円
女性正規 = 297.1万円
女性非正規 = 204.1万円
女性フリーランス = 137.7万円
日本において,普通に働く労働者の年間所得中央値です。「1日8~9時間働いて,これはないやろ」って感じです。
言い忘れましたが,『就業構造基本調査』の用語解説によると,年間所得は税引き前のだそうです。つまり手取りの額はこれよりもっと少ないことになります。開いた口がふさがりません。
これでいて,税金や住居費(家賃)等の基礎生活費は増えているのですから,国民の生活は実に苦しい。私自身,何の後ろ盾もないフリーランスの働き方をしてますが,身をもって感じます。国保なんかは本当に重いです。会社員の方には分からんでしょうね。
その一方で,企業の内部留保は過去最高と聞きます。某企業の社長さんが言われてますが,こういう時期こそ,内部留保を取り崩し,従業員に還元すべし。ここまで給与が安いと,国民の購買力が下がり,モノが売れなくなります。海外からも労働力が来なくなります。商品を売る,必要な労働力を確保する,この2つの面において,痛手を被ることになります。要するに,自分たちに返ってくるのです。
普通に働けば普通の暮らしができる社会を。もっと具体的に言えば,「1日8時間の労働で,普通の暮らしができる社会」が望まれます。選挙の公約でよく聞きますが,日本の現状は程遠く,時代と共に遠ざかってすらいます。
この秋,衆院選が実施されますが,この基本がマニフェストに盛られているか。私が真っ先に注目するのはココです。