2018年8月28日火曜日

『教職教養らくらくマスター』2020年度版

 ブログタイトル下の告知板にも記してますが,拙著『教職教養らくらくマスター』(2020年度版)が実務教育出版より刊行されました。書店にも並んでいることと思います。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b370749.html


 教育政策は目まぐるしく動き,法律もコロコロ変わりますので,毎年内容を更新し,今くらいの時期に刊行しています。この夏に出た2020年度試験用より,カバーデザインも刷新しました。前より,落ち着きのある体裁になったかと思います。

 教職教養は,校種・教科を問わず全受験生に課されます。内容は大きく,教育原理,教育史,教育法規,教育心理,の4領域に分かれます。

 大学の教職課程のテキストをちゃんと復習すればいいのですが,大学の先生が書く概論書と,教員採用試験の教職教養の間には,いささか距離があります。たとえば教育社会学は試験では出題されませんし,逆に最新の教育時事などは大学の授業で習うことはありません。試験対策に特化した本を使う必要があります。

 本書は,そういう要請に応えるための本です。文章をびっちり詰めた「読む本」ではなく,どちらかといえば「見る本」に近いです。教職教養の広範な内容を「らくらくマスター」していただくため,内容の盛り方に工夫を凝らしています。


 上記は学習指導の方法のテーマですが,押さえるべきキーワードを赤字で強調し,概念を原則2行以内で簡潔に説明するスタイルをとっています。附属のフィルムで赤字を隠せますので,暗記学習も可能です。

 また視覚人間である私のポリシーを前面に出し,図や表を多用しています。以下は,出題頻度が高い西洋教育思想(近代)のテーマです。


 過去問を見れば分かりますが,教育史は,著名な思想家の文章の正誤判定問題や,人物名と著作・業績を結び付けさせる問題に尽きます。よって,各人物の主著や思想のキーワードを知っておけば十分です。ルソーであれば,主著は『エミール』,キーワードは「子どもの発見」「消極教育」というように。

 こうした学習の便に資するよう,重要人物の情報を表組で整理しています。ある人物の名前が提示されたら,即座に主著やキーワードが浮かぶようになるまで,赤字を隠したドリル学習を反復してください。

 お堅い教育法規にしても,ただ条文を機械的に載せるのではなく,現場でどういうことが問題になっているか,どういう点を汲み取ってほしいかを,私の言葉で書いています。読者さんから,「フレンドリーで,暗記学習の暗さを感じさせない」という声をいただいています。


 他にもアピールしたい点はありますが,これくらいにしましょう。あとは,現物を手に取ってからのお楽しみ。

 今の学生は,短文に入り浸ったSNS世代ですので,長い文章を読むのが億劫という子が多いと思います。そういうことを考え,本書は「読む本」ではなく「見る本」としての性格を出しています。

 こうした読みが当たったのか,本書は2007年の刊行以来,「見やすい」「分かりやすい」と好評をいただき,教職教養の売れ筋本として通っています。紀伊国屋の教員採用試験のコーナーでは,いつも最前列に平積みされてます。ありがたや。
https://twitter.com/tmaita77/status/1003819191495942144


 来年の夏,教員採用試験を受験予定の学生さん,本書をぜひ手にとってください。他の会社から,分厚い電話帳みたいな参考書も出てますが,学習のスタートには,重要ポイントを精選した薄手の要点整理集がいいと思います。まずは,教職教養全体(原理,歴史,法規,心理)を大雑把に押さえることからです。

 『教職教養らくらくマスター』は毎年刊行されていますが,今年はカバーデザインが変わった節目の年ですので,アナウンスさせてただきました。

 現在,教員採用試験の競争率は下がっていますが,オリンピック後はまた不況になるという予測もあります。そしたら競争率は跳ね上がるでしょう。今がチャンス。受験生の皆さんの健闘を祈ります。

2018年8月26日日曜日

母子家庭・父子家庭からの非行少年出現率

 子育て年代の離婚率の増加もあって,最近では,18歳未満の子どもの7人に1人が,一人親世帯の子です。

 日本は,一人親世帯に困難が凝縮する社会で,子どもの貧困率は,子ども全体では6人に1人ですが,一人親世帯に限ると半分を超えます。一人親世帯の子どもの貧困率は,世界でトップです。子どもの貧困率の増加は,一人親世帯が増えていることにもよります。

 経済的に苦しい状況に置かれるわけですが,そういう生活条件が,子どもの育ちに影を落とすこともあります。問題行動の頻度とも関連しており,非行との相関については,データではっきりと可視化できます。

 家庭環境と非行というのは,犯罪社会学の古典的テーマで,この分野の入門書を開くと必ず,「家庭環境」というチャプターが設けられているはずです。その関連の仕方というのは,親子関係の有様ののような,情緒的・内面的な部分に注視されがちですが,もっと基底的な家庭の形態面(構造面)に焦点を当てることも必要です。たとえば,親がいるかどうかです。

 昔は,両親がそろってない家庭を欠損家庭といい,一般家庭と比して非行少年の出現率が高いことが,白書等でよく示されていました。現在では「欠損家庭」などという言い方はNGで,このような分析はあまり見かけなくなりましたが,警察庁の原統計では,非行少年の数が親の状態別に集計されています。「両親あり」「父あり母なし」「母あり父なし」「両親なし」,というカテゴリー区分です。
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/year.html

 2015年の『犯罪統計書』によると,同年中に刑法犯(交通業過除く)で検挙・補導された10代少年は4万7173人です。うち母子世帯の子は1万4851人,父子世帯の子は3030人となっています。非行少年の4割近くが,一人親世帯から出ていることになります。

 同年の『国勢調査』によると,一般世帯の10代少年は1141万3988人で,うち母子世帯の子は140万301人,父子世帯の子は16万6566人です。

 これで分子・分母がそろいましたので,少年全体,母子世帯,父子世帯という3グループについて,非行少年の出現率を計算できます。以下に掲げるのは,割り算の結果です。出現率の単位は‰(千人あたり)であることに注意してください。


 10代少年全体では,非行少年の出現率は4.1‰ですが,母子世帯では10.6‰,父子世帯では18.2‰となっています。母子世帯は全体の2倍,父子世帯は4倍以上です。

 分子の非行者数は,繰り返し捕まった少年を重複してカウントした延べ数であることに要注意ですが,父子家庭からは55人に1人の割合で非行者が出ていることになります。

 これは10代全体のデータですが,上表の分母・分子(a,b)は,細かい1歳ごとに得ることもできます。10~19歳の年齢別に,3つの群の非行少年出現率(b/a)を出し,折れ線のグラフにすると以下のようになります。


 最近の非行率の年齢カーブが,10代半ばに山がある型になっています。戦後初期の頃は18~19歳の年長少年で高かったのですが,時代とともに低年齢化してきています。

 15歳といえば人生初の進路分化が起きる時期で,高校入試による重圧(選り分け)の影響があるのかもしれません。発達面でみても,心が大きく揺れ動く時期です。このダブルの要因の影響は大きい。

 3群のカーブですが,どの年齢でも一定の開きをもって「総数<母子<父子」となっています。父子世帯の15歳少年から非行少年が出る率は29.2‰,34人に1人です。

 一人親世帯の子の非行率が少年全体よりも高いのは想像していましたが,母子世帯と父子世帯の段差がここまで大きいのは驚きです。「総数-母子世帯」と「母子世帯-父子世帯」の落差が同じくらいとは…。

 はて,これはどういう事情によるのか。母子世帯と父子世帯の非行の違いについてどう言われているのか,手元の犯罪学関連の文献に当たりましたが,詳細に言及しているものはありませんでした。

 まあ常識的にいって,離婚で生活が荒れる度合いは,母親より父親のほうが大きいでしょう。壮年男性の自殺率を有配偶者と離別者で比べると,後者のほうが格段に高くなっています(女性は差が小さい)。そうした荒みが,子どもにも伝播するのかもしれません。

 また父親の場合,仕事中心になりがちで,子どもとの接触時間もとれない。家事や育児も妻に任せきりで,妻に去られた一人になると,子どものケアもままならない。それは,年少の子どもにとって痛手になるでしょう。企業も「育児は母親がするもの」という思い込みが強いので,シングルファザーのワーク・ライフ・バランスも阻害されがちです。

 一人親家庭というと脊髄反射的に母子世帯が想起され,シングルファザーの困難は陰に隠れがちです。それは低所得といった経済的事情とは異なる,生活や育児の実相に関係することです。

 今回のデータは,父子世帯への支援の必要性を示唆するもので,「子どもが非行化しやすい」など偏見の文脈で読まないでいただきたいと思います。

2018年8月23日木曜日

大学院博士課程入学者の変化

 週が明けたとおもったら,もう明日は金曜です。早いですね。自宅仕事の私がこう感じるのですから,勤め人の人は,時の流れがもっと早く感じるのではないでしょうか。

 昨日の毎日新聞に,主要国の中で,日本だけ修士・博士号学位取得者が減っている,という記事が出ています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180822-00000074-mai-life

 人しか資源のない日本にとってこれはイタイ,研究力の低下だ。こういうトーンですが,背景要因として,学位取得後も不安定な非正規雇用(非常勤講師,研究員…)しかなく,大学院が敬遠されているからではないか,と結ばれています。

 まさにその通りです。統計でみても,大学院博士課程入学者は,2003年をピークに減少の傾向です。2003年では1万8232人でしたが,2018年春は1万4904人です。修士課程入学者も,同じ期間にかけて7万5698人から7万4096人に減っています。

 2007年に水月昭道さんの『高学歴ワーキングプア-フリーター生産工場としての大学院』(光文社新書)が出たこともあり,大学院修了者,とりわけ博士号取得者の悲惨な末路が知れ渡ってきたためでしょうか。

 しかし,大学院入学者は20代前半の若き学徒だけではありません。年輩の社会人もいますし,最近は留学生も増えています。

 文科省統計では,大学院入学者を,伝統的学生,社会人,留学生という3つの群に分けて拾えます。伝統的学生とは,学部から修士,修士から博士へとストレートに進学する人たちです。入学者の合計から,社会人と入学者を差し引いて出せます。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011528

 この3つの群に分けて,入学者の変化を観察すると,下表のようになります。


 この15年間で,修士入学者は2.1%,博士入学者は18.3%も減りました。しかるに,大きく減っているのはストレートの伝統的進学群です。博士課程では,修士からのストレート進学組は,ほぼ半減しました。

 その一方で,修士では留学生,博士では社会人がうんと増えています。社会人の博士課程入学者は,3952人から6374人に増え,今年春では伝統的学生よりも多くなっています。今となっては,博士入学者のマジョリティは社会人です。

 大学院博士課程も,社会人のリカレント教育の場になりつつあるようですね。結構なことです。ところで,大学院は設置主体で国立,公立,私立に分かれますが,上記と同じデータをこの3群に分けて出すと,興味深い事実が分かります。

 社会人が大きく増えている博士課程に注目しましょう。今年の速報データでは,設置主体別のデータはまだとれませんので,昨年春の入学者数をみてみます。


 伝統的学生が減り,社会人が増えているのは国公私立共通ですが,その傾向は公立で顕著です。修士からのストレートの伝統群は6割も減り,代わって社会人入学者が186人から589人と,3倍以上に増えています。

 その結果,入学者の内訳も様変わりしています。下図は,3つのグループの構成変化を帯グラフで表したものです。


 変化が最もドラスティックなのは公立大学の博士課程で,社会人の割合は2003年では16.3%でしたが,昨年春では6割も占めるに至っています。国私立でも,社会人の比重が増していることに注目です。

 地域と密着している公立大学は,住民のニーズを反映する度合いが高い,ということだと思われます。リカレント教育の先端を行っているのは,公立大学なんですね。何となくそうだろうなと思ってましたが,データで浮き彫りにできました。

 『学校基本調査』では今年から,大学学部入学者の年齢も集計しています。ツイッターで発信しましたが,77%は18歳で,25歳以上は0.58%,30歳以上となると0.18%しかいません。
https://twitter.com/tmaita77/status/1032530831783260161

 ただ,公立大学に限ると違うかもしれませんね。速報集計では,国公私別のデータは見れませんが,12月に公表される確報集計結果を楽しみに待ちましょう。

 現在は,生涯学習社会。ニューズウィークの記事で,大学入学者の将来予測を出しましたが,やせ細る18歳人口を奪い合うことに躍起になる大学は,淘汰されるしかありません。少子高齢化という人口変動と同時に,社会変化の加速化という要因も,リカレント教育の普及を強く求めています。子ども期に学校で習ったことなど,すぐに陳腐化しちゃうのですから。

 文科省統計で,大学院だけでなく,大学学部入学者の年齢も集計されるようになったことは,「未来形」のすがたに変身することを大学に促す姿勢の表れととれ,うれしく思います。

 今から10年後,社会人,高齢者,外国人など,多様な学生でキャンパスが溢れかえっているといいなと思います。

2018年8月20日月曜日

女性の自殺率の国際比較

 日本女性学習財団の機関紙『ウィラーン』で連載を持たせていただいています。「学びのスイッチ・データをジェンダーの視点で読み解く」というものです。
http://www.jawe2011.jp/welearn

 一般販売のほか,省庁や男女共同参画の実践に取り組む団体等に配布される情報誌です。幅広い読者層ゆえか。私が書いた記事について,個別に問い合わせが来ることがあります。先月の上旬に次のようなメールがきました。

 日本の女性は,大変な思いをしていると思う。女性の「生きづらさ」を可視化するデータはないか?

 うーん,直球できましたね。生きづらさの指標というなら,世論調査等で分かる生活不満率や不幸率とかを思いつきますが,そういう口先の表明よりも,実際の行動の指標のほうがいいでしょう。ズバリ,自殺率です。「生きづらい」という思いを極限の行動に移した者の出現率です。

 自殺率は何回も取り上げてきましたが,ジェンダーの分析は手薄だったように思います。日本の女性の生きづらさの可視化,というリクエストですので,国際比較という視点を据えましょう。

 自殺率(suicide rate)とは,ある年の自殺者数が,国民10万人あたりでみて何人か,という指標です。便利になったもので,OECDの統計ポータルサイトにて,国別の計算済みの数値を呼び出すことができます。
https://stats.oecd.org/

 言わずもがな,自殺率は国民の年齢構成の影響を受けます。自殺率は高齢者で高いので,粗自殺率だと,日本のように高齢化が進んだ国で自殺率は高く出ちゃいます。これはフェアではないということで,年齢調整済の自殺率(standardised rates)も得ることができます。こちらを使いましょう。以下,単に自殺率といいます。

 41か国(OECD加盟36,非加盟5)のデータが出ていますが,最近の年ではデータ欠落の国が多いので,全ての国のデータが得られる2013年のデータを使います。男女の自殺率を高い順に並べたランキング表を見ていただきましょう。主要7国には色をつけました。


 日本の自殺率は,男性が27.2,女性が10.6です。どの社会もそうですが,女性の自殺率は男性よりも低くなっています。

 41国の中での順位はというと,男性は9位なのに対し女性は3位です。色付きの7国でみると,男女の相対順位のギャップは,スウェーデンに次いで大きくなっています。国民全体の自殺率が注目されがちですが,女性の自殺率に限ると日本は上位なんですね。先の質問者が言うように,他国に比して日本の女性は「生きづらい」のかもしれません。

 それは,男性の自殺率との対比からも知られます。ある方がツイッターで,男性の自殺率を1.0としたとき女性の自殺率はいくらか,という数値を計算されてました。「女性/男性」の割り算です。それによると,日本は主要国では高いほうです。
https://twitter.com/nekoacademy0/status/1030826249910771712

 上記の表から,この対男性比を計算すると,10.6/27.2=0.390となります。日本の女性の自殺率は,男性の約4割。海を隔てた大国アメリカは,5.7/21.1=0.270。日本のほうが高くなっています。

 この2つをとった座標上に,上表の41か国を配置したグラフにしてみました。女性の自殺率の水準,および対男性比という,2つの基準からした評価です。


 日本は右上にあり,横軸・縦軸とも,平均値(点線)を上回っています。この布置図で見る限り,日本は,女性が生きづらい社会の部類といえそうです。

 右下には南米や中東の国々がありますが,これらの国の女性が安泰というのでは決してありません。客観的にみれば,女性は抑圧され,性犯罪の発生率もべらぼうに高いのですが,文化的・宗教的要因により,それを空気のように受け入れさせられている面があります。

 自殺率のジェンダーの国際比較をやってみましたが,日本の「よろしくない」現状が露わになってしまいました。

 日本は,女性が生きづらい社会。肌感覚でも頷けます。女性の睡眠時間,男性の家事・育児分担率はワーストで,女性に重い負担がかかっています。また,医科大学の入試で女子の点数操作がのうのうとやってのけられる国です。先ほど性犯罪の話が出ましたが,伊藤詩織さんの事件を引くまでもなく,性犯罪の隠蔽(暗数)も非常に多いと思われます。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/post-7673.php

 女性の「生きづらさ」を傍証する材料は,数多くあります。フィーリングでそれらを列挙するのは容易いですが,自殺率の国際比較というデータを添えると,説得力が増しますね。

 ここでは女性全体の自殺率を観察しましたが,期待される役割は年齢によって違います。育児・介護の負担がのしかかる壮年層でみたら,日本が首位だったりして。年齢別の自殺率はWHOのデータベースから出せます。面白い知見が出ましたら,報告します。

2018年8月17日金曜日

熱中症の死亡者数

 先月末から酷暑が続きましたが,ちょっとだけ和らいできました。今日はカラッとして,幾分かは過ごしやすいです。

 残念なことに,今年も熱中症による死者が続出しました。大阪では,幼い小1男児が命を落としました。灼熱下の校外学習で,乏しい語彙で体の異変を必死に訴えたそうですが,適切な対応がとられませんでした。

 熱中症の死者数が連日ニュースで報じられますが,それは消防庁のものです。しかるに,死亡統計の本元は厚労省の『人口動態統計』なり。性別・年齢層別,さらには地域別といった属性別の数値も得られます。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

 はて,『人口動態統計』で熱中症の死亡者数を拾う場合,どの死因カテゴリーに注目すればいいのか。前から疑問に思っていたのですが,いろいろ探査した結果,「自然の過度の高温への曝露」という死因に該当するようです。細かい死因小分類のコードは「X30」です。

 ネットでは,1999~2016年までのバックナンバーを閲覧できます。両端の年の「自然の過度の高温への曝露」による死亡者数を拾うと,1999年が206人,2016年が621人です。今世紀以降の日本では,熱中症による死者が3倍以上に増えています。

 7月半ばから9月半ばの60日間で割ると,1日あたり10人が熱中症で命を落としている計算になります。

 これは国民全体の死者数ですが,本家の厚労省統計のウリは,細かい属性別の数が分かることです。原資料では,性別・年齢層別(5歳刻み)の統計表が出ています。1999年と2016年の死者数の年齢カーブは,以下のようです。


 高齢層の熱中症死亡者が増えています。ピークは両年とも80代後半ですが,1999年が34人だったのに対し,2016年は112人です。

 0~4歳の乳幼児は,1999年の方が多いのですが,確かこの年,パチンコにのめり込んだ保護者が,クルマに放置した子どもを死なせる事件が続発したんじゃなかったでしたっけ。

 それはさておき,熱中症の死者が大幅に増えているのは事実で,増分の多くは高齢者です。しかし人口の高齢化が進んでいるので,高齢の死者が増えているのは当然ではないか,という疑問もあるでしょう。

 では,ベース人口で割った死亡率を出してみましょうか。65歳以上の熱中症死亡者は,1999年が123人,2016年が492人です。これを同年の65歳以上人口(10月時点,日本人)で割ると,以下のようになります。10万人あたりの死者数です。

 1999年: 123人/2112万人=0.58人
 2016年: 492人/3445万人=1.43人

 人口変化を考慮した死亡率でも,高齢者の熱中症死亡率は上がっています。2.5倍の増です。リスクは高まっているとみてよいでしょう。

 一昔前と今では,夏の暑さが違う。このことは,気象庁の温度データでも実証されています。先ほど1999年のデータに触れましたが,私はこの年,エアコンなしのアパートに住んでいました。扇風機をガンガン回してしのぎましたが,今なら絶対耐えられないでしょう。

 「生活保護世帯にエアコン代を支給する謂れはない」などと言っている場合ではありません。この夏,電気代滞納で冷房を使えなかった,保護受給中の60代女性が熱中症で死亡する事故が起きています(札幌)。

 お隣の韓国では,「冷房は基本的な福祉」という考え方のもと,電気代を値下げする決断を大統領がしたそうですが,それに追随したいものです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15126434/

 今年の夏の暑さはピークを越えたようですが,これからどんどんレベルアップしていくのかと思うと,気が滅入ります。憲法が規定する「健康で文化的な最低限度の生活」の中身は,時代によって変わるのです。時代変化と制度変化の間に一定のラグが出るのは不可避ですが,猶予を許さない問題もあります。酷暑という気象条件は,人間の生命にも関わるのですから。

2018年8月15日水曜日

生まれ月による学力差

 盆休みも今日でおしまいですが,休暇はいかがでしたでしょうか。私は普段と全く変わらず,午前中は食い扶持仕事(ライスワーク)をし,午後からは好きなこと(ライフワーク)をしています。ブログ書きは,その一つです。

 昨日の東洋経済オンラインにて,「4月生まれ有利,3月生まれ不利は本当か-生まれ月格差に注意」という記事が出ています。筆者は,教育経済学者の中室牧子氏です。
https://toyokeizai.net/articles/-/233182

 日本の学校は,生まれた年度で区切る学年制ですが,教室の中には,4月生まれから翌年の3月生まれの子が混在しています。両端では1年の差があるのですが,これは結構デカイ。小さい子の場合は,なおさらです。

 同時期に同基準のテストをした場合,心身の発育量による差が出てもおかしくありません。実際そうであることは,多くの人が経験で知っています。

 上記の記事で中室氏は,国際学力調査の「TIMSS」を引き合いに出しています。IEAが4年間隔で実施している数学・理科の学力調査で,対象の児童・生徒(小4,中2)に対し,生まれた月も訊いています。

 このデータを使えば,生まれ月別の学力平均点を出すことができます。下記サイトのリモート集計を使って,小4の算数・理科,中2の数学・理科の平均点を,生まれ月別に呼出てみました。また,高得点層(625点以上)の比率も出してみました。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 あいにく粗い整数値しか出せませんが,結果の一覧表を示すと以下のようになります。黄色は1~12月生まれの中の最高値,青色は最低値です。


 小4をみると,平均点・高得点率とも,4月生まれがマックスです。最も低いのは,2~3月の早生まれの群となっています。中2でみても,青色は早生まれのゾーンにあります。

 早生まれは不利というのは,データでも言えそうですね。発達段階が低い小4児童では,それがよりクリアーで,中室氏の記事タイトルにある「4月生まれ有利,3月生まれ不利」という傾向がみられます。

 関連する他の要因を統制しないといけませんが,4月生まれに富裕層,3月生まれに貧困層が多い,というのは考えにくいですので,社会階層のファクターは除かれているとみていいでしょう。

 同じ教室で机を並べていても,生まれ月の差(最大1年)の影響はあるようですね。上記は学力テストの結果ですが,体力では生まれ月効果がもっと出るのではないでしょうか。小さい子の場合,身体の発育量に1年もの差があるのは大きい。スポーツ選手に,4~5月生まれが多いというのも,よく耳にする話。

 しかし小学生ならいざ知らず,中学生まで,早生まれの不利が引きずられるのですね。思うに,「自分はダメだ」という否定的な自我が作られるからではないでしょうか。自分ではがんばっているつもりでも,(生まれ月という如何ともし難い要因で)人並みの結果を出せない。こういうことが積み重なると,「できないもん」が口癖になるでしょう。

 教師,とりわけ低学年の担当教師は,教室の中に,身体の条件が大きく異なる子どもが混在していることに思いを馳せるべきでしょう。親の側は,「生まれが遅いのだから仕方がない面もある」ということを,意図的に当人に伝えるのもいいかもしれません。それをいいことに,怠け癖が付かない程度にです。「なぜできないのだ」と,叱るばかりというのは論外です。

 4年生くらいまで,毎年度の初めに誕生日を記録するという先生がおられますが,すばらしいことだと思います。

2018年8月13日月曜日

政令市の貧困と学力の相関

 「学テの結果を教員給与に反映させることを検討する」。今年の『全国学力・学習状況調査』の結果が最下位だったことを憤った,大阪市長の発言です。

 公立学校については,都道府県別・政令市別の結果も公表されています。はて,大阪市長がブチ切れたという政令市の結果とは,どういうものなのでしょう。

 最近は,地域間の競争を煽るという懸念から,地域別の公表数値はラフな整数値となっています。これでは心もとないので,各政令市の度数分布表に当たって,平均正答問題数を計算しました。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/factsheet/18prefecture-City/

 たとえば札幌市だと,公立小6児童(1万4380人)の国語Aの正答数分布は,以下のようになっています。全問(12問)正答のパーフェクトは1643人,12問中11問正答は2293人…です。


 これをもとに,正答できた問題数の平均値(average)を計算できます。上記の例だと8.56問です。札幌市の小6児童の国語Aの平均正答問題数は,12問中8.56問であると。これをもって,結果の指標とすることにしましょう。

 20政令市の5科目(国語A,国語B,算数A,算数B,理科)について,同じやり方にて,平均正答問題数を算出しました。Aは主に知識,Bは主に応用力を問う科目です。


 黄色は最高値,青色は最低値です。地域差は微々たるものですが,大阪市は5科目全てで最低となっています。

 これをもって,大阪市の教員は力量不足だ,自覚が足りない,と言いたいのかもしれませんが,子どもの学力と関連するのは「教師力」だけではありません。教育社会学ではだいぶ前から,貧困と学力の相関関係について繰り返し明らかにされており,近年,それにスポットが当てられるようになってきました。

 上記の20政令市について,貧困の指標をいくつか揃えてみましょう。まずは,生活保護受給者率です。人口千人につき,保護を受けている人が何人か。厚労省の『被保護者調査』(2016年度)に,計算済みの数値が出ています(月平均)。ただ保護受給者の多くは高齢者や外国人と思われますので,子どもの生活保護受給者率も出してみます。2015年度の同資料に出ている,20歳未満の被保護者数を,同年の『国勢調査』の20歳未満人口で割りました。

 親世代の所得や学歴との関連もあるでしょう。そこで,世帯主が30~40代の世帯の平均世帯所得と,30~40代人口の大卒・大学院卒比率も出してみました。2017年の『就業構造基本調査』のデータから計算しました。

 これら4つの貧困指標は,以下のようになります。生活保護受給率の単位は,%ではなく「‰」であることに留意ください。


 大阪市は,保護受給者率が20政令市で最も高く,所得は逆に一番低くなっています。大卒率も真ん中より下。よく言われることですが,困難な条件があります。

 これがネックになっている可能性があることを,グラフで示してみましょう。5科目のうち,成績の地域分散が最も大きいのは理科です。最初の表に掲げた理科の平均正答問題数と,上表の生活保護受給者率(全人口)の相関をとってみます。下図は,2指標のマトリクス上に20政令市を配置した相関図です。


 生活保護率が最も高く,理科の結果が最低の大阪市は,右下の極にあります。20政令市の傾向でみても,2つの指標の間にはマイナスの相関関係が見受けられます。相関係数は-0.5847で,1%水準で有意です。

 これは人口全体の生活保護率と理科学力の相関ですが,上記で示した5科目の平均正答問題数と,4つの貧困指標の相関を軒並みとってみました。5×4=20の相関図を掲げるのは煩瑣ですので,算出された相関係数をお見せしましょう。

 赤字は5%水準,ゴチ赤字は1%水準で有意であることを意味します。


 黄色マークは,当該科目の成績と最も強く相関している貧困指標です。国語A,国語B,理科の結果と一番強く相関しているは,全人口の生活保護率です。

 子どもに限った生活保護率よりも,人口全体のそれのほうが,学力と強く関連するようですね。子どもが過ごす地域全体に漂うクライメイトの効果でしょう。

 算数の結果は,親世代の所得や高学歴率と強く相関しています。算数Bと高学歴率の相関係数は,+0.6を超えます。算数の場合,塾通いや参考書購入等の費用負担能力が,他の科目にも増して効くと思われます。さもありなんです。

 これをもって言いたいのは,子どもの学力は社会的規定を被る,学テの結果の全てを「教師力」に還元するのは筋違いだ,ということです。8月6日の記事で述べたことを繰り返しますが,行政が為すべきは,不利な条件の地域・学校への支援を強化することです。首長がこういう立場をとっており,一定の成功を収めているのが,東京都の足立区です。