大学院博士課程を修了しても定職に就けない人間が増えていることについては,このブログで何回か書いてきました。しかるに,フリーター(非常勤講師)をしているなど,行方が知れているケースは,まだマシといえるかもしれません。
もっと悲惨なのは,消息不明になったり,絶望のあまり自殺に走ったりするケースです。2011年度の文科省『学校基本調査』によると,同年3月の博士課程修了者15,893人(単位取得退学者含む)のうち,「進路不詳・死亡」というカテゴリーに該当するのは1,512人となっています。調査時点の5月1日までに死亡が確認された者か,その時点になっても進路(行方)が把握できていない者のことです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001033893&cycode=0
こうした死亡・行方不明者の比率は,1,512/15,893=9.5%となります。およそ10人に1人です。大学院博士課程修了者の死亡・行方不明者出現率は,他の高等教育機関修了者に比して,格段に高くなっています。
上表によると,2011年3月修了者の死亡・行方不明率は,大学は2.5%,大学院修士課程は2.8%,大学院博士課程は9.5%,です。博士課程になると,比率が急増します。博士課程修了者の死亡・行方不明者1,512人のうち,1.0%の15人が自殺者であると仮定すると,自殺率は,15/15,893=94.4人となります(10万人あたり)。人口全体の自殺率(≒25人)の3倍以上です。
予想されることですが,博士課程修了者の死亡・行方不明者は,年々増えてきています。大学院重点化政策が実施された1990年代以降の推移をとってみると,下表のようになります。
1990年では,死亡・行方不明者は611人でした。以降,その数はどんどん増え,2011年の1,512人に至っています。この期間中に輩(排)出された死亡・行方不明者の数を累積すると,26,143人となります。今後,毎年1,500人の死亡・行方不明者が出ると仮定すると,2030年時点における累積総数は約5万5千人に達します。この5万5千人の博士たちが,社会にとっての危険因子に転化する可能性は否定できないところです。
ところで,死亡・行方不明者の絶対数は増えていますが,修了者に占める比率は以前と大して変わらないようです。博士課程に行ったら,10分の1(1,000分の1)の確率で行方不明者(自殺者)になるという構造は,前からのものだったのですね。*カッコ内は推定。
なお,博士課程修了者の死亡・行方不明者出現率は,大学院の設置主体や専攻によって異なります。設置主体別と専攻別の数字を出してみました。1990年と2011年のものを比較してみます。
まず上段をみると,両年次とも,国<公<私という構造になっています。この20年間で,国公私の差が広がっていることも注目されます。国立の率は下がっていますが,公立と私立のそれは上がっているのです。
下段に目を移すと,2011年では,社会科学系,人文科学系,および芸術系では,死亡・行方不明率は20%を超えています。これらの専攻の博士課程に進んだ者の5人に1人が,悲惨な末路をたどることが知られます。
1990年との違いに注目すると,死亡・行方不明者出現率が上がっている専攻もあれば,その逆の専攻もあります。理学,農学,工学といった理系の博士課程では,率が軒並み下がっています。文科省のポスドク拡充計画により,とりあえずの「腰かけ」ポストが増やされたためでしょうか。
私は,教育系の博士課程を出ましたが,教育系の修了者の死亡・行方不明率は17.4%です(2011年)。およそ6人に1人。その仲間入りはしたくないものです。母校からの進路状況調査には,きちんと回答しようと思います。今年もそろそろくるだろうな。