2011年10月13日木曜日

青年の生きづらさの変化

 「生きづらい時代」といわれる現在ですが,いつ頃からこのような事態になったのでしょう。いろいろな意見があると思いますが,だいたい,1990年代以降というのが定説ではないでしょうか。バブル経済が崩壊し,平成不況に突入した90年代は,いみじくも「失われた10年」と形容されています。

 ある社会の生きづらさの程度というのは,自殺率で測ることができます。この指標を使って,1990年から最近までの間に,青年層の生きづらさがどう変化したかをみてみましょう。青年の自殺率の絶対水準に加えて,それが全体の自殺率に比してどうなのかという相対水準も併せて観察しようと思います。後者は,青年の自殺率を全体のそれで除したα値という尺度で測ることとします。α値の詳細については,前回の記事を参照ください。

 私は,日本を含む先進5か国について,青年層の自殺率とα値を明らかにしました。ここでいう青年とは,25~34歳の人間のことです。性別は男性に限定します。1990年の数字と,できるだけ新しい年次の数字を得ました。出所は,WHOの人口動態データベースです。日本の2010年の数字は,厚労省『人口動態統計』と総務省『国勢調査報告(速報)』の結果を使って計算しました。
http://apps.who.int/whosis/database/mort/table1.cfm

 下図は,縦軸に男子青年の自殺率,横軸にα値(男子青年の自殺率÷男子人口全体の自殺率)をとった座標上に,1990年と最近における各国のデータを位置づけたものです。90年代以降,各国の位置がどう変わったかをみてください。なお,点線は,前回みた59か国の平均値を示しています。


 図の右上に位置するほど,青年の自殺率の絶対水準と相対水準が高いことを意味します。つまり,青年にとって「生きづらい」社会であることになります。

 日本以外の4か国の動きをみると,いずれの国も,図の右上(危険区域)から左下(安全区域)のほうにシフトしています。自殺率でみる限り,これらの国では,1990年代以降,青年の生きづらさが緩和されていることがうかがえます。

 対して日本はどうかというと,先の4国とは違った動きを示しています。1990年から2006年にかけて青年の自殺率がグンと上がり,その後はα値も上昇に転じ,結果として右上のほうにシフトする形になっています。

 リーマンショックが起きたのは2008年ですが,2010年のデータを加えれば,他の4国も,日本と似た動きになるかもしれません。しかし,1990年代以降の大局的な動きについては,わが国の特異性が明らかです。

 最近において,青年層の「生きづらさ」の程度が増しているのは,わが国の特徴といえるかもしれません。