2012年3月14日水曜日

進路で悩む大学生の自殺

前回みたように,学生・生徒の自殺者は年々増え続け,2011年には初めて千人を超えました。同年の学生・生徒の自殺者は1,029人ですが,そのうちの529人(51.4%)は大学生です。

 大学生の自殺の中でも,とりわけ世間の耳目を集めているのが,就職失敗という理由による自殺です。新卒採用の慣行が強固で,新卒時点での就職に失敗すると「負け組」の烙印(stigma)を押されるかのような,わが国の社会状況が色濃く反映されています。推測ですが,日本に固有の社会病理現象なのではないでしょうか。

 余談ですが,3月21日に,大学研究家の山内太地さんによる『22歳の負け組の恐怖』(中経出版)という本が出るそうです。いみじくも,「負け組」という言葉が使われています。山内さんは海外の大学事情にも詳しいそうですが,就職失敗による自殺が日本的現象なのかどうか,教えてくれるのかしらん。ナイモノネダリかもしれませんが,ちょっと期待しています。
http://tyamauch.exblog.jp/17288241/

 さて,就職失敗を苦に自殺した大学生は,2007年が13人,2008年が22人,2009年が23人,2010年が46人,2011年が41人,というように推移しています(警察庁『自殺の概要資料』)。2011年の数は,前年よりも少し減っています。これをみて安堵する関係者もいるかと思いますが,それを許さない統計があります。「進路に関する悩み」という理由で自殺する大学生の数です。

 先行きが不透明な状況に苦しむ大学生の量を測るには,「就職失敗」に加えて,「進路に関する悩み」による自殺者の数にも目を向ける必要があると思います。両者の合算を,「進路関連の原因による自殺」と括ることにしましょう。

 進路関連の原因によって自殺した大学生の数の推移をたどると,下図のようです。警察庁の上記資料において,詳細な小分類の原因統計が公表されているのは2007年からなので,この年以降の推移がとってあります。


 「進路に関する悩み」も含めた,広義の「進路関連の原因」による自殺者は,増加の一途をたどっています。2010年から11年にかけて,就職失敗による自殺者は減っていますが,進路に関する悩みで自殺した者は10人も増えているのです。

 双方の原因による自殺者は,2007年では66人でしたが,2011年には124人とほぼ倍増しています。就職失敗が原因の自殺であっても,遺書ないしは遺族の証言が曖昧であったため,「進路に関する悩み」という(曖昧な)原因カテゴリーに放り込まれたケースもあると思います。就職失敗による自殺の量をより近似的に測るという目的でも,両者の合算分に注目する必要があるかと存じます。

 なお,これらの原因による自殺者の性別構成が分かりますので,それを整理した統計表を掲げます。


 フーテンの寅さんではないですが,「男はつらいよ」を感じさせるデータになっています。どちらの原因でみても,大半が男子です。2011年でいうと,両者を合わせた自殺者数は124人ですが,そのうちの99人(79.8%)は男子です。およそ8割。

 男女共同参画社会がいわれる今日ですが,未だに,こういうジェンダー差があるのだなあ。これも日本的な特徴でしょうか。

 これからは,「就職失敗」に加えて,「進路に関する悩み」による大学生の自殺者数にも注目していこうと思います。