2012年3月3日土曜日

30代後半の男性未婚者の状態

私は,35歳の未婚者です。「35歳の壁」とはよく聞く言葉ですが,「35歳過ぎると結婚はほぼ不可能」という論もあり,話題を呼んでいる模様です。
http://www.j-cast.com/2011/12/30117585.html

 2010年の『国勢調査』によると,35~39歳の未婚者は2,818,690人だそうです。同年齢の人口に占める比率は28.8%,およそ3割,3人に1人です。はて,30代の後半にもなって,なぜ独身のままでいるのでしょうか。仕事が楽しくてしょうがなく,家庭という足かせに縛られたくない,という人もいるでしょう。しかるに大半が,結婚したくてもそれが叶わない人ではないでしょうか。

 必死に婚活をしているものの,お見合いパーティーなどに行けば,真っ先に投げかけられる質問は「お仕事は?」でしょう(とくに男性)。それに対し,「ハケン」や「バイト」などと答えようものなら,かなりの確率で会話がフリーズすると推測されます。

 私は大学講師ですが,「非常勤」という3字を間に挟んだら,おそらく同じ結果になると思われます。水月昭道さんの『ホームレス博士』(光文社新書,2010年)は,婚活中の女性に対し,大学講師と名乗る博士に気をつけろ,という警告を発しています(42~45頁)。大学講師でも,常勤(専任)講師と非常勤講師では大違い。この本を読んで,警戒心を抱いている女性も少なくないことでしょう。

 私は,自分と同じ30代後半の未婚男性に,どういう状態の人が多いのかを知りたくなりました。事例研究的に,何人かにインタビューをしたにしても,プライドというのがあるでしょうから,本当のことはなかなか言いますまい。それよりも,マクロな統計によって,俯瞰的に眺めたほうがよいかと思います。

 2010年の『国勢調査』の産業等基本集計結果から,対象者の就労状態を配偶関係別に知ることができます。現在,産業等基本集計の結果が公表されているのは22の県の分ですが,前回と同様,栃木県のデータを使います。22の県の中で,最も都市性が高いと考えられるからです。

 下記サイトの表2-2より,30代後半の未婚男性について,就業者が何人,失業者が何人,家事従事者が何人,という統計を採取できます。また表3から,就業者の「従業上の地位」の内訳(正規,ハケン,バイト・・・)を把握することが可能です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037602&cycode=0

 これらの統計を使って,栃木県の30代後半の未婚男性の状態をあぶり出してみました。なお,未婚者の特徴を検出するため,同性・同年齢の有配偶者の状態と比較してみます。下表をご覧ください。


 35~39歳の未婚男性は2万8千人,有配偶者は4万7千人ですが,その内訳はかなり違っています。まず正規雇用者の比率ですが,未婚者は55.6%,有配偶者は77.8%です。20ポイント以上もの差があります。その分,未婚者では,ハケンやパート・バイトといった不安定就労の比重が高くなっています。

 違っているのは,就業者の内訳だけではありません。求職活動をしつつも職に就けていない失業者の比率も異なっています。未婚者は11.9%,有配偶者は1.8%です。また,求職活動をせず,かといって家事も通学もしていない非就業者(≒ニート)も,未婚者で多いようです。未婚者のニート率は,有配偶者の14倍にもなります。

 乱暴に括ると,未婚者のうち約4割の者(正規雇用,業主等を除く)が,婚活の場で肩身の狭い思いをせざるを得ない状態に置かれているようです。むろん,残りの6割の者でも,そういう輩は少なくないことでしょう。正社員といっても,ピンからキリまでですし。いずれにせよ,非自発的な理由で未婚状態にとどまっている者が多いことをうかがわせる統計です。

 ついでに,未婚者の学歴構成もみてみましょう。学歴は,女性が結婚相手に求める「3高条件」の一つです。はて,30代後半の未婚男性の学歴構成は如何。先ほどと同様,有配偶者と比較してみます。下表は,上記サイトの表10-1から作成したものです。学校卒業者の統計ですので,前掲の表の合計値とは一致しないことに留意ください。


 いかがでしょう。高卒以下の者の比率は,未婚者が56.2%,有配偶者が49.8%で,前者のほうが高くなっています。一方,大卒者の比重は,有配偶者のほうが高くなっています。予想的中といいますか,未婚者の方が学歴構成は低いようです。

 むーん。結婚とは,相思相愛の男女の合意に基づく行為ですが,その相思相愛の感情すら,諸々の社会的な条件に規定されている現実を突き付けられたようで,やや複雑な思いがします。

 映画『コクリコ坂から』の主人公(松崎海)の母親は,医者の家庭の生まれで,自身も大学助教授という,当時の女性としてはバリバリのエリートです。しかるに,彼女が結婚相手に選んだのは,澤村雄一郎という一介の船乗りでした。当然,実家から猛反対されるのですが,最後は「駆け落ち」という手段によって強引に一緒になり,海,空,そして陸という3人の子を授かります。

 長女の海にしても,恋心を抱いているのは,風間俊という,こちらも船乗り労働者の子弟です。こういう型破り?な恋愛が描かれているところに,この作品の魅力を感じるのは,私だけでしょうか。すみません。この映画を汚すような発言ととられるのであれば,お詫びします。

 えーと,当初の関心は,自分と同性・同年齢の未婚者の状態がどういうものかを知ることでした。やはり,非自発的な意味合いでの未婚者が多いのだろうな,という感想を持ちました。愚痴がこぼれそうなので,この辺りで止めにします。