2013年7月11日木曜日

キャリア教育の国際比較

 今日(7/11)は,職業教育の日だそうです。1975(昭和50)年の今日,学校教育法の改正により,専修学校制度が発足したことにちなんでいるそうな。専修学校は,同法第1条が定める正規の学校ではありませんが,わが国の職業教育の重要な一翼を担っています。
http://www.zensenkaku.gr.jp/event/

 さて,職業教育に関連してですが,現在の学校教育ではキャリア教育が重視されています。キャリア教育とは,「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」のことです(2011年1月31日,中教審答申)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1301877.htm

 よく知られていることですが,キャリア教育においては,いわゆる実習が大きな位置を占めています。高等学校学習指導要領では,「学校においては,キャリア教育を推進するために,・・・産業現場等における長期間の実習を取り入れるなどの就業体験の機会を積極的に設ける」ことと定められています。

 これは主として専門高校に関わる規定ですが,普通科においても,総合的な学習の時間,特別活動,ないしは教育課程外の活動等にて,就業体験学習(インターンシップ)の機会を積極的に設けることが推奨されています(上記中教審答申)。

 “Learning by Doing”(なすことによって学ぶ)。現実態として,この理念がどれほど具現されているのか。今回は,後期中等教育(高校)段階に焦点を当てて,国際比較をしてみようと思います。

 用いるのは,PISA2006の学校質問紙調査のデータです。キャリア教育に関する設問群があり,その中に,企業や産業界との連携頻度を問うものがあります。私は,以下の4つの設問への回答に注目することにしました。


 選択肢の数字は,調査対象の学校(高校)が,地元の企業や産業界とどれほどコラボしているかを測る尺度として使えます。全部3に丸をつける学校は,バリバリの実践型キャリア教育を行っている学校ということになります。

 4問への回答数字を合算した数をもって,キャリア教育スコアということにしましょう。各高校の実践型キャリア教育の程度を測る指標です。このスコアは,4~12点の値をとります。マックスは,3点×4=12点です。

 私は,OECDサイトから上記調査のローデータをDLし,それを加工して,54か国・12,391高校のキャリア教育スコアを計算しました。いずれかの設問に無効回答がある学校は,分析対象から除いています。
http://pisa2006.acer.edu.au/downloads.php

 手始めに,日本とドイツのスコア分布を比べてみましょう。デュアル・システムの本場ドイツでは,スコア平均が高いんじゃないかなあ。下図は,日本の185校,ドイツの209校のスコア分布を図示したものです。54か国全体の分布も描いてあります。


 54か国全体のカーブは,中間あたりにピークがあるノーマル・カーブですが,日本とドイツはきれいな対照型をなしています。日本はスコアが低いほうに分布が偏っており,ドイツはその逆です。

 上記分布からスコアの平均点を出すと,日本は5.64点,ドイツは9.54点となります。56か国全体は7.21点です。

 日本とドイツでは大きな差がありますね。先に書いたデュアル・システムとは,企業での訓練と学校での授業を並行して進め,生徒を一人前の職業人に育てるシステムですが,ドイツでは,これが伝統的に発達しているためでしょう。さもありなん,という感じです。

 対して日本のスコアは低いのですが,54か国全体の中ではどういう位置にあるのでしょう。下図は,同じスコアを各国について計算し,高い順に並べたものです。主要国のバーは色を違えています。


 日本の5.64点は,下から2番目です。お隣の韓国も近い位置にあります。受験競争が激し社会であることにもよるでしょう。

 上層部に目をやると,先ほどサシで比較したドイツは堂々の1位。ほか,上位国はほとんどがヨーロッパ諸国です。大国ロシアも含まれています。アメリカは,中より少し上というところです。
 
 ふうむ。わが国は,早い段階での職業教育が脆弱であるといわれますが,上図において,その様相が可視化されているように思えます。日本では普通科(academic course)が多いからだろう,といわれるかもしれませんが,青年期の初頭において,学校教育が実社会から乖離している度合いが高い社会であることは確かです。

 ただ,今回みたのは2006年のデータであり,より近況でみればどうかは分かりません。2004年のキャリア教育研究会の報告を皮切りに,キャリア教育の充実に向けた取組が着々となされきています。国立教育政策研究所の調査結果をみても,高校のインターンシップ実施率は年々上がってきており,その傾向はとりわけ普通科で顕著です。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/1312386.htm
 
 冒頭で引いた中教審答申がいうように,高等学校段階では「勤労観・職業観等の価値観を自ら形成・確立する」ことが期待されます。そのためには,座学だけでなく,“Learning by Doing”の機会を意図的に創出することが求められます,それに際して,地元の産業界の協力を得ることは,戦略上重要な位置を占めています。

 昨年実施されたPISA2012において,キャリア教育の設問が盛られているのかは知りませんが,今回と同じスコアが出せる場合,わが国はどのあたりの位置になるか。興味が持たれます。