2015年5月16日土曜日

首都圏のジニ係数地図(2013年)

 5月8日の日経デュアル記事では,首都圏の区市町村別の平均世帯年収を計算してみました。お金持ちの地域はどこかを教えてくれるデータですが,各地域内部の分散,すなわち収入格差の程度も知りたいところです。

 持てる者と持たざる者の格差が広がっているといいますが,収入格差が大きい地域はどこでしょう。今回は,この点を明らかにしてみようと思います。用いるのは,上記と同様,区市町村別の世帯年収分布のデータです。

 全国一の大都市,東京都新宿区の世帯年収分布は,以下のようになっています。2013年の「住宅土地統計」に掲載されている,総世帯の年収分布です。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm


 9つの収入階層の世帯量と,各々が手にする富量の分布が整理されています。富量は,年収幅の中間値(階級値)に世帯数を乗じた値です。年収300万円台の世帯の年収を一律中間の350万円と仮定すると,この層に配分される富量は,350万円×22160世帯=776億円となります。このようにして9つの階層の富量を出し,合算すると9358億円です。

 この巨額の富が各層にどう配分されているかを相対度数でみると,年収1000万以上の層が全体の33.7%,3分の1をせしめています。この層は世帯数では12.4%しか占めないことを考えると,大きな偏りといえるでしょう。逆に下をみると,世帯数では17.9%を占める年収200万未満の層には,全富のわずか3.8%しか届いていません。

 大都市・新宿区では,富の配分構造に少なからぬ偏りがあるようですが,その様相は,右端の累積相対度数をグラフにすることで可視化できます。横軸に世帯数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,9つの階層のドットをプロットし,線でつなぐと下図のようになります。


 弓なりの曲線ができていますが,これをローレンツ曲線といいます。お分かりかと思いますが,世帯数と富量の分布がどれほどズレているかは,この曲線の底の深さで知られます。曲線の底が深いほど,両者のズレが大きいこと,すなわち富の格差が大きいことを意味します。

 その程度は,上図の赤色の面積で数値化され,これを2倍した値が,よく知られているジニ係数に相当します。富の配分に全く偏りがない完全平等の場合,ローレンツ曲線は対角線と重なり,色つきの面積はゼロになりますから,ジニ係数は0.0となります。反対に極限の不平等状態では,赤色の面積は四角形の半分,つまり0.5となりますから,ジニ係数は0.5×2=1.0となります。ジニ係数の範囲が0.0~1.0であることの所以です。

 さて上図から,新宿区のジニ係数を出すと0.4065となります。一般にジニ係数が0.4を超えると社会が不安定化する恐れがあり,特段の事情がない限り,是正を要するという危険信号と読めるそうです。ほう,大都市・新宿区は,この水準を超えていることになります。外国人人口が多いことも寄与しているでしょう。

 私は同じやり方で,首都圏(1都3県)の214区市町村のジニ係数を計算しました。下の図は,それを地図にしたものです。危険水準の0.4を超える地域を濃い色で塗り,それ未満は0.02の区切りのグラデーションにしました。


 首都圏の格差地図ですが,いかがでしょう。濃い色は富の配分の偏りが大きい地域ですが,東京都心と千葉の周辺部に多くなっています。後者は,高齢世帯が多いという事情もあるでしょう。

 ジニ係数が高い順に214区市町村を並べたランキング表もつくりましたので,こちらも資料として掲げておきます。赤色は,0.4を超えている地域です。


 トップは千葉県の勝浦市の0.4682で,2位以下を大きく引き離していますが,国際武道大学がある本市は,学生の単身世帯が多いためと思われます。

 それより下の赤字ゾーンは,都内の特別区,千葉の周辺の市町が名を連ねています。大都市における単身世帯の貧困化,地方周辺部における高齢化といった事情が大きいとみられます。

 よく注目される東京・足立区のジニ係数は0.3740です。0.4には達していませんが,全体の中では高いほうです。戸梶圭太さんの小説「東京ライオット」では,この区内に突如建設された超高級マンションに入ってきた超セレブ層と,地元の貧困層の対立・葛藤が描かれており,クライマックスでは後者の暴動(テロ)が起きるのですが,ジニ係数が0.5や0.6にもなれば,それが現実化する恐れは甚だ高くなります。中南米やアフリカの社会は,現にそうです。
http://bookmeter.com/b/4198620296

 ここで計算したのは首都圏内の区市町村のジニ係数ですが,全国規模でみたら,もっとスゴイ値が出てくるかもしれません。0.5を超える地域とか,あるかしら。地域がどれほどヤバいかをみるには,警察のガンバリ度によって値が大きくブレる犯罪率などよりも,こちらのほうがいいかもしれません。

 ジニ係数。社会病理学を専攻する人間として,常に注視していきたい指標の一つです。本ブログでは,国際比較,都道府県比較,職業比較などもやっています。興味ある方は,ご覧ください。左上の検索ツールに,「ジニ係数」と打ってみてください。