専業主婦ではありません。専業主夫です。家事や育児を専業で担う男性のことですが,以前に比せば,こういう人も増えてきていると思われます。以下の記事によると,米国では,育児をする主夫が190万人いるそうです。
http://www.huffingtonpost.jp/2015/05/17/states-with-the-most-stay-at-home-fathers_n_7302952.html
海を隔てたわが国では,どうなのでしょう。統計で専業主夫の量を把握する場合,有配偶男性のうち,労働力状態が「家事」の者の数を拾うとよいと思います。当該の数値は,基幹統計の「国勢調査」にて知ることができます。年齢は,子育て期の30~40代に限定しましょう。
2010年の本調査によると,同年10月時点の30~40代の有配偶男性は1068万人であり,このうち,労働力状態が「家事」の者は21828人となっています。これが,2010年の専業主夫の数です。今世紀初頭の2000年では7089人でした。この10年間で,子育て期の専業主夫は3倍に増えたことになります。
同年齢の有配偶男性数で除した比率にすると,2000年では1万人あたり6.0人でしたが,2010年では20.4人となります。出現率でみても,「1666人に1人」から「490人に1人」にまで増えています。
これで終わりでは芸がないので,同じ値を都道府県別に出した結果をご紹介しましょう。30~40代の有配偶男性1万人あたりでみて,専業主夫が何人かを県別に計算しました。黄色は最高値,青色は最低値です。上位5位の数値は赤色にしています。
トップは,南端の沖縄です。2010年の出現率は,1万人あたり41.2人。子育て期の有配偶男性の0.412%(243人に1人)が主夫であることになります。本県は,非正規から正規への移動率が1位,若者の起業率も高い水準にあるのですが,主夫率もそうだとは。新たなライフスタイルの浸透度が相対的に高いようですね。
赤字の分布から主夫率は「西高東低」のような気がしますが,地域差構造を可視化しておきましょう。右側の2010年の主夫率をマップにしてみました。
沖縄のほか,近畿や四国で主夫率は高いのですね。「男尊女卑」とかよくいわれる,わが郷里・鹿児島も,濃い色になっているではありませんか。伝聞と統計的事実は,しばしば異なるもの。
値が低いのは,日本海沿岸や中部です。3世代世帯率が高いゾーンですが,価値観や意識が異なる上の世代が同居しているとなると,主夫は居づらいのでしょうか。いや,そもそも必要ないのか。
https://twitter.com/tmaita77/status/602056035281408000
統計による,専業主夫量の可視化の試みでした。今年は「国勢調査」の年ですが,5年を経た2015年では,地図の模様は全体的にもっと濃くなっているでしょう。それは,悪いことではありますまい。
なお,ツイッターにて国際比較のデータも出しましたので,リンクをはっておきます。東欧のルーマニアのように,30~40代男性の8人に1人が主夫の社会も存在します。「世界価値観調査」のサンプルが偏っていたのかもしれませんが,わが国の価値観・意識を相対化させてくれる事実です。
https://twitter.com/tmaita77/status/601035114198380544
一昨日買ってきた,筒井淳也教授の「仕事と家族」(中公新書)では,主夫について触れられているのかしら。豊富なデータをもとに,わが国の位置を明らかにし,今後の道筋を教えてくれる労作です。これからじっくり読ませていただこうと思います。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2015/05/102322.html