2016年3月11日金曜日

家事・家族ケア時間の格差

 先般のニューズウィーク記事にて,日本の子持ち男性の家事・育児分担率が,世界最下位であることを知りました。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php

 日本の男性の週間平均時間は12.0時間,女性は53.7時間ですから,男性の分担率は,12.0/65.7=18.3%となる次第です。しかし,週平均時間が12時間というのも,いかにも短い。1日2時間未満です。それに対し,アメリカは週平均38時間。この大国では,男性も1日5時間以上,家事ないしは家族ケアをしているわけです。

 これは全体を均した平均値ですが,日本の男性の分布をみると「おや?」という感じがします。分散が大きいことです。ISSPの『家族と性役割に関する調査』(2012年)にて,週間の家事・家族ケア時間が判明する,子持ちの有配偶男性は125人ですが,ゼロから94時間と,非常に幅広く分布しています。

 大雑把なカテゴリー区分でみても,週5時間未満が35.2%いるのに対し,週20時間以上も17.6%と,そこそこいます。欧米では,平均近辺の層が厚い,ノーマル分布のような印象です。

 むむう。日本は,男性の家事・家族ケア時間が短いことに加え,する者としない者の分化(格差)が大きいのではないか。こんな予感がしてきました。数値で,そのレベルを可視化してみましょう。

 下表は,18歳未満の子がいる,有配偶男性125人の週間家事・家族ケア時間(h)の分布です。上記のISSP調査のローデータより作成しました。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4


 125人のうち最も多いのは,週2時間です(15人)。時間量は,時間に人数を乗じた数値です。

 人数と時間量の分布は,かなりズレています。週30時間以上するカジメンは,人数の上では8.8%しかいませんが,時間量では全体の36.0%をも占めています(黄色マーク)。逆に週5時間未満の層は,人数では35.2%もいますが,時間量ではたった5.6%しか占めません。

 両者のズレの大きさは,右端の累積相対度数をグラフにすることで,「見える化」されます。横軸に人数,縦軸に時間量の累積相対度数をとったマトリクスに,35の時間区分のドットを配置し,線でつなぐと,下図のようになります。


 曲線の底の深さによって,家事・家族ケアの格差の度合いが測られます。色付きの面積を2倍して,それを表すジニ係数を計算すると,0.549となります。一般にジニ係数は,0.4を超えると絶対水準として大きいと判断されますので,日本の男性の家事・家族ケア時間の分化,する者としない者の格差は大きい,ということになります。

 他国と比べた相対評価もしてみましょう。同じやり方で,日本を含む33か国の男性の家事・家族ケア時間ジニ係数を計算しました。調査の対象は38か国ですが,分析対象となる男性サンプルが少ない国は,除外しています。


 上図のランキングによると,日本は台湾に次いで2位です。3位は韓国。東アジアでは,男性の家事・家族ケア時間格差が相対的に大きくなっています。

 平均時間の絶対量と併せると,これら3国は,平均時間が短いと同時に,する者としない者の格差が大きい,という問題も提起されます(下図)。


 日本のサンプルは125人しかいませんが,家事をする者としない者を分かつ要因は何か。適当なラインを設けて,する群としない群に分け,予想される要因変数とのクロス集計をすれば,ある程度の解は得られるでしょう。

 仕事時間,妻が正社員であるか否か,三世代同居か,といった基本条件に加えて,どういう教育を受けたか(学歴)などとの関連も気になるところ。家事・育児格差も,子細な分析のメスが入れられるべき現象の一つです。