2016年9月18日日曜日

読売新聞『大学の実力 2017』分析①

 一昨日(16日)に表記の資料が刊行され,早速アマゾンで取り寄せました。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2016/09/004890.html


 全国の大学を対象に毎年実施される,国内最大規模の調査です。回答率も年々上がっており,今年は全国の国公私立大学の91%が回答したそうです。

 この調査に回答していない残りの1割弱の大学は,行ってはいけない「ヤバい」大学ということになるでしょうね。退学率などの情報を出したくない,ということですから。去年の報告書のあとがきに書いていましたが,都合の悪いデータも含め,情報をちゃんと出すかどうかは,当該の大学がどれほど誠実かを見極める指標になります。

 ちなみにこの本の売り上げは,被災地復興を担う学生の奨学金に充てられるそうです。買っちゃいましょう。

 さて私は,毎年この調査のデータの分析をしており,今年もそれをしようと思います。本を開くと例年通り,各大学の学部別に,いろいろなデータが掲載されています。「おや」と思ったのは,今年から調査対象の学部が専攻別に分けられています。文学,社会科学,理学・・・というように。

 これはありがたい。私は前から,文系(人文・社会系)の学部に絞った分析をしたいと思っていたのですが,それが可能になります。今年は,首都圏(1都3県)の私立大学の人文・社会系学部を分析対象とします。その数,297学部なり。

 分析の第一弾では,各学部の正規職員就職率退学率に注目します。この値が,入試偏差値とどう関連しているか。まあ,結果は予想できますが,データでしっかりと可視化してみるのもいいでしょう。首都圏の私大の文系学部に限った分析をできるのも,ありがたい。

 私は下記サイトを参照し,分析対象の学部の入試偏差値を調べました。偏差値が分かったのは,294学部です。この294学部を偏差値に基づいて群分けしました。偏差値45未満が92学部,45以上50未満が60学部,50以上55未満が49学部,55以上60未満が37学部,60以上が55学部,という具合です。
http://daigakujyuken2.boy.jp/kantoken.html

 この5つの群ごとに,正規就職率と退学率の平均値(average)を計算しました。双方とも,原資料に計算済みの数値が学部別に掲載されています。

 正規就職率は,2016年春の卒業生の正規職員就職者数が,4年前の2012年春入学者の何%かです。退学率は,2012年入学者のうち,今年春の卒業までに何%が退学したかです。当該の学部に入った者のうち,4年後の卒業時に何%が正社員になれるか,何%が中途で退学するか。こういう指標です。

 下表は,5つの偏差値群ごとの平均値です。


 どうでしょう。予想通り,正規就職率と退学率は,大学ランクときれいに相関しています。正規就職率の平均値は,偏差値45未満のE群では60.1%ですが,60以上のA群では70.5%です。

 A群の大学では,大学院への進学者が多いでしょうから,この層を分母から除外した就職率の平均値は,もっと高くなると思われます。

 退学率もきれいに相関しています。E群では16.4%ですが,偏差値が上がるにつれて平均値はリニアに下がり,A群ではわずか2.9%であると。上表の傾向をグラフにすると,以下のようになります。


 オーソドックスな折れ線グラフですが,退学率は傾斜が大きい。正規就職率も,進学者を分母から除いた場合の率であれば,5つの群の間の差はもっと大きくなるでしょう。

 これで終わりでは芸がないので,あと一つ,やや凝ったグラフを作ってみました。横幅の大小で,5つの群の量の比重を表現しています。各群の学部数(上表)に基づく比重です。


 学部の数の上では,最下層のE群が最も多くなっています。ユニバーサル化した日本の大学教育は,下が厚いピラミッド型になっている点にも注意が要ります。

 誰もが肌で感じている現実の可視化です。首都圏,私大の人文・社会系学部に限ったデータであるのもミソです。地域性や専攻の影響は除外されています。

 レポートの第2弾では,一般入試の経由率が偏差値群でどう違うかをみてみます。次回になるかどうかは分かりませんが。