2018年4月21日土曜日

いのちの格差(2015年)

 2015年の『市区町村別生命表』が,厚労省より発表されました。市区町村別に平均寿命が分かる資料で,高い順に並べたランキングが公表され話題になっています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/ckts15/index.html

 男性の平均寿命のトップは,横浜市の青葉区とのこと(83.3歳)。この名誉?に,横浜市長も大いに喜び,「区民意識調査で健康への関心の高さや実践が確認されており,取り組みが奏功しているのではないか」とコメントしています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180419-00025286-kana-l14

 毎度言いますが,私はこの手の報道に接すると,原資料に自ら当たって詳細なデータを作ってみたくなります。首位は横浜市青葉区ですが,他にどういう地域が上位に挙がっているか。垣間見てみましょう。

 原資料では,男性と女性にわけて平均寿命が示されていますが,社会状況を鋭敏に反映する男性に注目します。地域差が大きいのも,女性より男性ですので。下の表は,首都圏(1都3県)の中で,男性の平均寿命が82歳を超える市区町村の一覧です。



 82歳を超える市区町村は23ですが,そのうちの12は神奈川県,7は横浜市の市区です。強いですねえ。上位5位は,横浜市青葉区,川崎市麻生区,東京の世田谷区,横浜市都筑区,川崎市宮前区,となっています。

 この表をツイッターで発信したところ,セレブの街が多いというリプが多く寄せられましたが,確かにそんな感じですね。

 それは後で触れるとして,1都3県の242市区町村の平均寿命マップを作ると,以下のようになります。80歳未満,80歳台,81歳台,82歳以上の4階級で塗り分けた地図です。



 濃い色は,先ほど紹介した長寿の地域ですが,結構固まっていますね(東京南部~神奈川北東部)。長寿のエリアというのも見出されます。

 面白いのは,都内23区です(青色の枠内)。狭いエリアの中に,4つの色が含まれています。寿命の地域的分化がはっきりしている,ということです。この部分を拡大してみましょう。



 西高東低の傾向が明瞭です。長命の山の手と,短命の下町。この分化(segregation)が,住民の所得水準とリンクしているであろうことは,土地勘のある人ならすぐお分かりかと思います。

 2013年の平均世帯年収との相関係数を計算すると,+0.65となります。年収が高い区ほど,寿命が長い傾向です。残酷ですが,よい医療を受けられるかどうかは,経済力に左右されますからね。

 ちなみに大阪市内の24区のデータでみると,年収と寿命の相関はもっとクリアーです。以下に掲げるのは,平均世帯年収と男性の平均寿命の相関図です。



 年収が高い区ほど寿命が長い傾向が,都内23区にもまして明瞭です。相関係数は+0.84にもなります。私は,大阪の土地勘はありませんが,この西の大都市では,地域による階層の「棲み分け」が東京よりも顕著なのでしょうか。

 どれほど生きられるかもおカネで決まる「いのちの格差」に愕然としますが,寿命と関連するのは経済力だけではありますまい。よい医療はおカネで変えますが,裕福な人でも暴飲暴食で早死にする人はいますし,逆に貧乏であっても健康への関心が高く,長生きする人もいます。寿命がトップの横浜市青葉区の市長も,冒頭で紹介したように,区民の「健康への関心の高さや実践」が功を成したと指摘しています。

 都内23区のデータでみると,男性の平均寿命は年収よりも高学歴率と強く相関しています。2010年の大学・大学院卒人口率(『国勢調査』による)との相関係数は,+0.85です。年収との相関係数(+0.65)よりも高くなっています。

 喫煙率や飲酒率は,学歴の高さと逆相関ですからね。おカネだけでなく,当人の心がけも重要であることが示唆されます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2017/05/blog-post_24.html

 ただ,人によって考え方は違います。私の恩師は高い知性の持ち主でしたが,「長生きなんてしても仕方ない」と,煙草をスパスパ吸って70歳で亡くなられました。
 
 都内23区でみると,男性の平均寿命は,最高の千代田区で82.8歳,最低の足立区で79.4歳です(2番目の地図)。違いはたった3年ほど。3年長生きするために,一生懸命頑張るのもどうかなという気がします。私も恩師と同じく,長生きしたいなんて思っていませんので。寿命が長いって,いいことなんだろうか?

 名著『完全自殺マニュアル』の筆者・鶴見済さんが,次のように言われています。
https://twitter.com/wtsurumi/status/986623356270272513

 「命は大切ですが「命の重み重み」と言われ過ぎていて,自分としては人生をもっと軽く考えたい。…何もかもくだらないとか,どうでもいいと思ってしまった方が楽になる」。

 まったくその通りだと思います。私のように,経済資本も社会関係資本もない輩が生き長らえているのは,こういう思いが土台にあるからです。

 なおここでは,大都市の東京・大阪のデータを観察対象にしましたが,貨幣経済の浸透度が比較的低い地方なら,事態は違っているかもしれません。モノをいうのは,経済力よりも人間関係の量ではないでしょうか。後者は,孤独に苛まれない,精神の健康をもたらす資本です。