2019年5月27日月曜日

性役割観の都道府県比較

 「夫は外で働き,妻は家を守るべし」。聞くのも恥ずかしい伝統的性役割観ですが,日本は先進国の中では,それが強固な社会です。

 メディアにとっては,この意識が地域によってどう違うかは,読者にウケるネタであるようで,性役割意識の都道府県ランキングの記事をよく見かけます。私は,鹿児島と東京の暮らしを知っていますが,性役割観は,郷里の鹿児島のほうが強いかなという感覚を持っています。

 ネットメディアでは,お粗末なネットアンケートでとったデータが報じられますが,公的な調査資料もあります。内閣府が2015年2月に実施した「地域における女性の活躍に関する意識調査」です。調査対象は,各県の20歳以上の成人男女です。
http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/chiiki_ishiki.html

 調査票をみると,伝統的性役割に関する質問が多数盛られていますが,最初のほうに置かれている,ベーシックな設問への回答を拾ってみましょう。「自分の家庭に限らず一般に,夫が外で働き,妻が家を守るべき」という考えについて,どう思うかを問うものです(Q4の2)。

 「そう思う」ないしは「ややそう思う」の回答比率を出してみます。男性でみると,この比率は,東京が34.3%,鹿児島が32.6%となっています。おや意外ですね。微差ですが,鹿児島のほうが低くなっています。肌感覚と違う結果が出るのも面白い。

 下の表は,47都道府県の成人男女の肯定率の一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値で,上位5位の数値は赤色にしています。


 男性は福岡の44.8%から岩手の29.4%,女性は山口の33.2%から福島の21.3%というレインヂです。同じ日本でも,地域が違えば性役割観の強度も異なることが知られます。

 九州で高いという傾向でもありません。上位県(赤字)の分布をみても,明瞭な地域性を見いだすのは難しい。一昔前なら西高東低のような図柄になったかもしれませんが,今はそうでもないようです。男女共同参画の時代ですが,各地域の啓発活動の影響もあるのではないでしょうか。ジェンダー意識というのは,歴史・風土に規定された「固定的」なものと見るべきではありません。

 上表のデータをグラフにしてみましょう。私は,男性の意識(a)を横軸,ジェンダー差(a-b)を縦軸にとったマトリクス上に,47都道府県を配置してみました。昨日,ツイッターで発信したグラフと同じものですが,関心を引いているようですので,ブログにも載せます。


 右上は,働く女性に対する風当たりが強い県といえるでしょうか。九州の中枢県,福岡県の皆さんにとってはショッキングなグラフかもしれません。

 ツイッターでこのグラフを出したところ,「福岡に帰らない理由はコレ」「経済発展や人口増加が著しく,勢いがあるのに,これだけがネック」というリプが寄せられました。男性と女性の意識差も大きくなっています。男性への啓発を!と言いたいですね。男性と女性の意識差が最も大きいのは,中部の静岡県なり。

 対極の左下は,偏狭なジェンダー意識が相対的に薄い県です。岩手県,千葉県,群馬県ですか。岩手県の達増知事が,ツイッターでこの結果に興味を示されていました。

 ちなみに各県の性役割意識は,子育て期の女性のフルタイム就業率とマイナスの相関関係にあります。地域のクライメイトの影響,侮りがたしです。ただ,女性が働くのが当たり前の地域では,人々のジェンダー意識も自ずと薄くなる,という逆の因果経路もあるかと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/1132856547929780226

 今から4年前の2015年の調査データですが,5年のスパンを開けた来年(2020年)に,同じ調査をやってほしいです。政策の成果は,定点観測によって,嘘偽りない形で計測されます。

 なお,伝統的性役割意識への賛成度が低いといっても,安心はできません。「女性も男性と対等に働くべし」という意識の下には,「女性は仕事も家事も育児もやれ」という,歪んだ期待が潜んでいることがしばしば。女性のフルタイム就業率が高い東北や日本海沿岸地域では,こういう重圧がないとも限りませんよね。