2020年4月15日水曜日

男性の生活の偏り

 コロナウィルスの影響により,テレワーク,自宅勤務の動きが広がっています。週末には外出自粛令も出されています。

 外は怖いが家の中は安全。為政者はこう思っているのでしょうが,家の中でもよからぬことが起きることが懸念されています。親子とも家に籠ることでストレスが高じ,虐待やDVが起きるのではないか。夫婦間のいざこざも起きているようで,家族と四六時中一緒にいたくない人向けに,居場所の部屋をレンタルする業者も現れています。

 普段との生活ギャップが大きいのは,働き盛りのお父さんでしょう。いつも仕事ばかりで,家のこと(家事)はほとんどしない。妻にすれば,何もしない夫がずっと家にいるのは苦痛になる。ツイッター上では,「大きな子どもが1人増えたようだ」という,妻の嘆きも見られます。夫婦間の葛藤の火種は多そうです。

 これも,普段における男性の生活が偏っている故のこと。生活は仕事一辺倒,家庭内での仕事の分担もうまくいっていない。その様をデータで可視化するのは容易いことです。

 OECDの「Gender data portal 2020 Time use across the world」という資料に,15~64歳の成人男女の生活時間が出ています。各種行動の1日あたりの平均時間です。私は,男性の仕事,家事,女性の家事という3つの数値を拾ってみました。原資料に出ている,2016年の日本の数値は以下のようです。
http://stats.oecd.org/

 男性の仕事時間=360分
 男性の家事時間=14分
 女性の家事時間=148分

 仕事時間が360分(6時間)と短いことに違和感を持たれるかもしれませんが,非正規雇用者や無業者も含んだ数値だからです。これをもとに,生活の歪みを可視化する2つの指標を計算できます。

 ワークライフバランス指数=14/(360+14)=3.8%
 家での妻との家事分担率=14/(14+148)=8.7%

 仕事と家事という2つのタスクの構成比をとると,家事の比重は3.8%でしかない。妻との家事分担率は8.7%,1割にも達しません。家事の9割超は妻はしていると。ひどい数値ですが,「さもありなん」ですよね。

 「オトコってのはそういうもの。万国共通のこと」。こんなふうに思うなかれ。国際比較をやると,日本の「ひどい」現状が露わになります。以下の表は,同じ数値を33か国について出したものです。


 算出された数値(右欄)をみると,2ケタがほとんどですね。男性のWLB指数のマックスはフランスで35.9%,家事分担率はスウェーデンの43.6%です。

 フランスでは男性のタスクの3分の1が家事で,スウェーデンでは男性の家事分担率が半分に迫る勢いです。個の生活を重視する国,男女平等が進んでいる国の性格が出ているように思えます。

 対して日本の数値(3.8%,8.7%)は,どちらもインドに次いで低くなっています。ワースト2です。数値の絶対水準から生活が著しく歪んでいることが分かるのですが,他国と比べると現状の酷さが際立ちます。

 グラフで視覚化しておきましょう。WLB指数と家事分担率のマトリクスに,OECD加盟の30か国を配置します。それだけでは芸がないので,各国の労働生産性(就業者1人あたりのGDP額)をドットの大きさで表しましょう。労働生産性は2016年のもので,『世界の統計 2020』から得ました。


 何も言いますまい。日本の無様な位置が「見える化」されています。OECD加盟国の中では,横軸,縦軸とも最も低いからです。

 生活に占める家庭の比重が低い,つまりは仕事に生活のほとんどを捧げているためなんですが,労働生産性はさほど高くありません。右上にある,生活のバランスのとれた国のほうが労働生産性に優れています(ドットが大きい)。

 家族との生活を大事にするため時間内に集中して課業をすませる(残業は無能の証),仕事のICT化が進んでいるなど,要因はいろいろ考えられます。コロナに見舞われている今では,後者の要因は非常に強みとなります。

 コロナの到来により,日本も強制的に自宅勤務型になりつつあるのですが,今回のデータから分かりように,普段とのギャップがあまりにも大きい。家庭内で最も波風が立っているのは,日本かもしれません。

 ピンチはチャンス。働き方改革を促す契機と言われていますが,家庭生活の在り方も見直したいものです。女性の社会進出と並行して,男性の家庭進出も進めないといけません。