2020年4月3日金曜日

ジェンダー不平等の自覚度

 2019年の日本のジェンダーギャップ指数(GGI)は過去最低の121位だったそうです。GGIは,政治,経済,教育,健康・生存の4つの観点から,各国の男女の平等度を数値化したものです。

 日本は男女平等が遅れた国であることは,ちょっと考えれば分かります。政治では国会議員の女性比率が低い,経済では管理職の女性比率が低い,給与の性差が大きい,教育では大学進学率の性差が大きい,医学部に女子を入れまいと点数操作する,健康では睡眠時間や健診受診率等に性差がある…。マイナス材料はいろいろあります。本ブログでも,これらのデータを繰り返し提示してきたところです。

 しかし国民の意識をみると,「あれ?」という傾向が出てきます。ISSPが2009年に実施した「社会的不平等に関する意識調査」では,「成功するには,男性であるか女性であるかが重要だ」という項目に対する反応を調べています(Q1k)。選択肢は以下の5つです。

 1 Essential
 2 Very important
 3 Fairly important
 4 Not very important
 5 Not important at all

 1と2の回答比率を拾うと,日本は5.6%,韓国は10.0%,アメリカは10.9%,イギリスは9.5%,ドイツは14.7%,フランスは9.4%,スウェーデンは10.1%,となっています(18歳以上の回答)。自国の男女格差の自覚度ですが,日本は目ぼしい国の中で最も低くなっています。

 うーん,客観的にみてば日本は欧米諸国に比して男女格差が大きく,GGIでもはっきり数値化されているのですが,それを自覚している国民の率は相対的に低いようです。

 上記の1「Essential」に5点,2に4点,3に3点,4に2点,5に1点を付して,男女格差の自覚度の平均点を出すと,日本は1.82点となります。調査対象40か国についてこの数値を出し,高い順に並べると以下のごとし。



 首位は南アフリカ,2位はフィリピン,3位は中国となっています。これらの国では,日常生活において男女不平等が大きいでしょう。中国では女児は歓迎されず,親が出生届を出すのをためらったり,酷いケースでは間引きなんてのもあると聞きます。事実,この国の子ども人口をみると,「女子/男子」比がかなり偏っています。

 欧米の主要国がある程度の間隔を置いて散らばり,日本は下から4番目となっています。「成功するには,男性であるか女性であるかが重要だ」という意見への肯定度が,国際的にみて低い社会です。

 客観的にて日本は男女格差が大きい国で,GGIの数値でも実証されています。肌感覚に照らしても,それを裏付ける材料はいくらだって出てきます(上述)。にもかかわらず,ジェンダーによるライフチャンスの規定性への意識に乏しい,ジェンダーセンシティブでないのは,どういうことか。

 上表は2009年のISSP調査のデータですが,これを同年のGGIと絡めると,現実と意識のギャップが露わになります。後者のGGIは,ウィキペディアに出ているものを使わせてもらいました。



 ジェンダー不平等の現実と,それに対する国民の意識(自覚度)のマトリクスに,調査対象の39か国(先ほどの表の台湾を除く)を配置したグラフです。

 横軸を見ると,GGIはフィンランド等の北欧諸国で高くなっています(首位はアイスランド)。南アフリカやフィリピンも高いですが,政治家や管理職の女性比が高いなど,政治・経済の面で稼いでいるためです。日常生活の面では男女格差(女性蔑視)が大きく,国民もそれを強く自覚しています(縦軸)。

 日本のGGIは下から3番目で,縦軸の男女格差意識も下から3番目。男女格差が大きいにもかかわらず,その自覚度が低い社会。現にある不平等を自覚している点で,お隣の韓国のほうがマシです。

 私はニューズウィークの記事にて,「成功するには,裕福な家に生まれることは重要だ」の意識の国際比較をしたことがあります。肯定の回答が低いのは,日本と北欧諸国です。教育費が無償の北欧は,社会移動が開けていると思うので「さもありなん」ですが,日本はどうですかねえ。大学の学費はバカ高ですし…。

 記事に載せた,公的教育費支出の対GDP比と絡めたグラフをみると,日本の特異性が見て取れます。政府が教育にカネを使わない(費用負担を家計に押し付ける)にもかかわらず,日本国民は,社会移動の閉鎖性への批判意識が弱い。「がんばれば成功できる」イデオロギーによって,現実をへの目が曇らされている。政府の怠慢が隠蔽されているともいえるでしょう。

 ジェンダー不平等の自覚の弱さも,同じ文脈で捉えることができるかもしれません。

 ジェンダーについては,学校教育でもっと積極的に取り上げる余地があるかと思います。この言葉は,高校の現代社会(新学習指導要領だと公共)の教科書で初めて出てきますが,小学校の社会科の教科書に載せたっていいでしょう。

 私は,ジェンダーという概念を初めて知ったのは,大学のジェンダー論の授業においてです。担当は村松泰子先生で,これまで自分が親や周囲から刷り込まれていた固定観念が大きく揺さぶられました。この「相対化」をもっと早い段階でできたらなと思います。

 私が出すジェンダー統計を授業で使いたいと言ってこられる中高の先生が多いですが,大歓迎です。揺るぎないデータで,若き青少年の目を拓き,ジェンダーセンシティブにしてください。日頃目にしている日本の状況は普遍的でも何でもないと。
https://twitter.com/tmaita77/status/1061061710230896640

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 最初の表(ジェンダー不平等の自覚度ランキング)をツイッターで発信したところ,「弱者がモノを考える気力がなくなっているからではないか」という意見が寄せられました。

 「モノを考える気力がない」とは強烈ですが,思い当たる所はあります。日本人の読書は減っており,それは働き盛りの層で顕著です。人手不足で過重労働がまん延しているためでしょうか。

 OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」によると,「新しいことを学ぶのは好き」という知的好奇心も低し。各国の30~40代(働き盛り)を取り出し,労働時間と関連付けてみると「!」という事実が出てきます。


 長時間労働の国ほど知的好奇心が低い,という傾向です。これをみて,「長時間労働は知的好奇心を枯らすのか」という疑問を持つのは容易い。右下の日本では,現実にあるジェンダー格差に思いを巡らす余裕もなし。左上の社会は,ジェンダー格差にセンシティブな国ばかりです。

 これは今から8年前の調査データです。働き方を変え,日本も左上にシフトしないといけません。コロナに見舞われている今は,その絶好の機会ですよね。

 頭を使わず,これまで通り惰性に流されるままなら,もっと右下に移行してしまうでしょう。これから労働力人口はどんどん減ってきますので。旧来の人海戦術型と決別し左上に浮上するか,それとも右下に堕ちて行くか。それは,我々次第です。