2020年5月2日土曜日

失業率による自殺者数の見積もり

 緊急事態宣言とやらが延長され,経済活動の停止が長引くことになりました。近くのソレイユの丘は,6月30日まで休園決定です。

 ピンチはチャンス,コロナで社会は変わる…。無責任に私もこういうことを書いてきましたが,そんな悠長なことを言ってられぬほど,社会の危機状況が色濃くなってます。飲食店の経営者は収入激減,国の支援金も要件が厳しく,認められたにしても支給は何か月も先。「もう首をくくるしかない」。こういう悲痛な声も聞かれます。

 前に,失業率と自殺率の時系列推移の相関関係を明らかにしたことがありますが,こういう時期ですので,当該の記事がよく読まれています。データを更新し,失職する人が増えることで,「首をくくる」人の数がどうなるかを,シュミレートしてみようと思います。

 総務省の『労働力調査』に,失業率の長期推移が出ています。働く意欲のある労働力人口のうち,職探しをしている失業者が何%かです。自殺率は,厚労省『人口動態統計』に計算済の数値が出ています。人口10万人あたりの年間自殺者数です。

 失業率が1953年以降の推移となってますので,この年から最新の2018年までのトレンドを見ましょう。


 戦後の66年間の経験事実ですが,シンクロしていますねえ。失業率が上がると自殺率も上がる。90年代の不況期で上がり,最近の好況期で下がっているのもそっくりです。相関係数は+0.7006となります。男性だけに絞ると,相関はもっとクリアーです。

 これは相関関係ですが,「失業⇒自殺」という因果関係を推認するのは容易いでしょう。貨幣経済が浸透しきった日本では,収入が途絶えることは,生をも脅かすことになります。親族や知人とも会いにくくなり,孤立も深まります。この国では,失業は経済的にも社会的にも痛手なのです。

 66年間の経験データから,失業率(X)と自殺率(Y)の関係を定式化すると,以下のようになります。

 Y = 1.9589X + 14.274

 失業率が1%アップすると,自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)が1.9589上昇する,ということです。

 過去の長期トレンドから得たこの式をもとに,想定した失業率ごとに,自殺率がどうなるか,年間自殺者の実数はどうなるかを,シュミレートしてみます。2018年の失業率は2%ほどですが,これを上記の式のXに代入すると,自殺率(Y)は18.2となります。人口を1億2千万人と仮定すると,年間自殺者の実数は2万1830人です。現実の数値と近いですね。

 多項式や指数関数式にすると,予測の精度がちょっと上がりますが,話を分かりやすくするため,単純な一次式でいきます。


 1%刻みで,失業率1%から20%までの事態を想定してみました。2018年の失業率は2%ほどですが,コロナショックでこれが5~6%になると,自殺者数は2.8万人,3.0万人を超えてしまいます。

 これは,世紀の変わり目の平成不況期で経験していたことです。われわれロスジェネが大学を出た頃は,年間自殺者3万人超の暗黒の時代でした。コロナ収束まで1年はかかるという見通しもありますが,経済停止が長引くと,失業率は軽く5%を超え,再び自殺者3万人超の時代にバックしちゃいそうです。

 それだけで済めばまだしも,失業率が2ケタになったら,目を覆いたくなる事態になります。失業率10%で自殺者4.1万人,15%で5.2万人,20%で6.4万人です。南欧のスペインは,このレベルの失業率がデフォルトですが,お国柄もあってか,自殺は少なく社会を維持できています。しかし,日本だと大変なことになりそうです。前々回の記事でも言いましたが,「自己責任」の内向性の強い国民ですので。

 上表から,失業率が1%上がると,年間自殺者が2351人増えることが知られます。労働力人口を6700万人とすると,そのうちの1%,つまり67万人の雇用がなくなることで,自殺者が2351人増えると。

 ヤフーのトップニュースで,コロナの影響で失業者77万人という事態もあり得る,という物騒な予測が発表されてました。77万人が失職したら,「首をくくる人」が3000人近く出るのではないでしょうか。

 身震いがしますが,過去の経験事実を定式化し,それに当てはめたシュミレート結果はこうです。思考停止の経済活動制限を続けたら,社会は崩壊しそうです。濃厚接触が不可避な危険な業種のみ制限,段階的な制限等,分別のある策はいろいろあります。

 さすがに政府もマズイと考えたのか,西村経済再生相は部分的な制限緩和を掲げ,明後日に「スマートな生活様式」なるものを発表するそうです。どういうものか,楽しみに待ちましょう。