2020年12月26日土曜日

都道府県別の大学進学率(2020年春)

  毎年書いているテーマですが,今年の分をようやく書けそうです。いつもは,8月に公表される『学校基本調査』の速報値からデータを出せるのですが,今年はコロナの影響からか,速報集計が簡素なもので,県別の大学進学率は出せず,12月下旬の確報値公表まで待ったという次第です。

 さて,2020年度の『学校基本調査』の結果概要によると,今年春の大学進学率は54.4%と報告されています。昨年は53.7%でしたので,0.7ポイント伸びたことになります。コロナ禍により大学進学率が下がったのではないかという予想もありましたが,それは当たりませんでした。

 ここでいう大学進学率とは,18歳人口ベースの浪人込みの進学率で,同世代の何%が4年制大学(以下,大学)に入ったか,というものです。計算方法には一定の仮定も含まれますので,分子と分母について詳しく説明しておきましょう。

 分子には,今年春の大学入学者数を使います。過年度の高卒者(浪人)も含まれますが,今年の現役生からも浪人経由で大学に入る人が同数いるとみなし,相殺するとみなします。今年春の大学入学者数は63万5003人(A)です。

 分母には,今年3月時点の推定18歳人口を充てます。その近似値として,3年前の中学校および中等教育学校前期課程の卒業者数を使います。3年前の2017年春の中卒者は116万351人,中等教育学校前期課程卒業者は5523人,合わせて116万5874人(B)です。

 よって,2020年春の18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率は,BをAで割って54.5%となる次第です。文科省の公表値(54.4%)とちょっとだけズレてますが,誤差としておきましょう。今では同世代の半分が4年制大学にいくことの,数値的な表現です。

 この大学進学率を都道府県別に出す場合,分子には,当該県の高校出身の大学入学者数を使います。私の郷里の鹿児島県だと,今年の春,本県の高校出身者で全国のどこかの大学に入った人は6161人で,推定18歳人口(3年前の中学,中等教育学校前期課程卒業者)は1万5958人。よって,鹿児島県の大学進学率は38.6%となります。先ほど出した全国値(54.5%)と比して低いですねえ。

 私は『学校基本調査』の結果原表から分子と分母を採取し,47都道府県の大学進学率を計算しました。ジェンダーの差もみるため,各県の男女別の数値も出してみました。以下の表は,その一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値で,赤字は上位5位を意味します。


 左端の合計をみると,今年春の大学進学率の全国値は54.5%ですが,最高の74.5%から最低の38.6%までの開きがあることが分かります。前者は東京,後者は九州の宮崎ですが,その差は2倍近くで,同じ国内とは思えぬほどの違いです。

 表をざっと見ると,おおよそ,都市的なエリアで高く,地方で低い傾向にあります。東北や九州といった周辺部は低いですね。大学が地域的に偏在しているためでしょう。山梨の大学進学率が高いのは,東京に近いためではないでしょうか。私は八王子の私大で7年ほど教えたことがありますが,大月から通っているという子がいましたね。

 首都圏でみて,東京が他の3県(埼玉,千葉,神奈川)を圧倒しているのは,分子が「当該県の高校出身の大学入学者」であるためと思われます。3県在住であっても,大学進学を志す生徒は都内の私立に行くことが多いため,3県の大学進学率は低く出ると。この点に留意してください。

 男子と女子でばらしてみると,大学進学率は男子の方が高くなっています。全国値でみると,男子が57.8%,女子が51.0%です。「女子学生亡国論」がささやかれていた頃と比べると,だいぶマシになってはいるのですが,大学進学チャンスにはジェンダー差があることに要注意です。男子と女子の学力差によるとは考えにくく,女子を自宅外に出すをためらう親が多い,1人しか大学に行かせられないなら男子優先,というような事情が未だにあるのかもしれません。

 なお男子と女子の差は県によって違っていて,男子の進学率が女子より10ポイント以上高い県もあります。右端の性差の欄をみると,北海道,埼玉,福井,山梨がそうです。私の郷里の鹿児島でも,男女差が8.6ポイントあります。女子の大学進学率は,鹿児島が最下位ですね。2015年頃,本県の知事が「三角関数を女子に教えて何になる」と発言したのも,記憶に新しい。

 一方,東京は自宅から通える大学が多いからか,大学進学率の性差はほとんどありません。徳島,高知,沖縄のように「男子<女子」の県もあります。県内に,女子の定員が多い大学でもあるのでしょうか。

 表の数値一覧だけでは味気ないので,47都道府県の大学進学率(男女計)をマップにしておきましょう。3つの階級で色分けすると,以下のようです。


 濃い色は50%以上ですが,数えるほどしかないですね。同世代の2人に1人が大学に行く時代といいますが,それは限られた地域の話であることが知られます。

 大学進学率の地域差が,子どもの能力差の反映とは考えにくいです。毎年,子どもの学力が首位の秋田の大学進学率は39.4%と低くなっています。下から4番目です。『年収は住むところで決まる』(プレジデント社)という本が話題になったことがありますが,大学進学チャンスも「住むところで決まる」という現実が,我が国にはあります。

 まずもって大きいのは,大学が都市部に偏在していることですが,大学進学の費用負担能力の違いも見ないといけません。よく知られているように,日本の大学の学費はバカ高ですので。データで見ると,大学生のお父さん年代の稼ぎって,地域差がスゴイのですよね。有配偶の45~54歳男性の所得中央値を計算すると,東京は704万円であるのに対し,私の郷里の鹿児島は463万円,秋田は445万円,最低の沖縄に至っては370万円です。
https://twitter.com/tmaita77/status/1342606388455862272

 地方は住居費等の生活費が安いので,稼ぎが少なくとも何とかなると言われますが,子の大学進学に要する費用は,東京と変わりません。いや,大学がある都会での下宿代を負担しないといけないので,それ以上です。少ない所得の中から,「学費+下宿費」のダブルの負担が課せられるわけです。都市と地方の経済格差が大学進学機会の地域格差に転化している事態を推認するのは,あまりにも容易い。

 地方の家庭のダブル負担を緩和すべく,地方から都会に出てきている下宿学生の家賃の半額を補助することはできないでしょうか。東大は,地方出身の女子学生の家賃補助をしていて,地方の才能を引き寄せるのに寄与しているとのことです。

 ちなみに大学進学率の地域格差の要因は,親世代の経済格差だけではありません。そもそも地方には,大卒学歴を要する仕事が少なく,大学進学の価値を認めない人も多し。「家業の農業を継がせるのに,大学なんて要らん。むしろ害になる」。私は修士課程のとき,鹿児島の奄美群島のフィールドワークをしましたが,こういう声をよく聞かされました。地域に大学がないのはもちろん,大学を出たという人もいないので,大学のイメージもわかない,という人もいましたね。

 大学進学年齢の親といえば,大よそ45~54歳くらいですが,この年齢層(学校卒業者)で大学・大学院を出ている人の割合を出すと,東京では40.5%ですが,鹿児島では16.9%,秋田では14.3%しかいません(『就業構造基本調査』,2017年)。

 この指標(親世代の大卒率)は,各県の大学進学率と非常に強く相関しています。横軸に親世代の大卒率,縦軸に大学進学率をとった座標上に,47都道府県を配置すると以下のようになります。大学進学率は,最初の表の男女計の数値です。


 どうでしょう。大卒の親の率が高い県ほど大学進学率が高い,右上がりの傾向です。統計的に有意なプラスの相関で,相関係数は+0.8152にもなります。親年代の所得よりも,大学進学率と強く相関しています。

 家庭の経済力もですが,親が大学とは何たるかを心得ているか,大学進学の価値を認めるか,さらには地域に大学進学を当然視するクライメイト(カルチャー)があるか,ということが大きいと思われます。なお親世代の大卒率(上図の横軸)は,男子よりも女子の大学進学率と強い相関関係にあります。女子のほうが,親の意向の影響を被る度合いが高いようです。まあ,肌感覚に照らしても分かりますよね。

 ここまでくると親の考え方や地域文化の次元であって,外部からとやかく言う(働きかける)のは余計なお世話のようにも思えますが,東京工業大学は,地方の非大卒家庭の学生に返済義務なしの奨学金を給付する,という政策を発表して話題になりました。いろいろ批判もあったようですが,親の頑なな意向を和らげるうえで,こういう政策もありなのかな,という気もします。

 以上,大学進学率の地域格差の実態と,その背景要因について,思いつくままのことを綴ってきました。子どもの学力トップの秋田の大学進学率がなぜ低いか,能力とは無関係の居住地域の社会経済要因によって進学が阻まれることが多々あることについて,幾分なりともイメージしていただけたのではないでしょうか。

 私の大学院時代のテーマは「高等教育機会の地域格差」でしたが,亡き恩師が煙草をふかしながら「大学進学率が地域によって違うなんて当たり前だろう,何が問題なんだ?」とよく聞いてきたものでした。当時は返答に窮したものですが,今となっては,大学進学率の地域による違いは,是正すべき格差であると言えると思います。

 県レベルでみてもものすごい違い(74.5%~38.6%)があること(最初の表),各県の進学率は社会経済指標とリンクしていること,地方に埋もれた膨大な才能の存在があること(秋田…),などが根拠です。

 まずもってなすべきは,上述のように,地方学生の進学費用を緩和すべく,都市部での下宿費用の補助かと思います。高等教育修学支援制度により,低所得層の学費負担はかなり緩和されましたが,下宿学生の場合,この制度の恩恵を受けられる所得制限をもっと緩めてもいいでしょう。

 地域の文化への働きかけというのはなかなか難しいのですが,大学がないへき地に学生を派遣し,大学生活について語らせる,というのはどうでしょう。実をいうと,奄美群島のフィールドワークの結果をまとめた私の修論を,鹿児島大の某教授が面白がってくれ,「離島に学生を行かせるか」と言ってくれたことがありました。へき地在住の勉強好きな子どもたちの進路展望に,大学進学というオプションをちらつかせるのです。

 教育基本法第4条が定める教育の機会均等原則は,高等教育段階においても適用されるべき理念なのです。