2019年8月2日金曜日

結婚前向き人口

 人口は男性と女性に分かれますが,男性のほうがちょっと多く生まれますので,結婚期では「男余り」が生じます。

 男児選好が強く,堕胎や間引き等で女児を意図的に減らしているインドや中国では,結婚期の未婚男女では,男性が女性よりかなり多いとのこと。人口大国の中国も,間もなく人口減少の局面に入りますが,その最大の要因は,結婚期の性別人口のアンバランスなのではないかと言われています。

 結婚期の男余りは日本も同じ。25~34歳の未婚人口(日本人)をみると,男性が375万538人,女性が297万2769人となっています(『国勢調査』2015年)。男性5人に対し,女性4人です。差の実数は77万7769人。こんなにも差があるのですね。

 インドや中国の男余りの程度は知りませんが,日本もかなりスゴイ部類なんじゃないでしょうか。しかし,男余りを問題視するニュースや論説はあまり見かけません。むしろ,相手が見つからないと嘆く女性の問題のほうが目立っているように思えます。

 ソロ社会研究者の荒川和久氏は,「300万人男余りでも女性が婚活で苦労する背景」という記事を書かれています(東洋経済オンライン,7月25日)。そこで言われているのは,未婚者の頭数は「男性>女性」だが,結婚を前向きに考えている人でみると違う,ということです。

 そうですよね。未婚者の全員が結婚を望んでいるとは限りませんし。2015年の国立社会保障・人口問題研究所『出生動向基本調査』によると,25~34歳の未婚者のうち,1年以内に結婚する意志のある者の率は,男性で54.1%,女性で66.6%です。荒川氏の言葉でいうと,結婚に前向きな人の率は,男性より女性で高いようです。10ポイント以上の差があります。

 この比率を25~34歳の未婚男女人口(上述)にかけると,男性は202万7987人,女性は198万996人となります。1年以内に結婚する意志のある,結婚前向き人口です。未婚人口に比して,かなり接近しますね。未婚人口では男性は女性の1.26倍でしたが,結婚前向き人口に絞ると1.02倍です。

 まあこれでも,男性が女性より多いわけで,女性が婚活で苦労するようには思えないのですが,地域別にみると様相が違うのです。25~34歳の未婚者の結婚前向き率(男性54.1%,女性66.6%)を,47都道府県の同年齢の未婚者数にかけて,結婚前向き人口にしてみると,以下のようになります。


 未婚者数だとどの県でも「男性>女性」なんですが,結婚前向き人口だと違います。17の県で,女性のほうが多くなっていますね(赤字)。ゴチは,女性が男性より1.1倍以上多い県です。大阪,奈良,福岡,そして郷里の鹿児島ですか。

 鹿児島は,進学や就職で男性がどっと出ていくので,未婚男女人口がかなり接近していて,結婚前向き人口率が「男性<女性」なものですから,こういう結果になるんですなあ。「結婚したいなら帰ってこい,居残っている女性はたくさんいるぞ」という,高校時代の恩師を言葉を思い出します。

 よい言い方ではないですが,結婚前向き人口の「女性/男性」比は,男性にとっての「結婚しやすさ」の尺度になるかもしれません。最も高いのは鹿児島で,1.17倍! 若年人口を呼び寄せるに際しては,こういう情報を添えるといいのでは…。

 結婚前向き人口が男性より女性で多い県は,西で多いことが分かります。マップにすると,西高東低の模様がはっきりと浮かび上がります。「女余り」の県です。

 荒川氏がいう「男余りでも女性が婚活で苦労する背景」が分かるような気がします。かつ,女性はある条件によって結婚相手をソートする傾向がありますので,候補となる男性はますます絞られてしまいます。ある条件とは,ズバリ年収です。

 昨年に内閣府が実施した『少子化社会対策に関する意識調査』によると,20~40代の未婚女性の半分弱が,年収500万円以上の男性を結婚相手として望んでいます。対して同年齢の未婚男性の年齢をみると,この条件を満たすのは15.9%しかおらず,53.3%が年収300万円未満のプアです。悲しいかな,このレベルの稼ぎでよしとする女性は,全体のたった9.0%しかいません。

 キツイですねえ。「いや,都市部では年収の高い未婚男性がたくさんいるはずだ」と,期待を持たれるでしょうか。残念ながら,さにあらず。25~34歳の未婚男性の所得中央値を都道府県別に計算し,高い順に並べると,以下のようになります。


 若い未婚男性のフツーの稼ぎですが,大都会の東京でも,500万円どころか400万円もいっていません。29の県が300万円を割り,250万円にも満たない県も6県あります。郷里の鹿児島は,その一つです。この県では,300万円稼ぐ男性に出会えたら御の字です。

 未婚女性の半分が望む「年収500万円」のラインを超える人って,若い未婚男性の何%くらいなんでしょう。25~34歳の未婚男性有業者の中でのパーセンテージを,都道府県別に出せます。上位5位と下位5位は,こんな感じです。

 上位5位=東京22.4%,愛知13.9%,千葉13.7%,神奈川12.7%,埼玉12.1%
 下位5位=宮崎2.5%,沖縄2.3%,大分1.5%,高知1.4%,鹿児島0.4%

 東京では4人に1人ですが,競争は楽ではありません。下位の地方県は悲惨で,鹿児島では0.4%,250人に1人しかいないじゃないですか。

 うーん,最初の表でみたように,鹿児島は結婚前向き人口の「女性/男性」比は全国一。それでいて,未婚男性の所得水準は全国最低レベル。女性の婚活の苦悩は多そうです。

 まあ,年収500万円を望むというのは,内閣府の調査の数字であって,鹿児島の女性でそういうことを思っている人は少数派でしょう。本県は共働きも多いので,二馬力で何とかやっていこう,という気概も強いはず。本県の25~34歳女性の既婚率は50.7%で,47都道府県の中では高い方です(東京は44.9%)。*2015年の『国勢調査』による。

 随所で言っていますが,女性が結婚相手に高い年収を望むことは,「高望み」の文脈で捉えるべきではないと思います。そうならざるを得ない事情があるわけです。結婚するとフルタイム就業が難しくなる,稼げない…。女性の社会進出,ジェンダー平等が進んだ北欧諸国において,収入に関わる未婚男女の擦れ違いなんてあるのでしょうか。データがあったら,ぜひ見てみたい。

 荒川さんのアイディアを参考に,結婚前向き人口というのを出してみました。その性別構成は,地域によって違っています。結婚を欲する若い男性のみなさん,最初の表を参考にされ,西南への移住なんてのはどうでしょう。