2014年7月27日日曜日

東京都内23区の学力の推計

 矢野和男氏の筆になる『データの見えざる手-ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則-』(草思社)という本が話題になっています。アダム・スミスの「神の見えざる手」を模したグッド・ネーミングですね。

 内容紹介の文章に,「人間の行動を支配する隠れた法則を方程式で表す」という一文があります。これは統計学の基本テーゼであり,重回帰分析や数量化Ⅱ類なども,この考え方に依拠しています。

 7月19日の記事では,所得,高学歴率,大学収容力という3要因から各県の大学進学率を推計する重回帰式をつくりましたが,今回は,子どもの学力についても同じことをしてみようと思います。タイトルにあるような,東京都内23区の学力の推計です。

 東京都は毎年,独自の学力調査を実施しています。『児童・生徒の学力向上を図るための調査』です。私は都教委に情報公開申請をして,2013年度の都内市区別の結果を入手しました。地域分散の大きい,公立小学校5年生の算数の平均正答率を分析対象とします。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2013/11/60nbs400.htm

 言わずもがな,各区の平均正答率は,地域の社会経済指標と強く相関しています。後者が分かれば,前者をほぼ正確に予測できるほどです。私は3つの指標をもとに,各区の学力を推計する重回帰式をつくってみました。その3要因について説明します。

 まずは,①住民一人当たり課税額です。地域住民の富裕度を表す指標ですが,こういう経済指標と学力は強く相関しているでしょう。通塾するにもお金がかかりますしね。出所は,2012年度の『東京都税務統計年報』です。

 その②は,高学歴人口率です。親の教育熱心度や文化嗜好と関わるものであり,こちらも学力と強く関連しているとみられます。大学・大学院卒人口が,学校卒業人口の何%を占めるかです。資料は,2010年の総務省『国勢調査』です。

 あと一つの要因として,③教育扶助受給率も計算に入れましょう。教育扶助とは生活保護の一種であり,学齢の子がいる生活困窮世帯に支給されます。貧困と学力の相関はよく指摘されますが,この指標も学力を強く規定しているでしょう。教育扶助受給率は,2012年度の教育扶助受給世帯数を,同年5月時点の公立小・中学生数で除して算出しました。分子の出所は『東京都福祉・衛生統計年報』,分母は都教委の『公立学校統計調査』です。

 下の表は,被説明変数である算数の平均正答率と,説明変数の3指標の一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけています。


 大都市という基底的特性を同じくしながらも,学力や社会経済指標の値は大きく違っていますね。学力のマックスは文京区,一人当たり課税額は,六本木ヒルズのある港区が最高ですか。さもありなんです。

 算数平均正答率と3要因との単相関係数を出すと,一人当たり課税額とは+0.6889,高学歴人口率とは+0.9052,教育扶助受給率とは-0.7969となります。いずれも1%水準で有意です。高学歴率との相関はスゴイですね。

 では,3要因を同時に投入して,各区の算数平均正答率を推計する重回帰式をつくってみましょう。3要因は互いに強く相関しているので,多重共線の問題が出るかと思いましたが,線形結合している変数はありませんでした。

 一人当たり課税額をA,高学歴人口率をB,教育扶助受給率をCとおくと,各区の算数の平均正答率を最も高い精度で予測する式は以下のようになります。

 算数の平均正答率=0.0354A+0.4431B-0.0978C

 各要因の規定力の強さは係数から分かりますが,各々の単位を考慮して標準化した標準化偏回帰係数(β値)にすると,Aが+0.0731,Bが+0.7084,Cが-0.1789となります。高学歴率の規定力がダントツですね。やっぱり,保護者の教育熱心度とかでしょうなあ。

 ちなみに,この分析の精度を表す決定係数は0.831であり,学力の区別分散の83%がこれらの3要因で説明されることが示唆されます。つまり,A~Cの3要因が分かれば,各区の学力をほぼ正確に予測できる,ということです。

 さて,上記の重回帰式を使って,各区の算数平均正答率の理論値を出し,上表の観測値と照合してみます。下の表は,両者の残差をとったものです。


 ほとんどの区が,±2ポイントの範囲内に収まっていますね。課税所得,高学歴率,教育扶助率だけで,子どもの学力はかなり予測できちゃうんだなあ。

 しかしここで注目すべきは,地域条件から期待されるよりも高い結果を出している区です。新宿区と足立区は,観測値が理論値を3ポイント以上上回っています。「がんばっている」区と評してよいでしょう。

 地域別の学力テストの結果は,こういう視点からも読むべきでしょう。報告書に記載されているままの観測値だけが問題にされますが,それはある意味,アンフェアというものです。地域条件も考慮すると,各地域の違った側面も見えてきます。足立区は,正答率の絶対水準は低いものの,地域条件から期待される水準に比せば高い結果を出している,「がんばっている」区と評されるわけです。

 はて,この区ではどういう取組がなされているのか気になりますが,区のホムペをみたところ,経済的理由により通塾が叶わない子どもを対象とした「足立はばたき塾」や,学習支援ボランティアを活用した学力向上施策が実施されているようです。
http://www.city.adachi.tokyo.jp/k-kyoiku/kyoiku/gakuryoku/index.html

 なるほど,こういう実践の成果ともいえるでしょう。その成果は,観測値だけでは分かりにくいですが,地域条件から演繹される期待値との残差という数値によって可視化されていますね。

 ちなみに,足立区の公立小学校の教育条件指標をみると,教員一人あたり児童数は18.8人,一学級あたりの児童数は29.0人であり,いずれも23区平均よりも高くなっています(2012年度)。私が前にやった分析では,学力の社会的規定性の克服に際しては少人数教育が有効という結果が出たのですが,ここでは違うのかな。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455

 現在,学力テストの地域別結果を公表する・しないで激論が交わされていますが,私は市区町村レベルのデータは公表してほしいと思っています。理由の1は,学力の社会的規定性を実証するには,県単位のマクロデータでは難しいからです。あと一つは,今回やったような残差分析に使いたいからです。

 観測値をそのまま読むのではなく,地域条件から期待される理論値と照合し,両者の差(残差)によって,各地域のガンバリ度を評価する。さらに,「がんばっている」地域でどういう実践が行われているかを丹念に観察し,それを広める努力をする。この仕事は,教育による社会的不平等の克服にも寄与することでしょう。

 長くなりましたので,この辺りで。学力テストの結果の読み方に関する,一つの問題提起でした。今日も酷暑ですが,よい休日をお過ごしください。

2014年7月25日金曜日

東京の通勤時間地図

 前期もそろそろ終わりです。私は今年度の前期は,水曜日と金曜日が出講でした。水曜は江東区の有明,金曜は埼玉の狭山です。大よその所要時間は,双方とも片道1時間半くらいです。結構遠い。

 しかし,水曜(5限)の帰りはちょうど夕刻のラッシュと重なりますのでたまりません。大崎から新宿までの埼京線,新宿からの小田急線は,殺人的な混み具合です。ぎゅうぎゅうに押しつぶされていると,「いったいどうなっているんだ?」という問題意識がわいてきます。

 通勤行動の時間的な偏り(集中度)については,昨日グラフをつくり,ツイッターで発信しました。ここでは,東京都内の地域別の通勤時間を地図化してみましたので,それをご覧に入れようと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/492247718639566849

 資料は,2008年の総務省『住宅・土地統計調査』です。本資料から,雇用者世帯の家計支持者の通勤時間分布(片道)を地域別に知ることができます。手始めに,都心の千代田区と私が住んでいる多摩市の分布をみていただきましょう。不詳は,集計から除外しています。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm


 当然ですが,分布が全然違いますね。千代田区は「15~30分」が突き出ていますが,多摩市は「75~90分」がピークです。私は,この中に含まれるかな。

 原資料には,分布の代表値として中央値(Median)が掲載されています。中央値とは,データを高い順から並べたとき,ちょうど真ん中にくる値です。この値は,千代田区が25.3分,多摩市が57.5分となっています。倍以上の違いじゃん。都心と郊外の違いがモロに出ています。

 では,通勤時間の中央値に依拠して各地域を塗り分けた地図を掲げます。データがやや古いですが,2008年の東京の通勤時間地図です。


 きれいな「西高東低」の模様になるかと思いきや,そうではありません。中心部の色が濃く,東西にいくにしたがって色が薄くなる「分断型」です。東の都心に職域が集中しているのではなく,東西に分散しているのですね。これは初めて知った。

 色が濃い地域では,東への通勤者が大半でしょうが,西への通勤者も少なからずいると思われます。まあ私も,後期の杏林大学は西の八王子だものな。いや,西の市郡では自地域で生活が完結している人が多いのかもしれません。

 来週の火曜(29日)に公表される,2013年のデータではどういう模様になるか。最近,テレワークなどの導入が進んでいるといいますが,全体的に色が薄くなっているのでは。そうだといいなと思います。

 さて,前期は埼玉はもう終わり,有明も30日の水曜でおしまいです。あの地獄のラッシュも,あと一回のガマンです。

 暑さ厳しき候,みなさまご自愛のほど。

2014年7月23日水曜日

大学生の学業・バイト・交際時間の変化

 総務省の『社会生活基本調査』は,各種の生活行動の平均時間や実施率を教えてくれるスグレモノです。1976年以降5年間隔で実施されていますが,1986年から最新の2011年調査の結果はネットでみることができます。

 私は,この25年間(四半世紀)にかけて,大学生のメジャーな行動時間がどう変わってきたかを調べました。着目したのは,学業,仕事(バイト),および交際・付き合いの3つです。

 大学生のマジメ化がいわれていますが,学業(勉強)時間は増えてきているであろう。最近,学生のブラックバイトが問題化していますが,バイト時間は増えているのではないか。これらの反動として,交際時間は減ってきているのではないか。こんな仮説を持って,データに当たってみました。

 原資料には,①総平均時間,②実施者平均時間,③実施率の3つが掲載されています。私は各年について,平日と日曜の数値を採取しました。

 なお大学生の数値を拾ったのですが,1986年から2006年の調査では,調査対象者に大学院生も含まれています。まあ,サンプル中の院生の数は微々たるものですから,大勢に影響はないでしょう。


 まずは平日のデータです。観察期間中の最大値は赤字にしましたが,どうでしょう。学業時間は,総平均,実施者平均とも2011年がマックスです。長期的にみても,大学生の勉強時間は増えているのですね。ちなみに,学業時間が最も短かったのは総平均でみると1996年,私の頃ではないですか(223分)。なはは・・・。今の学生さんに顔向けできませんなあ。

 その代わりかどうかは知りませんが,96年の学生はバイト実施率が最も高くなっています。平均時間でみても現在より長し。私の頃のほうが,バイトはしていたんだな。まあ,これはあくまで平均値であり,ブラックと呼べるレベルのバイトをしている者の率でみるとまた違うでしょうが。

 あと一つの交際をみると,ほほう,実施率はみるみる下がってきています。1986年では29.2%でしたが,四半世紀を経た2011年ではほぼ半減しています。平均時間も短くなっていますね。

 平日のデータですが,大よそ,巷でいわれる学生の「マジメ化・ウチ化」の傾向がデータでも確認されました。では,今度は日曜日をみてみましょう。


 学業時間は昔のほうが長いですね。86年の平均時間は際立って長し。この年だけ,サンプルに院生が多く含まれていたのでしょうか。実施者平均でみると2011年が241分で最も短くなっており,平日と真逆です。その分,バイト時間は増えていることから,最近では「平日は勉強,休みの日はバイト」というような色分けがされているように思えます。

 交際・付き合いのほうは,平日と同じく,実施率がリニアに減少しています。しかし,実施者平均は2011年が272分で最大です。このことは,遊ぶ学生とそうでない学生の分極化が出てきていることを示唆します。大学進学率が50%を超える今にあっては,Fランク(Nランク)など,いろいろな大学がありますしね。さもありなんです。

 いかがでしょう。今回のデータの知見をまとめると,世間でいわれる「大学生のマジメ化・ウチ化」傾向が支持されるとともに,休日の過ごし方に,学生間の開きが出ていることも知りました。これは,私にとっては発見です。

 学生バイトのブラック化は可視化されませんでしたが,次回(2016年)の『社会生活基本調査』のデータでは,どうなっているか分かりません。観察を継続していきたいと思います。

 今日の統計法では,『社会生活基本調査』の調査票を受講生に配布し,記入してもらい,それを集計して「受講生の1日」を明らかにしてみようかな。それを全国データと比較すると。自分たちの生活の相対化です。結構楽しんでもらえるかも。

2014年7月21日月曜日

お悩みのジェンダー差

 前々回の記事では,厚労省の『国民生活基礎調査』(2013年)データを使って,ライフステージごとの「お悩み一望図」を掲載しました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 多くの方が見てくださったようですが,性別の違いを知りたいという要望があったので,男女の図を並べたものをつくってみました。上記調査では,悩みやストレスがあると答えた者に対し,その原因を複数回答で尋ねています。寄せられた回答を合算し,その内訳を視覚的に表現した図です。


 縦長でちと見にくいかもしれませんが,いかがでしょう。思ったよりジェンダー差は小さいようですが,30代の子育て期で差が出ていますね。男性は仕事,女性は育児・教育の比重が比較的大きくなっています。

 あと,子ども期における「学業・受験・進学」の悩みは男子で多く,女子ではその分,「家族以外の人間関係」の比重が大きくなっています。こちらも,さもありなんです。女子の場合,グループとかの友達付き合いも気を使いますしねえ。雨宮さんの名著『ともだち刑』が想起されます。
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2760169

 いやー,やっぱり「視覚化」が一番。国を動かす国会議事堂の中に,こういうニッポンの闇を表現した統計図を貼るスペースを設けてほしいと思います。昔,世界の名画を壁に貼った「名画喫茶」が流行ったそうですが,名画ならぬ「統計喫茶」とかって商売になるでしょうか。「先生,やってみたらどううですか」と学生さんに言われています。

 不気味な統計図に囲まれて飲むコーヒーもまた格別でしょう。

2014年7月19日土曜日

県別大学進学率の規定要因

 昨年の9月12日の記事では,都道府県別の大学進学率を出したのですが,この記事を見てくださる方が多いようです。地方出身の方(私もそう)にすれば,日頃の実感が数値化された,ということでしょうか。

 また,各県の進学率は県民所得と非常に強く相関していることも知りました。大学進学率の都道府県差は,生徒個々人の意向や能力の差ではなく,外的な条件の違いに由来する教育機会の不平等の表れであることもうかがえます。わが国の大学の高学費・都市部偏在を思うと,さもありなんです。

 ところで,各県の大学進学率と強く関連しているのは,県民所得のような経済指標だけではありません。今回は,他のメジャーな要因をも考慮した分析をしてみようと思います。

 私は,47都道府県の大学進学率の要因として,県民所得の他に2つを考えました。高学歴人口率と大学収容力です。地域に大卒人口が多いことは,子どもの進学をプッシュするクライメイト要因になるでしょう。また地元に大学があることは,自宅からの進学が容易になるなど,費用負担の緩和にもなるでしょう。こんな見方です。

 ①県民所得は経済要因,②高学歴人口率は文化要因,③大学収容力は地理要因,と考えていただければよいと思います。ごく単純なフレームですが,この3要因だけで,大学進学率の県間分散の大方を説明できるのも事実です。

 ②と③について,計算の方法を説明します。高学歴人口率は,各県の学卒人口のうち,大学ないしは大学院を出た者がどれほどいるかです。資料は,2010年の『国勢調査』。県別にみると,最高の25.1%(東京)から最低の9.1%(青森)までのレインヂがあります。

 大学収容力は,各県の18歳人口に対し,大学入学枠のイスがどれほど用意されているかを表す指標です。計算式は,<県内の大学への入学者数/推定18歳人口>なり。分母は,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者を充てます。資料は,文科省『学校基本調査』。県間のレインヂは,138.5%(京都)から15.5%(和歌山)と甚だ大きくなっています。

 被説明変数である大学進学率と,3つの説明変数の県別一覧表を掲げます。いずれも,現時点で得ることのできる最新の数値です。県民所得は住民一人当たりの額であり,『日本統計年鑑2014』に掲載されていたものを使っています。

 大学進学率の計算方法は,お手数ですが,昨年の9月12日の記事をご参照ください。18歳人口ベースの浪人込みの進学率です。


 前の記事でも触れましたが,2013年春の大学進学率は,最高の東京(71.3%)と最低の岩手(33.9%)では倍以上も違います。同じ日本かと思うほどのすさまじい格差ですね。

 さて,このような地域差を説明する要因指標を3つ用意したのですが,大学進学率との単相関係数を出すと,県民所得は+0.759,高学歴人口率は+0.881,大学収容力は+0.797となります。ほう。費用負担能力(所得)よりも,地域に大卒者がどれほどいるかというクライメイトの効果が大きいのですね。まあ,個々の家庭でも,大卒の親のほうが進学に理解があるでしょうし。

 しかるに,上記の3要因は互いに強く相関しています。3つの要因との単相関を個々バラバラにみるのではなく,これらを同時に取り込み,各要因の独自の規定力を取り出す作業をしてみましょう。そのための分析手法として知られているのが,いわゆる重回帰分析です。

 重回帰分析とは,複数の説明変数から被説明変数を求める計算式をつくるものです。県民所得をA,高学歴人口率をB,大学収容力をCとすると,各県の大学進学率を最も高い精度で予測する式は以下のようになります。

 大学進学率=0.0054A+1.0251B+0.0878C+11.8792

 この式から各県の大学進学率の予測値を出し,上表の実測値と照合してみましょう。横軸に予測値,縦軸に実測値をとった座標上に,47都道府県を位置づけると下図のようになります。


 実線の斜線は均等線ですが,多くの県がこの線の近辺に収束しています。上下の点斜線は±5%の線ですが,43の県がこの範囲内に収まっています。先ほどの予測式の精度はかなり高いとみてよいでしょう。

 つまるところ,所得,高学歴率,および収容力の3要因が分かれば,各県の大学進学率をほぼ正確に予測できる,ということです。ちなみに,重回帰分析の精度は決定係数という指標で測られますが,今回の値は0.8712にもなります。大学進学率の都道府県分散の87%が,上記の3要因だけで説明されることを示唆します。

 さて,大学進学率に対する各要因の(独自の)規定度は,上記の予測式の係数で表されますが,3要因の単位を考慮した標準化が必要になります。詳細は省きますが,標準化された係数は,県民所得が0.2508,高学歴人口率が0.5124,大学収容力が0.2879です。これが標準化偏回帰係数(β値)であり,被説明変数に対する独自の規定力を表します。

 算出されたβ値をみると,高学歴人口率が最も高いですね。単相関でみた場合よりも,この要因の優位性が際立っています。やっぱ,経済要因や地理要因よりも,こういう文化的要因の影響が大きいのだなあ。たとえ貧しくとも,大卒の親は無理をしてでも子を大学にやるみたいな・・・。

 なお,男子と女子で分けてみると,大学進学率の要因構造はちょっと違っています。男子の進学率,女子の進学率を別個に被説明変数に立て,3要因による重回帰分析をしてみました。下の図は,算出されたβ値を図示したものです。


 所得の規定力はほぼ同じですが,高学歴人口率のそれは「男子>女子」です。男子の場合,進学に理解のある(高学歴)の親は,無理をしてでも進学させる。こういうことでしょうか。

 しかるに,大学収容力の影響力は女子のほうが大きくなっています。女子の場合は,保護者が自宅外に出すのを躊躇うためでしょう。私が高校の頃も,こういう女子生徒がいました。九大に行ける能力があるのに,女子だからということで,自宅から通える地元の鹿大に行けと。

 重回帰分析による,都道府県別大学進学率の要因分析でした。話を分かりやすくするために,ごく単純な枠組みの分析としましたが,より多くの要因を取り入れた精緻な分析もあります。教育社会学の代表テーマといえるものですしね。これまでの先行研究の到達点を教えてくれるものとして,朴澤泰男氏による以下の論文があります。
http://ci.nii.ac.jp/naid/130003397431

 私が今回,重回帰分析を使った分析記事を書いたのは,この手法についての質問を学生さんから受けたからです。まあ,基本的な考え方を分かってもらえればよいと思います。重回帰式の求め方や,β値の計算方法などは,別に理解しなくてもよいでしょう。今はコンピュータの時代。統計ソフト「エクセル統計」にて,被説明変数と説明変数の範囲をカバーし,ワンクリックすれば,立ちどころに必要な値が出てきます。

 学部の学生さんで重回帰分析とは。卒論で使うとのことでしたが,スゴイなあ。でもね。クロス集計や単相関だけでも,大抵のことは分かりますよ。

 今はエクセルとかSPSSで,高度な手法も簡単にできるため,それに振り回されるあまり,本質を見失うこともしばしば。果ては,難しい数式を並べて誤魔化すなんていう非道も・・・。本当の必要に迫られたらやる。これでいいではありませんか。

2014年7月16日水曜日

人生のお悩み一望図(2013年)

 昨日,2013年の厚労省『国民生活基礎調査』の結果が公表されました。3年に一度の大規模調査であり,対象者の悩みや生活意識などについても詳細に尋ねています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 その中で,悩みやストレスがあると答えた者に対し,その原因を複数回答で問う設問がありますが,寄せられた回答の内訳図をつくってみました。5歳刻みの年齢層別のグラフです。最新の「人生のお悩み一望図」をご覧ください。


 ご自身の悩みの領分を確認し,それがいつ頃まで継続するのか,近い将来にどういうトラブルが予見されるのか・・・。このような展望を持っていただければと存じます。

 1月2日の記事では,2010年のデータによる図を公開しましたが,とある方は,これをカラープリントして,デスクのマットに入れてくださっているそうです。「今の自分の位置が分かる。ありがたい」。こういう声をいただいております。

 上記の「お悩み一望図」を,せいぜい活用していただければと思います。

2014年7月15日火曜日

不安定な生活態度の形成要因

 非行とは,不安定な生活態度を形成した少年が,有害環境に接触することで生じます。前者は少年を非行へと押し出すプッシュ要因,後者はそれに引き込むプル要因です。

 これにかんがみ,非行の予防活動は,①少年の健全育成(プッシュ要因の除去)と②環境の浄化(プル要因の除去)からなります。後者は行政の役割ですが,前者は家庭や学校における人間形成のなせる業です。

 今回は,中学生の生活態度の不安定度を計測し,その高低が,家族密度や学校適応の程度とどう関連しているのかをみてみようと思います。対象を中学生に限定するのは,発達段階の上で第2次反抗期に位置し,諸々の心理的葛藤に苛まれやすい時期であるからです。言わずもがな,非行の発生率が最も高いのもこの時期なり。

 用いるのは,内閣府の『小・中学生の意識に関する調査』(2013年度)です。小学校4年生~中学校3年生とその保護者を対象とした調査ですが,児童・生徒の調査票の中に,以下の設問があります。


 いずれも生活態度の不安定度に関わるものであり,これらの肯定の度合いが高い生徒ほど,ちょっとした誘発要因で非行に傾斜する危険を持っているといえるでしょう。

 私は,これら4つの項目への反応を合成して,対象となった中学生の生活態度がどれほど不安定かを計測する尺度をつくりました。1という回答には4点,2には3点,3には2点,4には1点というスコアを与え,それらを合算した数値です。全部1に○をつけたヤバい生徒は16点,全部4を選んだ健全な生徒は4点となります。

 当局に申請してローデータを入手しましたので,こういう変数操作も可能です(感謝!)。下図は,対象となった中学生661人のスコア分布です。


 まあ,さすがに低いほうに多く分布していますが,相対評価でもって,不安定度「低群」,「中群」,および「高群」の3群に分けてみます。3群の量がほぼ等しくなるように配慮すると,4~5点を「低群」,6~7点を「中群」,8点以上を「高群」と括るのがベストです。これによると,低群が191人,中群と高群が235人となります。

 この3つの群で,家族密度や学校適応に関する設問への答えがどう違うかを明らかにしてみましょう。それぞれの項目について,最も強い肯定の回答の比率を拾い,グラフにしてみました。20%ごとの目盛線から,率の水準を読みとってください。


 ほう。いずれの項目とも右下がり,すなわち「弱群>中群>高群」という傾向が観察されます。多感な思春期の生徒にとって,家庭や学校のインパクトって大きいのだなと思います。曲線の傾斜は右側のグラフで大きいようですが,生徒の生活の大きな領分を占める学校への適応如何が大きな影響を与える,ということでしょう。

 上記の図は悲観的な意味合いを持つのではなく,むしろその逆です。家庭や学校での実践によって,子どもが非行へと傾斜せしめる素地が形成されるのを防ぐことができる。そういう見方をしていただきたいと思います。

 しかるに,あと一つの事実も指摘せねばなりません。それは家庭環境との相関です。両親ありの世帯と母子世帯の生徒を取り出し,先ほどの3群の分布をとると,下図のようになります。


 母子世帯の群で,生活態度が不安定な生徒が多くなっています。貧困や将来展望の悲観など,いろいろな経路が考えられますが,家庭環境と非行発生率に強い相関があることは,本ブログでも明らかにしたところです。

 以上,中学生の生活態度の不安定度を左右する要因についてざっと吟味してみましたが,他にも無数にあるでしょう。精緻な検討は今後の課題にしようと思いますが,それらの要因群に中には,人為的に(努力で)変異可能なものとそうでないものがあります。

 前者は啓発活動がある程度の効をなすでしょうが,後者はそれだけでは足りません。物質的な支援が必要となる場合が多々あります。要因の析出に加えて,このような仕分け作業も必要となるでしょう。これらの積み重ねが,少年の健全育成(不安定な生活態度の形成阻止)という面における,非行防止の取組を体系だてることにつながると思われます。

 当面の課題は要因の析出ですが,複数の要因を同時に取り込んで,各々の独自の寄与度を明らかにするには,多変量解析の手法が待たれます。今回の3群を高い精度で判別する予測式をつくる技法。それは,林の数量化Ⅱ類です。博士論文で使った記憶がありますが,すっかり忘れてしまいました。今,復習しているところです。