2014年7月15日火曜日

不安定な生活態度の形成要因

 非行とは,不安定な生活態度を形成した少年が,有害環境に接触することで生じます。前者は少年を非行へと押し出すプッシュ要因,後者はそれに引き込むプル要因です。

 これにかんがみ,非行の予防活動は,①少年の健全育成(プッシュ要因の除去)と②環境の浄化(プル要因の除去)からなります。後者は行政の役割ですが,前者は家庭や学校における人間形成のなせる業です。

 今回は,中学生の生活態度の不安定度を計測し,その高低が,家族密度や学校適応の程度とどう関連しているのかをみてみようと思います。対象を中学生に限定するのは,発達段階の上で第2次反抗期に位置し,諸々の心理的葛藤に苛まれやすい時期であるからです。言わずもがな,非行の発生率が最も高いのもこの時期なり。

 用いるのは,内閣府の『小・中学生の意識に関する調査』(2013年度)です。小学校4年生~中学校3年生とその保護者を対象とした調査ですが,児童・生徒の調査票の中に,以下の設問があります。


 いずれも生活態度の不安定度に関わるものであり,これらの肯定の度合いが高い生徒ほど,ちょっとした誘発要因で非行に傾斜する危険を持っているといえるでしょう。

 私は,これら4つの項目への反応を合成して,対象となった中学生の生活態度がどれほど不安定かを計測する尺度をつくりました。1という回答には4点,2には3点,3には2点,4には1点というスコアを与え,それらを合算した数値です。全部1に○をつけたヤバい生徒は16点,全部4を選んだ健全な生徒は4点となります。

 当局に申請してローデータを入手しましたので,こういう変数操作も可能です(感謝!)。下図は,対象となった中学生661人のスコア分布です。


 まあ,さすがに低いほうに多く分布していますが,相対評価でもって,不安定度「低群」,「中群」,および「高群」の3群に分けてみます。3群の量がほぼ等しくなるように配慮すると,4~5点を「低群」,6~7点を「中群」,8点以上を「高群」と括るのがベストです。これによると,低群が191人,中群と高群が235人となります。

 この3つの群で,家族密度や学校適応に関する設問への答えがどう違うかを明らかにしてみましょう。それぞれの項目について,最も強い肯定の回答の比率を拾い,グラフにしてみました。20%ごとの目盛線から,率の水準を読みとってください。


 ほう。いずれの項目とも右下がり,すなわち「弱群>中群>高群」という傾向が観察されます。多感な思春期の生徒にとって,家庭や学校のインパクトって大きいのだなと思います。曲線の傾斜は右側のグラフで大きいようですが,生徒の生活の大きな領分を占める学校への適応如何が大きな影響を与える,ということでしょう。

 上記の図は悲観的な意味合いを持つのではなく,むしろその逆です。家庭や学校での実践によって,子どもが非行へと傾斜せしめる素地が形成されるのを防ぐことができる。そういう見方をしていただきたいと思います。

 しかるに,あと一つの事実も指摘せねばなりません。それは家庭環境との相関です。両親ありの世帯と母子世帯の生徒を取り出し,先ほどの3群の分布をとると,下図のようになります。


 母子世帯の群で,生活態度が不安定な生徒が多くなっています。貧困や将来展望の悲観など,いろいろな経路が考えられますが,家庭環境と非行発生率に強い相関があることは,本ブログでも明らかにしたところです。

 以上,中学生の生活態度の不安定度を左右する要因についてざっと吟味してみましたが,他にも無数にあるでしょう。精緻な検討は今後の課題にしようと思いますが,それらの要因群に中には,人為的に(努力で)変異可能なものとそうでないものがあります。

 前者は啓発活動がある程度の効をなすでしょうが,後者はそれだけでは足りません。物質的な支援が必要となる場合が多々あります。要因の析出に加えて,このような仕分け作業も必要となるでしょう。これらの積み重ねが,少年の健全育成(不安定な生活態度の形成阻止)という面における,非行防止の取組を体系だてることにつながると思われます。

 当面の課題は要因の析出ですが,複数の要因を同時に取り込んで,各々の独自の寄与度を明らかにするには,多変量解析の手法が待たれます。今回の3群を高い精度で判別する予測式をつくる技法。それは,林の数量化Ⅱ類です。博士論文で使った記憶がありますが,すっかり忘れてしまいました。今,復習しているところです。