2011年11月29日火曜日

不登校,いじめ相談

前回は,児童相談所に寄せられた相談のうち,養護相談の件数の統計を分析しました。今回は,不登校といじめに関連する相談の件数に注目しようと思います。統計の出所は,厚労省の『社会福祉行政業務報告』の各年次版です。

 まずは,これらの事由に関する相談の件数が,どう推移してきたのかをみてみましょう。当局の統計に,「不登校」や「いじめ」という言葉が出てきたのは,1990年代以降のことです。


 左欄は,件数の実数の推移をとったものです。予想に反してといいますか,双方の事由とも,相談件数が減少の一途をたどっています。20歳未満の子ども人口で除した比率でみても然りです。まあ,文科省の統計から分かる,不登校の児童・生徒の数や,いじめの認知件数も最近は減ってきていますので,殊更におかしい,ということはありません。

 近年,これらの問題行動への対応に本腰が入れられるようになっています。不登校については,学校外の教育施設で指導を受けた日数を,学校の指導要録上の出席日数としてカウントするなど,柔軟な対応がとられるようになっています。いじめについては,2006年10月の文科省通知にて,加害者に対して毅然とした対応をとるなどの方針が明示されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06102402/001.htm

 上記の統計は,これらの政策的努力の賜物である,という見方もできるでしょう。

 これらの事由に関する相談は,どの年齢の子どもで多いのでしょうか。2009年度の不登校でみると,最も多いのは,13歳の子どもに関する相談で1,475件となっています。当該年度の不登校相談件数(6,878件)の21.5%を占めます。不登校相談の5件に1件は,13歳の子どもに関するものであることになります。

 この年の13歳人口は約118万人です。よって,ベース人口1万人あたりの相談件数に換算すると,12.5件となります。子どもの人口全体でみた比率(3.0件)の4倍以上です。13歳といえば,中学校に上がる年です。「中1ギャップ」という言葉がありますが,学校不適応の問題は,この年齢の子どもで起きる確率が高いようです。

 こうした年齢別のデータを,上表の各年次について算出し,例の社会地図で表現してみます。不登校といじめの図を立て続けに展示いたします。



 どの年でみても,13~14歳あたりの相談率が高くなっています。不登校の図をみると,緑色以上のゾーンが川のように横切っています。人生の関門といいますか,この(危険な)川を,全ての子どもが渡らなければならないことになります。ここでつまずかせないためにも,中学校入学当初では,適応上の支援などが要請されるところです。このことは,中学校学習指導要領にも記載されています。

 ところで,いじめの相談率は,10歳未満の低年齢の段階では低いようです。しかるに,11月18日の記事でみたように,潜在的ないじめ被害者は,低年齢の児童ほど大きいと推測されます。にもかかわらず,相談の件数が少ないということは,当人のSOSを保護者や教師が把握し得ていない可能性が示唆されます。低年齢の児童は,言語能力に乏しいだけに,とりわけ綿密な配慮が求められるでしょう。

 今回は,不登校やいじめといった問題行動の相談件数をみましたが,他にも,性格行動や適性に関する相談件数など,面白い統計があります。展示したい社会地図はまだまだあるのですが,次回は,主題を変えることにしましょう。

2011年11月27日日曜日

養護相談

前回は,児童相談所に寄せられた相談件数を分析しました。今回は,養護相談という事由に限定して,相談件数の統計をみてみようと思います。出所は,厚労省『社会福祉行政業務報告』です。

 同調査の解説によると,養護相談とは,「父又は母等保護者の家出・失踪,死亡,離婚,入院,稼働及び服役等による養育困難児,棄児,迷子、被虐待児,被放任児,親権を喪失した親の子,後見人を持たぬ児童等環境的問題を有する児童,養子縁組に関する相談」と定義されています。

 今問題になっている児童虐待(child abuse)に関する相談は,広くはこの養護相談のカテゴリーに含まれることになります。まずは,この養護相談の件数の時代推移をみてみましょう。前回と同様,1965年以降の2~3年刻みのデータをとっています。


 bの相談件数をみると,1997年度までは2~3万件台でしたが,2000年になると5万件を超え,2007年には8万件を超えています。この間,20歳未満の子どもの数は減ってきていますので,相談件数をベースで除した比率は,ぐんぐん上昇しています。

 比率の上昇は,2000年度以降で大きいようですが,これには理由があります。2000年5月に児童虐待防止法が制定され,児童虐待が社会問題として正式に認知されるに至りました。このことをきっかけに,虐待に関連する相談の件数がうなぎ昇りに増えたものと思われます。

 2009年度の養護相談の件数は88,009件ですが,このうちの51.6%(45,395件)は,児童虐待に関連する相談です。養護相談の半分以上が,虐待に関連する相談となっています。

 さて,この養護相談ですが,何歳の子どもに関連するものが多いのでしょうか。2009年度の統計では,0歳の子どもに関連する相談が6,583件と最も多くなっています。この年の0歳人口は約108万人ですから,ベース人口1万人あたりの件数に直すと,61.1件となります。上表に記載されている,子ども人口全体の比率(38.1)よりも,かなり高い値です。低年齢の児童において,養護上の問題が発生する確率が高いことがうかがれます。

 私は,上表の各年度について,養護相談件数の比率を年齢別に出し,結果を例の社会地図で表現してみました。


 黒色は,該当年齢人口1万人あたりの相談件数が50件を超えることを意味します。最近の0歳と2~4歳が,黒く染まっています。時代軸で相対化しても,最近の低年齢の児童の危機状況が際立っています。

 しかし,1990年代後半以降,どの年齢でも相談件数の率がじわじわと上がってきています。2009年度でいうと,青色(1万人あたり40件台)のゾーンが10歳まで,紫色(30件台)のゾーンは14歳まで垂れてきています。

 以前は,10代になった少年に関する養護相談は少なかったのですが,最近では,そうではなくなっています。このような状況が,90年代半ば以降に表れてきたことも不気味です。子どもの危機というのは,社会全体の危機と表裏であるのだな,と思います。

 次回は,また別の事由の相談件数の統計をお見せいたします。

2011年11月26日土曜日

児童相談(全般)

11月3日の記事では,全国の児童相談所に寄せられた相談の件数が,子どもの年齢別にみてどう違うかを明らかにしました。今回は,その時代変化をみてみようと思います。

 時代変化をみる場合,子どもの数(ベース)の変化を考慮しなければなりませんので,相談件数をベースで除した比率を出す必要があります。手始めに,1965年度と最新の2009年度の統計を比較してみましょう。出所は,厚労省『社会福祉行政業務報告』です。


 相談件数の概数は,27万件から37万件に増えています。年齢別にみると,3歳の子どもに関連する相談が最も多い構造は,変わっていないようです。

 少子化により,子どもの数が減っているにもかかわらず,相談件数は増加しています。よって,子どもの数あたりの比率は大きく伸びています。表の右欄は,相談件数を児童千人あたりの比率に直したものです。まず合計をみると,7.5件から16.0件へと,倍以上になっています。

 この比率は,どの年齢でも上昇しています。3倍以上になっているのは,2歳,16歳,17歳,および18歳以上です。18歳以上(18,19歳)では,相談件数の比率が0.7から10.2へと大きく伸びています。昔は,この年齢になると親から自立する者も多かったのですが,今日では,そうではなくなっています。年長少年に関する相談件数の増加は,親への依存期間の延長によるのではないか,と思われます。

 この期間中の変化をもっと仔細に表現してみましょう。私は,1965年以降の2~3年刻みで,年齢ごとの相談件数比率を計算し,結果を等高線グラフで表してみました。このブログを長くご覧頂いている方は,お分かりかと存じます。私の恩師の松本良夫先生が考案された,「社会地図」という図法です。これによると,各年齢の率の時代変化を,上から俯瞰することができます。


 青色は,該当年齢の児童千人あたりの相談件数が,5件以上10件未満であることを意味します。黒色は,25件を超える,ということです。

 図をみると,時代を問わず,3歳児に関連する相談が最も多いようです。その多くは,養護相談,障害相談,ならびに育児相談であることは,11月3日の記事で示しました。90年代の初頭あたりから,この年齢の箇所が黒く染まっています。前世紀の末からは,20件以上のゾーン(紫色)が,4~5歳の部分まで垂れてきています。近年,この年齢層の危機状況が強まっています。

 また,2009年度では,13~14歳の部分も紫になっています。11月3日の記事でみた,「2コブ」型は,最近になって生じたもののようです。この年齢の主な相談事由は,非行,性格行動,および不登校などです。思春期の危機の表れといえましょう。

 しかし,図を大局的に眺めると,1998年頃から,基調色が青色から赤色(緑色)に変化します。全体的に,相談件数の比率が伸びたことを示唆します。1998年といえば,自殺者が3万人の大台に突入した年です。子どもの危機というのは,社会全体の危機を正直に反映するのだな,と思います。

 上図を右に延ばしたら,どうなるのでしょうか。3~5歳と13~14歳の膿が,じわじわと広がっていくのでしょうか。

 今回みたのは,相談件数全体の比率ですが,事由ごとにみると,興味深いことが分かるかもしれません。非行,不登校,いじめ,性格行動など,主な事由の相談件数の比率についても,上記のような社会地図で表現してみようと思います。次回以降,作品を展示いたします。

2011年11月24日木曜日

辞(病)める新人教員

11月8日の朝日新聞によると,新たに公立学校に採用された新人教員が,1年以内に退職する,というケースが増えているそうです。
http://www.asahi.com/national/update/1108/TKY201111080209.html

 私は,この手の報道記事に接すると,原資料にあたり,もっと詳しい統計を知りたくなります。この記事の統計のソースは,文科省『公立学校教職員の人事行政の状況調査』です。文科省のホームページや,同省の『教育委員会月報』(第一法規)に,詳しい調査結果が掲載されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/11/attach/1312850.htm

 2010年度調査の結果によると,同年度の公立学校の新規採用教員25,743人のうち,1年以内に依頼退職をした者は288人だそうです。後者を前者で除した比率をとると,11.2‰(=1.1%)です。およそ100人に1人が,採用後1年を待たずして,自らの意志で教壇を去っていることになります。下表は,1997年度からの推移を跡づけたものです。


 1年以内の依頼退職者は,実数,比率ともに年々増加しています。実数(b)をみると,2003年からの伸びが顕著です。2003年から2004年にかけて107人から172人になり,2004年から2006年の間に281人にまでなっています。

 激戦の教員採用試験を勝ち抜いたのにモッタイナイ・・・。このように思われる方もいるでしょう。早期の依頼退職の理由として,どのようなものが考えられるでしょうか。

 まず制度的な面でいうと,1年間の条件附採用期間をクリアできなかった,ということが考えられます。公立学校の教員は,「すべて条件附のものとし,その職員がその職において1年を勤務し,その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする」と法定されています(教育公務員特例法第12条第1項)。教員の場合,じっくり慎重に適性を見極めるため,条件附任用の期間が,一般の公務員(6か月)の倍であることが特徴です。

 この期間中の脱落者は,「不採用」という烙印を押すのがカッコ悪いためか,依頼退職という形で処理されるケースが多いと聞きます。上表のbからcを引くと,自己都合による依頼退職者が出てきます。その主な中身は,教職への不適応感を抱いて自ら職を辞す者でしょうが,条件附任用期間中の脱落者(予備軍)も少なからず含まれていると推察されます。

 なお,病気による依頼退職者の増加も見逃せません。cをbで除した比率を出すと,2000年では15.6%でしたが,2010年では35.1%にまで高まっています。依頼退職理由に占める,病気(多くが精神疾患)のウェイトが増してきています。

 まさに,辞める(病める)教員の増加です。昨今の教員をとりまく状況を考えると,さもありなん,という感じがします。1年以内の早期での離職であるだけに,看過できることではありますまい。

 ところで,こうした辞める(病める)教員の量に,地域的差異はあるのでしょうか。私は,1年以内の依頼退職者の数を,47都道府県別に明らかにしました。指定都市の分は,当該都市を含む県に統計に入れています。2010年度採用者のデータです。


 先ほどみたように,全県の合計は288人です。これを県別にバラすと,かなりの違いがあります。首都の4都県,愛知,大阪,および兵庫は,早期の依頼退職者の数が10人を超えます。上位3位は,東京84人,大阪34人,神奈川31人,です。

 大都市県ばかりですが,これらの地域は,採用者数も多いので,当然といえば当然です。各県の依頼退職者は数が少ないので(白色は0人),採用者で除した比率を出しても意味がないのですが,上位の3都府県について比率を出すと,以下のようになります。


 東京の率の高さが際立っています。依頼退職率,病気による依頼退職率とも,全国値の倍を超えています。東京では,学校に理不尽な要求を突き付けるモンスター・ペアレントが多い,というような条件もあることでしょう。

 ケツの青い新人教員は,この種のモンスターの格好の餌食にされる確率が高いと思います。2006年5月に,東京で採用されて間もない新人教員(女性)が自殺する事件が起きましたが,その原因として,児童の保護者にあれこれと言われた,というようなことがあったそうです。

 でも,同じ大都市の大阪や神奈川の率は全国と同水準ですので,東京に固有の条件もあるのかもしれません。たとえば,条件附任用期間クリアの審査を厳格にしているなど。団塊世代の大量退職により,大量採用を余儀なくされている東京では,このような措置がなされているとしても,不思議ではありません。各県の条件附採用の評定がどういうものかは,上記文科省サイトの表6(PDF)から知ることができます。

 私は,教員の離職に注目してきましたが,早期離職率にも,これから注意していこうと思います。この指標は,各県の教員採用活動を評価する指標としても,使えるかもしれません。

2011年11月23日水曜日

自殺の観点別平均評点

前回の続きです。今回は,前回のデータを使って,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量がどう変わってきたかを明らかにしようと思います。

 手始めに,2010年に起きた自殺の迷惑度の平均点を出してみましょう。鶴見さんの『完全自殺マニュアル』(太田出版,1993年)では,それぞれの自殺手段の迷惑度が5段階で評定されています。首つりは1,ガスは1,薬物は1,溺死は3,飛び降りは3,飛び込みは5,手首切りは2,感電は1,焼身は2,凍死は1,です。

 厚労省『人口動態統計』によると,2010年の自殺者(29,554人)の自殺手段の構成は,首つりが66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,です。

 これらのデータから,この年の自殺の迷惑度平均点は,次のようにして求めることができます。厚労省の統計でいう「その他」の手段による自殺者(4.2%分)には,手首切り,感電,焼身,および凍死の迷惑度の平均点(1.5)を充てることとします。

 {(1.0×66.4)+(1.0×13.3)+・・・(5.0×2.1)+(1.5×4.2)}/100.0 ≒ 1.32点

 この迷惑度平均点の推移を10年刻みでたどると,1960年は1.60点,1970年は1.61点,1980年は1.55点,1990年は1.58点,2000年は1.38点,そして2010年が1.32点となります。

 予想に反するといいますか,自殺の迷惑度点は,昔よりも減ってきています。前回の面グラフでみたように,溺死や飛び込みといった,迷惑度の高い自殺手段の比重が減じてきているためです。

 同じやり方で,他の観点の平均評点の推移も明らかにしてみましょう。①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,そして⑥致死度の平均評点が,1958年から2010年までの間に,どう変わってきたかをみてみます。

 ①については,苦痛の評点が定かでない薬物(前回の表を参照)による自殺者は除外して,平均点を出すこととします。2010年でいうと,薬物による自殺者(934人)を除いた28,620人の平均点を出すことになります。では,①から⑥の各観点について,評点の平均値の推移をご覧ください。


 まず目につくのが,致死度の平均量の増加です。前回述べたように,致死度がマックスの首つりのシェアが高まっていることによります。その一方で,手間や苦痛の平均点は減少傾向です。手間のかかる薬物や,苦痛の大きい溺死の比重が小さくなってきているためです。

 明らかなのは,「簡単」,「ラク」,「確実」を求める志向が増してきていることです。最もポピュラーな首つりは,この3条件を満たした手段であるといえます。なお,インパクトの平均点が上がってきていることも,注目に値します。

 各観点の平均評点は,性別や年齢層別に出すことも可能です。女性よりも男性,高齢者よりも若年者で,インパクトや迷惑度の平均点が高いのではないかしらん。また,時代×年齢層のマトリクスで平均点を出し,例の社会地図(等高線グラフ)で表現してみるのも面白いかも。

 これらの作業は,2004年度の厚労省『人口動態統計特殊報告』のデータを使って行うことができます。興味ある方は,どうぞトライしてみてください。
 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02010101.do

 私もやってみるつもりですが,自殺関係の統計ばかりいじっていると気が滅入ってきます。話題をチェンジさせてくださいまし。

2011年11月22日火曜日

自殺の手段

1993年7月,鶴見済さんの『完全自殺マニュアル』が太田出版より刊行されました。タイトルのごとく,自殺のやり方を詳細に解説したマニュアル本です。
http://www.ohtabooks.com/publish/1993/07/05202311.html

 この本は大変な反響を呼び,大ベストセラーとなりました。私は2009年4月にこの本を購入したのですが,奥付をみると,「2008年11月23日第104刷発行」と記されています。つまり,1993年の初版発刊以降,104回の重版を重ねた,ということです。現在では,もう少し版を重ねているものと思います。

 しかるに,この本はいろいろと「すったもんだ」を起こしたようであり,東京都の青少年条例にて有害図書に指定されるという,憂き目にも遭っています。少し大きな書店に行けばありますが,立ち読みができないよう,ビニールで封がされ,「18歳未満の青少年の購入禁止」という帯がつけられています。

 自殺を助長するとはけしからん,というような悪評が多数であると聞きます。しかし,鶴見さんの意図はそういうことではなく,むしろ逆のことであると思います。本の帯(上記の帯とは別)には,以下のように記されています。

 「世紀末を生きる僕たちが最後に頼れるのは,生命保険会社でも,破綻している年金制度でもない。その気になればいつでも死ねるという安心感だ!」

 事実,「本気で自殺を考えてこの本を手に取ったが,いつでも死ねる(逃げられる)という安心感のようなものが得られて,生きる意欲が湧いてきた」というような感想も多く寄せられているそうです。なるほど,確かにそういう効果も秘めている本だろうな,と私も思います。

 この本では,主な10の自殺手段について1章ずつが充てられ,基礎知識,具体的なやり方,歴史上のエピソードなどが,若干のユーモアを交えながら淡々と記されています。各章の冒頭では,当該の章で解説する自殺手段について,①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,および⑥致死度が5段階で評定されています。それをまとめてみると,以下のようです。


 一番上の「縊首」とは,首つりのことです。首つりは,苦痛がない一方で(1),確実に死ねる手段であるようです(致死度5)。焼身は,大きな苦痛を伴いますが,インパクト抜群で,致死度も高いと評されています。

 予想されることですが,鉄道自殺に代表される「飛び込み」は,迷惑度がマックスです。死体の見苦しさもハンパじゃありません。

 女性の場合,きれいな姿で死にたい,という要望もあるかと思いますが,ポピュラーな首つりは,失禁するなど,死体が結構見苦しいそうです。見苦しさが「1」なのは,ガス,薬物,手首切り(リスカ),ならびに感電とされています。

 どうでしょう。ラクに確実に死にたい,というのであれば,首つりや飛び降りが適していることになります。抗議の意味を込めたインパクト重視というなら,飛び込みや焼身がオススメということになります。現実の日本社会では,最近,年間3万人ほどが自殺していますが,どういう手段による自殺が多いのでしょうか。

 厚労省の『人口動態統計』によると,2010年の自殺者29,554人の自殺手段の構成は,縊首が66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,となっています。「ラク」と「確実」を重視した,首つりと飛び降りが多くを占めます。鉄道自殺でよくニュースになる飛び込みは,わずか2.1%です。

 自殺手段の構成の時代推移をたどると,下図のようになりました。1958年(昭和33年)からの変化を,面グラフで明らかにしています。


 始点の1958年では,薬物による自殺が最も多くを占めていました。しかし,時代の経過と共に,首つりのシェアが増してきます。1970年に48%,1990年に57%となり,2010年の66%に至っています。

 80年代頃から,飛び降りの比重も高まってきます。高層団地などの建設により,飛び降りを図る環境条件が整ってきたからでしょうか。代わって,飛び込みや溺死の比率が少なくなってきます。鉄道自殺のような飛び込みは,昔のほうが多かったのですね。

 総じてみると,「ラク」と「確実」を求める傾向が強まっているようです。上図の構成比率のデータと,鶴見さんによる評点のデータを使えば,各時代の自殺の苦痛度平均点,インパクト平均点,迷惑度平均点のような指標を出せます。

 長くなりますので,この辺りで止めにしましょう。次回は,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量が,昔から今までどう変わってきたのかを明らかにしてみようと思います。

2011年11月20日日曜日

指導が不適切な教員

文科省の『教育委員会月報』(第一法規)を定期購読しています。先日届いた,2011年11月号によると,2010年度間に「指導が不適切」と認定された教員の数は208人だそうです。

 当局の定義によると,指導が不適切な教員とは,「知識,技術,指導方法その他教員として求められる資質,能力に課題があるため,日常的に児童等への指導を行わせることが適当ではない教諭等のうち,研修によって指導の改善が見込まれる者であって,直ちに後述する分限処分等の対象とはならない者」とされています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/08022711/003.htm

 2007年の教育公務員特例法の改正により,指導が不適切と認定された教員は,指導の改善を図るための研修(指導改善研修)を受けることが義務づけられています(第25条の2)。この研修を経ても,指導の改善が不十分と認定された場合は,任命権者により,「免職その他必要な措置」が講じられます(第25条の3)。

 冒頭の資料によると,指導が不適切と認定された教員の数は,以下のように推移しています。公立学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校)の統計です。


 最近10年間の統計ですが,ピークは2004年度の566人であり,その後は減少の傾向です。2010年度の数字は,さして多いものとは判断されません。

 2010年度間の認定者のうち,同年度に指導改善研修を受けた者は140人です(残りは次年度以降の研修対象者)。この140人にどういう裁定が下されたかをみると,現場復帰が62人,研修継続が30人,退職等が35人,その他が3人,となっています。

 研修対象者の現場復帰率は44.3%です。残りの半分以上が職場復帰を果たし得ず,退職等の形で職を辞した者が25%(4分の1)います。このほど導入された指導改善研修は,受講しさえすればよいというような形式的なものではなく,それなりに厳格に運用されていることがうかがれます。

 指導が不適切と認定されると,いろいろと厄介なようです。はて,こうした不名誉の烙印を押される確率は,どういう属性の教員で高いのでしょうか。年齢別でいうと,ケツの青い若年教員で認定率が高いような気がします。

 私は,冒頭の資料から,2010年度間の認定者数を,学校種別,性別,および年齢層別に明らかにしました。それを,それぞれの属性カテゴリーのベース(本務教員数)で除して,認定率を計算しました。ベースの数字は,同年度の文科省『学校基本調査』より得ました。

 下表は,公立学校の教員について,指導が不適切と認定された者の出現率を出したものです。年齢層別のベースの数字(a)は,60代と管理職(校長,副校長,教頭)を除いていますので,合計と一致しないことを申し添えます。


 まず,2010年度の認定者数208人が,公立学校全体の本務教員数のどれほどに相当するかをみると,10万人あたり23.1人です。約分すると,4,329人に1人。近年の自殺率(≒10万人あたり25人)と同じくらいの水準です。低いのですねえ。

 教員の属性別ではどうでしょう。学校種別では,中等教育学校を別にすると,中学校の出現率が最も高くなっています。性別では,男性が女性の3倍以上です。

 下段の年齢層別の箇所に目をやると,先の予想に反して,指導が不適切な教員の出現率は,年齢が上がるほど高くなっています。50代の出現率(44.1)は,20代の4倍以上であり,他のどの属性の率をも凌駕しています。

 6月3日の記事でも書きましたが,教員をとりまく近年の状況変化(教員評価の導入,住民の学校参画・・・)に対し,最も戸惑いを抱いているのは,長年異なる状況下で教職生活を営んできた50代の教員なのではないかと思われます。

 自分のやり方に固執するあまり,結果として,「指導が不適切」という烙印が・・・。こういうケースも少なくないのではないかと思います。

 私が非常勤をしている某大学では,学生の授業評価(意見,改善要望含む)に対する,教員のリプライをまとめた冊子が,学生ラウンジ等に置いてあります。それをみると,年輩の教授ほど,「回答の必要を認めず」,「学生のほうに問題があるのではないか」,というような(反発的な)コメントが多いように感じます。

 うーん。こうみると,上記の年齢層別のデータも,さもありなん,という感じです。まあ私も,性格はかなり頑固で,人の意見に素直に耳を傾けるタイプではないで,気をつけないといけないなあ,と自戒するところです。

 一つ,興味があるのは,上記の出現率を学歴別にみるとどうかです。指導が不適切と認定される確率は,大学院卒の教員と学部卒の教員とでは,どちらが高いのでしょうか。もしかすると,前者のほうが高かったりして。また,教員養成系大学卒業者と一般大学卒業者とで,どう違うかも気になります。大学(院)における教員養成の効果を検証する上でも,こうしたデータの公表を望むものです。