ブログの解析ツールで,どの記事がよく見られているのかをたまにチェックするのですが,昨年1月18日に書いた「せんせいのお給料」という記事の閲覧頻度が急に上がってきています。各県の公立小学校教員の給与水準が,民間と比べてどうかを明らかにしたものです。
橋下大阪市長は,市職員の給与を民間並みに引き下げる方針を打ち出しているそうです。大阪市の民間の給与水準がどうかは知りませんが,公務員の相対的な「オイシサ」が際立っているのでしょうか。いや,公務員(教員含む)が「オイシイ」思いをしている地域は他にもあるだろう。こういう関心から,上記の記事を見てくださる方もおられると思います。
このようなご要望?があることにかんがみ,今回は,公立小学校,中学校,および高等学校の教員の平均給与月額を,都道府県別にご覧に入れようと存じます。資料は,文科省『学校教員統計調査』(2007年版)です。本調査は3年おきに実施されているもので,最新の2010年調査の結果が間もなく公表されると思いますが,ひとまず,2007年調査の数字をお見せしようと思います。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
下表は,公立学校の男性教員の平均給与月額を,都道府県別に整理したものです。右端には,全産業の男性労働者に対し,毎月「決まって支給される」給与額の平均値を掲げています。ソースは,厚労省の『賃金構造基本調査』(2007年版)です。教員と全労働者を比較する際,性別の影響が入るのを防ぐため,男性のデータに限定することとしました。
47都道府県の最大値には黄色,最小値には青色のマークを付しています。小・中学校では,給与月額が最も高いのは和歌山で,最も低いのは北海道です。高校では,最大は東京,最小は鳥取です。各県の全産業でみると,両端は東京と沖縄になっています。
余談ですが,教員の給与水準の地域差が,全産業の労働者のそれに比べて小さいことにお気づきでしょうか。全産業の労働者では,最高の44.9万円から最低の26.8万円までのレインヂ(極差)があります。しかるに,小学校教員では,40.7万円から35.6万円までの開きにとどまっています。中高の教員でもほぼ同じです。
それは,義務教育費国庫負担制度によって,公立の義務教育学校の教員給与に著しい地域格差が出ないよう,テコ入れがなされているためです。これがないと,国民の共通教育たる義務教育の質に,大きな地域格差が出ることになってしまいます。
こういう事情から,ほとんどの県において,全労働者よりも,教員の給与の額のほうが高くなっています。沖縄では,全労働者が26.8万円であるのに対し,小学校教員は36.4万円です。10万円近くの開きです。倍率にすると,後者は前者の1.36倍です。これは「オイシイ」。
逆に,教員の給与が平均的な労働者のそれを下回っている地域もあります。東京,神奈川,および大阪といった大都市です。東京では,最も高い高校教員の給与(42.5万円)も,全労働者のそれ(44.9万円)には及びません。後者を1.00とした指数を出すと,高校教員は0.95,中学校教員は0.91,小学校教員に至っては0.83です。先の沖縄とは大違い。トホホですね。
各県の教員の給与額を,全労働者のそれを1.00とした指数に換算してみましょう。こうすることで,それぞれの県における,教育公務員の相対的な「オイシサ」の程度がクリアーになるはずです。
教員給与の相対倍率が最も高いのは,小・中学校では沖縄,高校では青森です。これらの県では,民間の給与水準が低いので,こういう結果になっているものと思われます。逆に,民間の給与水準が高い東京や神奈川では,教員給与の相対倍率は1.0を下っています。
いかがでしょう。地図にすれば分かりやすいと思いますが,教員給与の相対倍率が高いのは,東北の諸県のようです。1.2や1.3という数字が目につきます。秋田や青森は,『全国学力・学習状況調査』でのパフォーマンスが毎年秀でている県ですが,このような偉業は,教員の待遇の有様と無関係ではないのでは。
しかるに,上表の数字があまりに高いと,よらかぬことが起きる可能性もあります。小・中学校教員の給与倍率が最も高い沖縄は,精神疾患による教員の休職率も最高の県です(昨年の5月31日の記事を参照)。
「てめーら,民間に比べてべらぼうに高い金もらってんだから,最も働け!」というような,突き上げがあるのかもしれません。学校に理不尽な要求を突き付ける,モンスター・ペアレントの出現率も高かったりして・・・
想像はこれくらいにいたしましょう。今回のデータが,みなさまの知的好奇心を多少なりとも満たせるのであれば,うれしく存じます。