2013年1月22日火曜日

教員採用試験の統計問題

 前回は,全国の国立教員養成大学の教員就職率を紹介しましたが,教員になるには,教職課程を履修して教員免許状を取得するとともに,各自治体が実施する採用試験に合格する必要があります。

 教員志望の学生さんは,今年夏実施の採用試験に向けて少しずつ準備を始めておられることと思います。とりわけ力を入れるべきは,校種を問わず全受験者に課される教職教養でしょう。

 教職教養の参考書や問題集を執筆している関係上,毎年,全国の自治体の過去問に目をやるのですが,統計を題材にした問題が結構あることに気づきます。

 教員志望者には,今の教育界の現状がどういうものかをきちんと知っておいてほしい,という思いからでしょう。そこらで又聞きするような怪しい情報ではなく,「きちんと」した公的統計を踏まえてです。

 どういう分野の統計が出るかというと,児童・生徒の問題行動に関わる統計が多いようです。東京都では,過去に以下のような問題が出題されています。都教委の『小学校教職課程・学生ハンドブック(平成24年度版)』の53頁に掲載されているものです。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/p_gakko/senko/senko11.htm


 文科省が毎年実施している『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』からの出題ですね。各種の問題行動の発生件数等を集計した,最も公的な資料です。文科省のホームページにて,結果を閲覧することができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/shidou/1267646.htm

 5つの選択肢の正誤を判定する形式です。それぞれについて簡単に解説いたしましょう。

 まず1ですが,小・中学校の暴力行為の発生件数は,2006年度が34,367件,2007年度が42,017件,2008年度が49,238件と推移しています。校内と校外を合わせた件数です。したがって,文中の記述は誤りということになります。

 ただし,最新の2011年度調査の速報結果によると,この数は09年度をピークとして減少に転じています。11年度は46,457件です。調査結果は随時更新されますので,最新の数値を確認しておきましょう。

 選択肢の2~5は,いじめ等の問題行動がどの学年で多発するかを問うものです。危険な時期はいつか。問題行動への対処にあたっては,この点を押さえておく必要があります。生徒指導計画を立案する際にも必要な知識となるでしょう。

 2~5の選択肢では,いじめ,不登校,高校中退,そして自殺という問題行動の学年傾向について述べられています。これら4つの学年別統計をみていただくのが早いでしょう。下表は,2008年度の上記文科省資料から作成したものです。いじめの数値は,加害者の学年に依拠した認知件数であることを申し添えます。


 選択肢2は誤り。いじめの認知件数が最も多いのは,小学校第5学年ではなく,中学校第1学年です。この学年では,17,516件と群を抜いて高くなっています。小学校から中学校へと上がることに伴う「中1ギャップ」の表れともみられます。この言葉は知っておきましょう。

 選択肢3は正しい。文中でいわれているように,不登校児童・生徒数は中学校第3学年まで上昇を続けます。小6から中1にかけての増加倍率は2.99倍(7,727→23,149)。これも合っています。小6から中1にかけての不登校の激増も,「中1ギャップ」の一側面をなしているといえましょう。

 選択肢の4は誤り。高校の中退者数は,第1学年で圧倒的に多くなっています。上表からは分かりませんが,全日制,定時制,通信制を問わずです。このことにかんがみ,入学当初において,生徒が学校生活に適応できるよう指導することの重要性がいわれています(高等学校学習指導要領)。ちなみに,高校中退の事由としては「学校生活・学業不適応」が最多です。この点も要注意。

 選択肢の5は誤り。自殺者が最も多いのは高校1年生ではなく,高校3年生なり。自殺した生徒が置かれていた状況としては,「進路問題」というものが最多です。「高校3年生」と「進路問題」・・・。大学入試の失敗,将来悲観というようなことが想起されます。

 よって正答はということになります。どうでしょう。みなさんはできましたか。統計を使った問題としては,この手のものが多いようです。文科省『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の結果の重要ポイントは,しっかりと押さえておきましょう。

 あと重要な統計資料としては,文科省の『全国学力・学習状況調査』でしょうか。自分が受けようとしている県の子どもの学力が,全県の中でどのあたりの位置にあるか。どういう部分が課題とされているかなどを把握しておきましょう。各県の教委のホームページで触れられていると思います。

 さて今日は,教職課程の担当科目の試験です。統計の問題を出題予定。学生さんのお手並み拝見。楽しみです。電卓を忘れたという人がいないとよいのですが。