2013年1月20日日曜日

国立教員養成大学の教員就職率

 全国には,教員養成課程を有する国立の教員養成大学は44ありますが,2012年3月卒業生の教員就職率のトップは,兵庫教育大学で92.2%だったそうです。臨時任用も含むとはいえ,この数字はすごいですね。
http://nyushi.yomiuri.co.jp/13/nnews/20130112_03.htm?from=yoltop

 上記の読売新聞記事によると,本大学では「校長OBを講師に招いた模擬採用面接や模擬授業を実施するほか,4年生が後輩に就職活動の体験談を紹介する機会を設ける」などの取組を行っている模様です。こうした実践の所産であるともいえましょう。

 さて,紹介されている教員就職率のソースは,文科省の『国立の教員養成大学・学部(教員養成課程)等の平成24年3月卒業者の就職状況について』という資料です。各大学の卒業生数と教員就職者数が掲載されています。

 私はこの資料をもとに,44の国立教員養成大学の教員就職率を出してみました。自県の教員養成大学がどれほど健闘しているか,という関心をお持ちの方もおられるでしょう。そういう方の参考になればと思います。

 私は,2種類の教員就職率を計算しました。臨時任用を含む広義の教員就職率と正規のみの教員就職率です。分母には,卒業生数から保育士就職者数と大学院等進学者数を差し引いた値を充てました。要するに,教員志望の卒業生のうち教員になれた者がどれほどいるか,という指標です。上記記事でいわれている教員就職率も,このようなやり方で算出されています。

 教員就職率(広義)がトップの兵庫教育大学と,私の母校の東京学芸大学を例に,指標の計算過程をご覧いただきましょう。


 兵庫教育大学でいうと,卒業生165人から保育士就職者・大学院等進学者24人を除いた数は141人。この141人のうち,臨時も含む教員就職者(b+c)は130人。したがって広義の教員就職率は,130/141=92.2%となる次第です。正規のみに限ると56.0%,およそ6割弱。

 わが母校・東京学芸大学はというと,広義の就職率は73.4%,正規のみの就職率は38.1%なり。ふうむ。西の兵庫教育大学に比して値が低くなっていますね。

 それでは,44の国立教員養成大学について,同じ値を軒並み出してみましょう。下表は,2種類の教員就職率の大学別一覧です。右欄には順位を掲げました。


 44大学での最高値には黄色,最低値には青色のマークをしています。臨時を含む教員就職率は92.2%~51.8%,正規のみの就職率は61.0%~18.3%のレインヂがあります。大学によって違うものですね。

 学芸大は広義の就職率は44大学中16位,正規就職率は25位か。私が学部生だった頃(1990年代後半),「教員就職率全国1位!」といったフレーズを学内広報誌で見かけた記憶がありますが,昔に比べて相対順位が落ちているのかしらん。

 修士課程の母校の鹿児島大学は,広義の就職率が42位,正規就職率が40位です。こちらは明らかに下位グループに属していますが,地元での採用試験が難関化していることもあるのだろうな。昨年の3月15日の記事によると,2011年度の当県の小学校教員採用試験競争率は9.3倍なり。全国(4.5倍)や東京(3.7倍)よりも相当高くなっています。

 最後に,上表のデータを地図化しておきましょう。自県の国立教員養成大学の教員就職率(広義)に基づいて,47の都道府県を塗り分けてみました。地元に国立教員養成大学がない4県は欠損値としています。県内に2校(新潟,上越教育)ある新潟は,両校の数値を合算して出した率に依拠したことを申し添えます。


 黒色は,自県の国立教員養成大学の教員就職率(臨時含む)が8割を超える県です。70%台も併せて考えると,近畿の諸県の教員養成大学が健闘している模様です。冒頭で紹介したような,兵庫教育大学に類する実践を行っている大学が多いのでしょうか。

 さて,各県の国立大学は自地域の学生に高等教育の機会を与えるとともに,地元の産業界に有意な人材を供給することを主な機能としているのですが,ここでみた教員就職率などは,この機能がどれほど遂行されているかを測るメジャーとしても使えるでしょう。

 私が生まれる前年の1975年,東大の清水義弘教授の研究グループが『地域社会と国立大学』という本を東大出版より出しています。B5版,402頁の大著です。この本では,地域社会への人材供給機能等,多角的な観点から地方国立大学の機能遂行の状況が分析されています。自県の教員養成大学の教員就職率という指標も入っていたのではないかなあ。

 今から40年近くも前の偉業ですが,現在において,類似の研究をしてみる価値はあるのではないでしょうか。地方国立大学の存在理由が厳しく問われていることでもありますし。現在では,パソコンやインターネットの発達により,統計をはじめとする各種資料の収集が当時とは比較にならないほど容易になっています。データ分析やその結果のグラフ化・地図化の作業も,お茶の子さいさいです。

 こういう条件を駆使すれば,個人でもある程度のことはできるかも・・・。不遜にも,こういうことを思ったりします。