2013年6月16日日曜日

従属人口係数の国際比較

 『就業構造基本調査』の分析記事ばかり続きましたので,話題を変えましょう。今回は,人口統計のお話です。

 人口は,年齢に注目すると①年少人口(15歳未満),②生産人口(15~64歳),および③老年人口(65歳以上)に区分されます。①と③は,「支えられる」存在としての従属人口と括られることが一般的です。

 今の日本社会では,この3者の構成はどうなっているのでしょう。わが国の特徴を見出すため,アフリカのエチオピアと比べてみます。ソースは,総務省統計局『世界の統計2013』です。日本は2011年,エチオピアは2008年のデータです。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm


 両国とも,「支える」存在である生産人口が最多であるのは同じです。生産人口1人が支える従属人口の量をみると,日本は0.571人,エチオピアは0.837人なり。これがいわゆる従属人口係数ですが,エチオピアのほうが高いのですね。

 しかし,従属人口の中身が違っていて,エチオピアは大半が子どもですが,わが国では,子どもよりも高齢者のほうが多くなっています。従属人口を高齢者に限定した老年従属係数を出すと,日本は0.366,エチオピアは0.051であり,わが国のほうがはるかに高いのです。

 エチオピアは,老年人口1人を生産人口19人で支える社会ですが,日本では,老人1人を約3人で支えています。座布団に座っている1人のお婆ちゃんを,働き盛りの3人の男が下支えしているポスターをよく見かけますよね。

 日本では老年従属係数が高いことが分かりましたが,世界全体を見渡した場合,どの辺りに位置づくのでしょうか。比較の対象を広げてみましょう。私は,上記資料から54か国の年齢別人口統計を採集し,各国の年少従属係数と老年従属係数を計算しました。

 下の図は,横軸に年少従属係数,縦軸に老年従属係数をとった座標上に,54の社会をプロットしたものです。前後しますが,各国の人口統計はおおむね2010年近辺のものであることを申し添えます。


 ほう。日本の老年従属係数(0.366)は,54か国で最も高いようですね。一方,少子化により年少従属係数はきわめて低いので,図の左上に位置する形になっています。対極の右下には,子どもが多く老人が少ない,アフリカの諸国がプロットされています。

 斜線の上にあるのは,従属人口の中身でみて,子どもよりも老人のほうが多い社会です。日本のほか,ドイツ,イタリア,ギリシャといった国々がこのゾーンに位置しています。英仏は,あとちょっとというところです。

 日本は,生産人口が支える高齢者の量が最も多い社会であることが分かりましたが,あと一つ指摘しておくべき点があります。それは変化の速さです。下図は,1950年からの主要国の位置変化を図示したものです。矢印のしっぽは1950年,先端は2010年近辺の位置を表します。

 1950年の国別の従属人口係数は,国連の人口推計サイトのデータをもとに計算しました。
http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_indicators.htm


 少子高齢化により,どの社会も左上に動いていますが,日本は,この半世紀にかけて欧米諸国をゴボウ抜きしています。こうした変化の速さ(激変)はわが国の特徴ですが,そのことが,老後における社会保障の不備をもたらしている面があるといえるでしょう。

 これから先どうなるかというと,2050年には生産人口5,001万人,老年人口3,768万人という社会になることが見込まれます(国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』)。この時点の老年従属係数は0.753であり,1人の老人を1.3人で支えることになります。

 それから半世紀後の2100年の予測事態は,生産人口2,473万人,老年人口2,039万人。老年従属係数は0.825!こうなると,「支える」「支えられる」というような役割関係も何もなくなるかもしれません。

 加齢により体力が衰える,動作の機敏性がなくなっていく・・・。こうしたことは生理的な変化ですが,「支えられる存在」という役割付与は,あくまで社会的なものです。これを変えていく余地は多分にあるでしょう。どこかの役場のポスターに,こんなことが書いていました。「支えられる高齢者から,支える高齢者へ!」。

 かといって私は,高齢者を無理に働かせろとか,シルバーパスを軒並み取り上げろなどと主張するのではありません。高齢者の社会参画の取組を推進する必要がある,ということを申したいのです。男女共同参画社会ならぬ,老若男女共同参画社会の実現が求められるといえましょう。

 このことは,生産至上主義,スピード至上主義の社会が,ゆるい社会へと変貌を遂げるための条件といえるかもしれません。週5日労働が週4日,週3日・・・。ちょっといいかも。生活の利便性は落ちるかもしれませんが,悪いことばかりではありますまい。

 この点については,2月14日の記事でも述べました。よろしかったら,こちらもご覧ください。