昨年の9月10日の記事では,30代後半男女の年収別の未婚率を出したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。
結婚とは,男女の自由意思に基づくものとみられがちですが,フタを開けてみると,年収のような経済条件に強く規定されています。こういうデータが珍しかったのでしょうか。また,男女では傾向が逆になっていることも,興味をひいたのだと思われます。
しかるに,問題点のご指摘もいただきました。一つは,各年収階層の量を考慮していないこと。二つは,無業者を入れていないことです。
なるほど,年収1,500万以上の女性の未婚率が飛びぬけて高いのですが,この層は量的にはごくわずかです。各階層の量も提示しないといけませんよね。また,働いていない無業者の存在も無視することはできません。最近は,働き盛りの層でも無業者が増えてきていますし。
今回は,こうした点をふまえて作り直した図をご覧に入れようと思います。まずは,素材から見ていただきましょう。無業者と,有業者の年収別の3階層です。先の記事と同様,30代後半男女のデータを収集しました。ソースは,2012年の総務省『就業構造基本調査』です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
男性では年収400万以上の有業者が最多ですが,女性では無業者と200万未満の有業者が拮抗しています。前者は専業主婦,後者は家計補助のパート等が多くを占めるでしょう。
このデータを使って,層別の未婚率の様相が分かるグラフをつくってみましょう。とはいえ,単純な折れ線グラフでは,この前と同じです。ここでは,各層の量も分かる図にしたいと思います。
横幅で4つの階層の量を表現し,各層の未婚・既婚構成が分かるようにしました。未婚者を除いた全てが既婚者とは限りませんが,離別・死別の者はそう多くないので,まあ既婚(有配偶)と括ってもよいでしょう。
男性では,年収が上がるほど未婚率は低下していきます。男性にあっては,無業者と年収200万未満のワープア(Ⅰ)はわずかですが,量的に少ないこの層にしわ寄せがいっている模様です。無業者の未婚率は80.6%,ワープアの未婚率は61.7%なり。
しかるに女性は,おおむね高年収層ほど未婚率が上昇します。自分で稼げるので結婚を望まないのか,結婚を望みつつも稼ぐ女性は敬遠されるのか。事情は分かりませんが,年収と未婚率の関連の性差に,「男が養うべし」というわが国のジェンダー観念がみてとれます。
ところで,年収と未婚の関連のジェンダー差は,地域によって若干違います。上図のような傾向が顕著な東京と,それが比較的薄い沖縄のケースをみていただきましょう。
東京の場合,年収と未婚の関連ならびにその性差が,全国傾向にも増してクリアーです。無業男性の9割,ワープア男性の8割が未婚であり,年収200万以上の女性の半分近くは未婚なり。
対して沖縄はというと,無業男性やワープア男性でも既婚者が結構いるのではないですか。女性にあっても,年収階層による未婚率の傾斜がゆるくなっています。「男女ともに稼ぐ」。こういう考えが浸透しているのかもしれません。所得水準が低いので,共働きでないとやっていけない,という事情もあるでしょうが。
「男は仕事,女は家庭」というジェンダー観念が強いのは地方であり,都市部ではそれがなくなってきているといわれますが,実情は逆なのかもしれませんね。
偏狂なジェンダー観念についてどう思うかと世論調査で尋ねることは簡単ですが,口でなら何とでも言えます。ジェンダーの克服の度合いは,目に見える行動量でもって把握すべきでしょう。年収による未婚率の傾斜の男女差が,今から10年後,20年後になくなっているか。こうした点にも注意していきたいものです。