http://mainichi.jp/shimen/news/20140712ddm001100209000c.html
上記の毎日新聞記事によると,「絵本などの普及で5歳児の識字率も上がっているため,国語のひらがなの読み書きのほか,算数の足し算,引き算なども検討対象にする」とのこと。「小1プロブレム」に象徴されるような,就学前教育と小学校教育の段差を解消する上でも効果あり,と期待されています。
しかるに,注意しないといけないのは,幼稚園や保育所に通っていない幼児の存在です。幼稚園は義務教育学校ではありませんし,保育所は,日中わが子を保育できない親が子を預ける児童福祉施設です。したがって,これらの学校・施設のいずれにも通っていない幼児もいます。
昔は,こういう非在園児が結構多かったのですが,今はどれくらいいるのでしょう。小学校に上がる直前の5歳児に焦点を当てて数を出してみましょう。
私は,5歳人口と,同年齢の幼稚園・保育所在園児の数をそろえ,前者から後者を差し引いてみました。5歳人口は『国勢調査』の実施年しか正確な数が分かりませんので,年次がやや古くなりますが,2010年のデータを使うこととします。
2010年の①5歳人口,②5歳の幼稚園児数,③5歳の保育所在所児数は以下のごとし。
①:人口 ・・・ 105万8489人 *10月時点 総務省『国勢調査』
②:幼稚園児数 ・・・ 61万942人 *5月時点 文科省『学校基本調査』
③:保育所在所児数 ・・・ 41万8645人 *10月時点 厚労省『社会福祉施設等調査』
①-(②+③)をして,5歳の非在園児数は2万8902人となります。ベース人口中の出現率は2.7%,およそ37人に1人です。
最近はもっと減っているかもしれませんが,ネグリジブル・スモール(無視できる数)ではありません。上記の改革を実行するに際しては,これらの非在園児に対するフォローも必要になります。
それはさておき,①~③の原資料には都道府県別の数も掲載されています。これを使って,5歳児の非在園率を都道府県別に計算してみました。幼稚園にも保育所にも通っていない幼児が多いのは,どの県か。県別一覧表をご覧ください。
右欄の数が,先ほどと同じやり方で算出した非在園児率ですが,なぜか値がマイナスになる県もあります(6県)。これは,調査実施時期のビミョーな差や,『国勢調査』の5歳人口が不正確であるためと思われます。『国勢調査』の年齢統計をみると,「年齢不詳」人口も結構います(全国で98万人ほど)。ここでは,グレーの網掛けの数値は度外視しましょう。
ひとまず形になっている値をみると,マックスは宮崎の11.5%です。2010年の数値ですが,5歳児の10人に1人が幼稚園にも保育所にも通っていないと見積もられます。赤字は上位5位ですが,九州が多いですねえ。私の郷里の鹿児島も5位にランクインしています。
全体的にみて,東北や九州などの周辺部の値が高いようですが,地域性もあるのでは。この点を確認するには地図化(マッピング)が一番。上表の出現率を4段階で塗り分けた地図をつくってみました。マイナスの値が出た6県は,一番下の白色にしています。
北と南が濃い色になっています。祖父母が同居(近居)の世帯が多いなど,共働きであっても,家庭内保育をしやすい条件があるのでしょうか。しかし,小1の教育内容が5歳児に下りてくるとなると,これらの県では,フォローの対象となる幼児が多いことになります。
ところで,気になるデータもあります。上図の県別非在園児率と経済指標の相関です(非在園率がマイナスの6県は除外)。地図の模様からも察しがつくことですが,一人当たり県民所得が低い県ほど,5歳児の非在園児率が高い傾向にあります。相関係数は-0.414であり,1%水準で有意です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/09/blog-post_12.html
小1の学習内容を幼稚園や保育所に移行するに際しては,これらのいずれにも通っていない「幼児への対応」が重要な課題となるといえましょう(上記,毎日新聞記事)。もしかすると,5歳段階からの義務教育化が想定されているのかもしれませんが。