2014年7月8日火曜日

都道府県別の学生バイト

 最近,ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」の存在も知られるようになってきています。メチャクチャな条件のバイトのことで,正社員並みの責任を負わされる,試験前でも休ませてくれない,というようなものです。言わずもがな,主な被害者は学生です。

 学生のバイト実態については各種の調査がなされていますが,官庁統計からもそれを知ることができます。総務省の『社会生活基本調査』では,在学者の1日当たりの平均生活行動時間を明らかにしているのですが,設けられている属性カテゴリーの中に,小・中・高校生以外の「その他の在学者」があります。大学生や専門学校生など,中等後教育機関の学生とみてよいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/h23kekka.htm

 「その他の在学者」(以下,学生)は,平日1日あたりどれほど仕事(バイト)をしているのでしょうか。原資料には,①総平均時間,②行動者平均時間,③行動者率,の3つが掲載されています。最新の2011年調査の数値は,以下のようです。

 ①:総平均時間 ・・・ 67分
 ②:行動者平均時間 ・・・ 278分
 ③:行動者率 ・・・ 24.2%

 ①をみると67分(1時間7分)と短いですが,これは,調査対象の平日にバイトをした者もしなかった者もひっくるめて出した平均値です。当該の日にバイトをした者(24.2%)だけを取り出して平均時間を出すと,278分(4時間38分)に跳ね上がります。これが②の行動者平均時間です。

 コンビニとかで,夕方の6時から10時半までバイトしたら4時間半ですので,行動者平均でみたらまあこんなとこでしょう。

 これは平均値(average)ですが,している学生はメチャクチャしていると思われます。残念ながら時間の分布までは分かりませんが,平均値が県によってどう違うかを知ることができます。47都道府県について,上記の①~③の値を整理してみました。左欄は平日,右欄は日曜日です。

 最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しています。赤色は上位5位の数値です。


 平日をみると,東北の青森は行動者率と総平均がマックスになっています。しかし,行動者平均はさほど長くありません。多くの学生が,適度な範囲でバイトをしている県です。

 新潟はその逆で,行動者率はわずか2.9%(34人に1人)ですが,この層だけを取り出して平均時間を出すと473分,8時間近くにもなります。している学生としていない学生の差が激しい県といえます。

 次に日曜に目を移すと,九州の大分がスゴイですね。調査対象の日曜に4割近くがバイトをしており,その平均時間は558分,9時間以上にもなります。これはもう,平均でみてもブラックの域に達しているといえるのではないでしょうか。

 県ごとにみると結構すさまじい実態が出てくるのですが,たまたま調査日がそうであったというだけの偶然でしょうか。ひとまず,各県の大学関係者の参考資料として提示したく思います。

 といっても,ベタの表を載せて終わりというのはいささか無精ですので,左欄の平日のデータを視覚化しておきます。横軸に行動者率(実施率),縦軸に実施者の平均時間をとった座標上に47都道府県をプロットしてみました。点線は全国値(24.2%,278分)です。


 右上にあるのは,実施率が相対的に高く,平均時間も長い県です。学生バイトが多い県ですが,青枠の中には首都圏の1都2県が入っていますね。

 右下にあるのは多くの学生が適度にバイトしている県,左上は少数の学生が長時間バイトをしている県です。新潟はかっ飛んでいますが,何かの偶然かしらん。平日にして,している学生の平均時間は8時間近く。むーん。

 しかるに,私の周りでもこういう学生さんを見かけます。授業中いつも居眠りをしている学生がいて,呼び出して話を聞いたところ,週5日コンビニ夜勤をしているとのこと。夜の11時から朝7時までの8時間です。

 この学生は地方出身の下宿生ですが,仕送りはゼロ。オール自活(親は学費負担だけで手一杯)。奨学金は借りたくないとのこと。だとしたら,これくらいバイトしないとやれんでしょう。

 最近は,学生に勉強させるためガンガン課題を出してくれと言われるのですが,こういう学生をみると,そうする気も起きなくなります。この学生の場合は,「奨学金をフルに借り込んで学業に専念しろ」という意見もあるでしょうが,借金を勧める(強制する)のもどうかと。

 2012年8月の中教審答申では「学生を鍛え上げる」方針が明示されているのですが,こうした方向と現行の高学費は明らかに相容れないと感じています。それは私だけではありますまい。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm

 日経デュアルの連載記事(第3回)でも書いたのですが,わが国の高等教育の費用負担は明らかに「私費依存型」です(北欧は,ほとんどが公費負担)。私費依存型の高等教育は限界に達しつつあるように思います。

 この問題を可視化しているのが,学生の長時間バイト,ブラックバイト被害です。バイトという劣悪な条件で働かされる中,そういう状況に学生が慣れ切ってしまうのも恐ろしいことです。「これが当たり前なんだ」と。

 アルバイトに教育効果を認める向きもありますが,それは諸刃の剣であり,負の社会化効果も多分に含んでいます。それは,昨今流行っているインターン・シップなどについても言えること。われわれは,この点を絶えず認識しておかねばなりません。