2016年12月24日土曜日

身長の伸び盛りの変化

 22日に,今年度の文科省『学校保健統計』の結果が公表されました。いろいろなファインディングについて報じられていますが,昨日の朝日新聞に「子どもの身長,頭打ちに 伸びる要因出尽くした?」という記事が出ています。
http://www.asahi.com/articles/ASJDN77CQJDNUTIL06S.html

 栄養状態がよくなったこともあり,子どもの平均身長は昔に比して大きく伸びているのですが,近年,それが頭打ちになっているそうです。高度経済成長期ならいざ知らず,確かに21世紀の今では,子どもの身長が伸びる要因は「出尽くした」といってよいかもしれません。

 しかるに,ここで見たいのは,身長が最も伸びる時期,すなわち「伸び盛り」が昔と比してどう変わったかです。言わずもがな,伸び盛りは時代とともに早くなってきています。これを心理学の用語で,発達加速現象といいます。

 その様を,データでみてみましょう。学齢期にかけての身長の伸びがどう違うかを,明治生まれと平成生まれの世代で比べてみました。比べたのは,1894(明治27)年生まれ世代と,1999(平成11)年生まれ世代です。文科省『学校保健統計』の長期時系列データにて,6~17歳までの身長変化を跡付けられる,最も古い世代と最も新しい世代を比較することとしました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001014499&cycode=0


 男子のデータですが,どうでしょう。どの年齢でも,平成世代は明治世代に比して,平均身長が大きく伸びています。13歳の時点をみると,平成世代は159.5cmであり,明治世代の139.7cmよりも20cm近くも大きくなっています。スゴイ。

 平成っ子の13歳は,明治っ子の17歳です。明治期の17歳といったら,大半が働いていました。平たく言うと,今の13歳の子どもは昔でいう「オトナ」なわけです。

 しかし,心はそうではありますまい。今の13歳といったら,学校制度の上では中学校1年生のガキンチョです。一人前の社会的役割を付与されていません。成長する身体と,未熟なままの心。現代では,このギャップが殊に大きくなっているといえましょう。

 いじめ,不登校,暴力行為などの問題行動が,この年齢で激増する「中1ギャップ」現象はよく知られていますが,こういう要因によるかもしれませんね。危険な「13歳」です。

 次に,身長の伸びが最も大きいのはいつかをみると,明治世代では14~15歳,平成世代では11~12歳のようです。

 ある年齢から次の年齢にかけての身長の伸び幅を,年間発育量といいます。平成っ子の11~12歳でいうと,152.3-145.0=7.3cmなり。下図は,この値をグラフにしたものです。


 明治っ子では14~15歳が伸び盛りでしたが,平成っ子では11~12歳となっています。なるほど。よく言われるように,伸び盛りの時期が早くなってきています。発達加速現象の可視化です。

 11~12歳といったら,小学校5年生から6年生にかけてでしょうか。最近では,この時期が一番の伸び盛りであると。こういう急激な身体の成長に直面し,子どもの心の揺れも大きくなることに注意が要るでしょう。

 私は今,アニメの「あずきちゃん」に見入っています。いみじくも小学校5年生,上記の統計でいう「伸び盛り」の子どもたちの物語です。
http://www6.nhk.or.jp/anime/program/detail.html?i=azuki

 このアニメの面白さは,大人への過渡期(思春期)にさしかかりつつある子どもたちが,大人としての役割を遂行しようと試行錯誤する様が描かれていること。その最たるものは,恋愛です。

 働く子どもの姿が出てくるのもいい。ラーメン屋のケンちゃんは店のお手伝いをしますし,エリート家庭の勇之助くんも,欲しい物を買うために,ケンちゃんのラーメン屋でアルバイトをします。皆で力を合わせて,無人のペンションを切り盛りする話もいい。

 伸び盛りの子どもたちに,一人前と言わぬまでも「半人前」の役割を与えるのは,身体と心のギャップに由来する心的葛藤の解消にもいいのではないかと思います。

 今の中学校では,1週間程度の職場体験学習が実施されていますが,こういう体験の機会をもっと自然な形で提供できたらいい。自営業がめっきり減った今では,それはなかなか難しいことですが,家庭でのお手伝いがその機能を果たすことはできるでしょう。

 これから共働き世帯がますます増えてきますが,伸び盛りの子どもにも,それを後押しする力になってほしい。お手伝いは,子どもの道徳意識の涵養や良好な自己イメージの形成に寄与します。来週公開される『日経デュアル』の記事で,この点の実証データをお見せしましょう。

 伸び盛りの子どもの苦悩の源泉は,先に書いたように,成長する身体と未熟なままの心のギャップです。これを埋めるべく,彼らに「役割」を与えること。重要なのは,このことです。子どもは庇護されるべき存在ですが,彼らをもっと信用し,共に社会を支える存在として認めることも大事であると思います。