2018年5月16日水曜日

21世紀の読書離れ

 暑くなってきましたが,いかがお過ごしでしょうか。一昨日,ツイッターで読書実施率地図の時代変化を発信したところ,多くの方の関心をひいていますので,ブログにも載せようと思います。

 読書実施率とは,過去1年間に「趣味としての読書」をしたという人の割合です。「趣味としての読書」とは何ぞやですが,『社会生活基本調査』の用語解説をみても詳しい解説がありません。趣味ですので,学校の「朝の10分間読書」や会社での研修等で,強制的にやらされるものは含まない,自発的な読書に限られると思われます。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/index.html

 老弱男女をひっくるめた10歳以上の国民の読書実施率は,2001年では45.5%でしたが,2016年では38.7%に下がっています。言わずもがな,スマホが普及したことの影響が大きいでしょう。

 この数値は都道府県別に出すこともできます。下表は,高い順から並べたランキングを,2001年と2016年で対比したものです。


 1~6位までの都府県の顔ぶれは不動ですね。首都圏の1都3県と,京都・奈良です。都市部で高いようですが,大きな書店が多いためでしょう。あと一つ,考えられる要因については後述。

 全国的に,読書実施率は下がっています。2001年では50%を超える県が4つありましたが,2016年ではそれは皆無になり,代わって40%未満の県が大幅に増えています。

 この3つの階級で,47都道府県を塗り分けたマップにすると,以下のようになります。ツイッターで発信したのはコレです。


 強烈な変化ですねえ。2001年では色付きの県(4割以上)は29でしたが,2016年では7都府県しかありません。「列島・読書離れ」が明瞭に可視化されています。

 以上は,10歳以上の読書実施率の変化ですが,減っているのはどの層なんでしょうか。スマホの普及の影響で,書を手に取る頻度が大きく減っているのは若年層かと思いますが,データでみるとどうでしょう。

 年齢別の傾向を知るには,年齢曲線を描くのが一番。下図は,読書実施率の年齢カーブを,2001年と2016年で比べたものです。


 50歳以上は変化なしですが,40代まででは,読書実施率が下がっています。減少幅が大きいのは,30~40代の働き盛りですね。空前の人手不足の時代で労働時間も伸びているのですが,その影響でしょうか。

 しかるに,書を手に取り「知」を摂取し考える習慣をつけないと,雇い主に搾取されるだけの存在に堕してしまいます。30~40代といえば,子育ての最中の親世代ですが,子どもにもよからぬ影響が及ぶでしょう。子どもに「本を読め」とうるさく言ったところで,自分がそれをしないならば,説得力はゼロです。

 わずかな時間でもいいから,毎日欠かさず本を手に取りたいもの。何かのビジネス誌で「通勤時間はいい読書時間」という記事を読んだ記憶がありますが,上記の読書率の都道府県差と関連があるような気がします。

 最初の表のとおり,読書実施率は都市部で高いのですが,通勤時間が長いこととも関連しているのではないか。働き盛りの35~44歳の男性有業者を取り出し,平日の通勤時間と読書実施率の相関図を描くと,下図のようになります。


 ほう。プラスの相関関係ですね。通勤時間が最も長い神奈川は,中年男性の読書率も最も高くなっています。都心までの1時間や2時間の通勤時間を,何もしないでボーっとしているのはもったいないですからね。

 京急では,座って通勤できる「ウィング号」を運行していますが,「車中で仕事ができる,本が読める」と好評のようです。

 カバンにいつも何らかの本を忍ばせ,わずかな時間でもいいからそれを開く。あるいは,就寝前の30分は読書タイムにする。私は,後者をやっています。22時30分くらいに布団に入り,1時間ほど本を読んでから灯を消します。今,枕元に置いているのは,ビジネス小説の『バルス』です。
https://twitter.com/tmaita77/status/994478297466658817

 今はネットでいろんな情報収集ができますが,検索エンジンに上がるのは,自分の嗜好に合わせてピックアップされた記事ばかりです。これでは栄養が偏ります。リアル書店に定期的に出向く,紙の新聞を手に取るなど,自分の興味のない分野の「知」のバイキングにも触れないといけません。

 私は三浦半島の南西に住んでいますが,週に1度は上京し,紀伊国屋本店などの大きな書店をぶらつくことにしています。また,夕刻のウォーキングでコミュニティセンターを通るので,ちょっと立ち入って,備え付けの紙新聞(読売,神奈川)にざっと目通しすることを始めました。

 これは私なりのささやかな実践ですが,1日わずかな時間でもいいので,書を手に取ろうではありませんか。スマホ上で指をそそくさと動かす姿なかりでなく,重厚な本を開いている姿も,子どもに見せたいものです。