2018年5月4日金曜日

通勤時間による損失

 日本は労働時間が長いと同時に,通勤時間も長い国です。

 往復1時間,2時間の通勤なんて,無駄の最たるもの。このことが日本人の労働生産性を下げている。こういう主張をよく聞きますが,確かに頷けます。

 はて,おカネにしてどれくらいの無駄が生じているのでしょうかねえ。総務省『社会生活基本調査』(2016年)から,40代前半の男性有業者の通勤時間分布を取り出すと,以下のようになります。平日1日あたりの通勤時間(往復)の分布です。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200533&result_page=1


 通勤時間が分かる380万4000人のうち,最も多いのは,30分以上1時間未満となっています。2時間以上の遠距離通勤者は115万8000人で,およそ3人に1人です。首都圏の埼玉・千葉・神奈川だと,もっと多いでしょう。もしかしたら半分いったりして。

 この分布をもとに,380万人あまりの通勤時間の総計を出してみましょう。各階級の通勤時間は,一律中間の値とみなします。②は45分(0.75時間),③は1時間15分(1.25時間)…というふうにです。

 勤務時間のトータルは,15の階級の「階級値×人数」を合算することで出せます。結果は,623万5000時間なり(右下)。平日1日でみた,40代前半男性の通勤時間のトータルです。

 これに,1時間あたりの労働生産額を乗じれば,通勤による損失額の近似値が出てきます。1時間で生み出せる財やサービスの金額を知るのは難しいですが,ここでは,時間給を充てることにしましょう。1時間の労働に支払われる対価ですので,的外れではありますまい。

 2016年の厚労省『賃金構造基本統計』によると,40代前半の男性一般労働者の年収推定値は599.5万円(A)。月あたりの残業込みの労働時間は183時間(B)。よって時間給は,A/12B=2730円となります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 40代前半男性の平日1日の総通勤時間623万5000時間に,時間給2730円をかけると,170億2000万円となります。スゴイですねえ。働き盛りのアラフォー男性でみた,通勤による1日の損失額です。

 言わずもがな,働いている人は40代前半の男性だけではありません。生産年齢の5歳刻みの年齢階層を男女で分けた,16の群について,同じやり方で通勤による損失額を試算してみました。


 女性より男性の方が,通勤時間相当の損失額は大きくなっています。通勤時間・給与とも,女性より高いですので。損失の年齢ピークは,男女とも40代後半です。生産性に満ちた働き盛りで,損失は大きいようです。

 男女の全年齢層の損失を合算すると,1423.9億円となります。平日1日でです。これが毎日積み重なるとなると,天文学的な数値になります。

 雇用労働化が進んだ現在では,自宅からオフィスへの通勤はやむを得ないことであり,上記の数値の全てが損失と決めつけることはできませんが,日本の場合,他国と比してそれは大きいでしょう。通勤時間が長いだけでなく,オフィスの偏在により,殺人的な満員電車に揉まれる「痛勤」地獄も加わりますので。会社に着いて,「さあ仕事だ」という時点にして,かなりのエネルギーを消耗してしまっています。こういうことが労働生産性に響いているのは,間違いありません。

 OECDのジェンダー・ポータルの統計で,通勤時間の国別統計がありましたので,これを労働生産性と絡めたグラフを掲げておきましょうか。後者は,就業者1人あたりのGDP額で,『世界の統計2017』より2015年の数値を採取しました。


 横軸は,1日あたりの男性(15~64歳)の平均通勤・通学時間ですが,これが長いほど労働生産性が低いという,うっすらとした傾向がみられます。27か国のデータから算出される相関係数は,-0.403です。

 労働生産性の要因としては,職場のICT化の度合いなどもあるでしょうが,通勤時間の長さも寄与していると思います。オフィスが偏在しており,郊外から都心という一方通行の「痛勤」が支配的な日本では,大きなマイナス要因となっていることでしょう。今回の試算によると,その額は平日1日で1424億円なり。

 長時間の「痛勤」がなくなれば,どれほど事態は変わることか。IT化の進行により,一つの空間に集まって仕事をする必然性は薄れており,在宅仕事(テレワーク)も少しずつ広がってきています。並行して,オフィスの分散化も図りたいもの。師匠のご子息は,満員電車に乗るのは御免と,都心とは逆方向にある会社に就職したそうですが,こういう若者も増えてくるかもしれませんね。

 早朝の集中通勤を無くすべく,時差通勤も導入も求められます。役所はともかく,「9~5時」という定型に全ての事業所が拘る必要はないでしょう。

 ブラック労働のメルクマールとして,長時間勤務や薄給などがありますが,長時間の満員電車「痛勤」は,それらに勝るとも劣らないマイナス要因です。給与が安くてもいいから,最後のものはご免こうむりたい。私は,こういう考えです。
https://twitter.com/sateco/status/991973090547531781

 個人の健康阻害だけでなく,社会全体にとっても大きなマイナスであることは,今回のラフな試算からもうかがえます。

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