2018年5月27日日曜日

貯蓄できないロスジェネ・無断転載について

 いろいろと出費がかさむ親世代ですが,今ではわれわれがそうです。他とは異なる特徴をもった世代で,世紀の変わり目の就職氷河期に大学を出た「ロストジェネレーション」として知られています。

 新卒時に正規就職が叶わず,非正規や無職に滞留している人,キャリアを積んで昇給できていない人が,他世代に比して少なくなっています。これまで何度も示したように収入が減っているのですが,貯蓄も然り。今日の昼,年齢層別の貯蓄ゼロ世帯率のグラフを作ったら,恐ろしいことが分かりました。

 厚労省『国民生活基礎調査』では,世帯主の年齢層別に,貯蓄階級別も世帯数が集計されています。「貯蓄がない」というカテゴリーの世帯数の割合を計算してみました(不詳の世帯は分母から除く)。

 貯蓄が調査され始めた2007年と,最新の2016年の年齢カーブを対比すると,以下のようになります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html


 2007年では,若年層で高く,脂がのった働き盛りの層でボトムになり,引退した高齢層で再び高くなる「U字型」でした。分かりやすい構造です。

 10年を経た2016年では,どの層でも貯蓄ゼロ率が上がっていますが,40代で上昇幅が大きく,2007年では最も低かったのが,2016年では最高になっています。当年の40代といえば,われわれの世代です。ロスジェネ効果がはっきりと表れています。

 これは貯蓄ゼロ率ですが,平均貯蓄額でみても,最近10年間の減少幅は40代で最も大きくなっています。これから子どもが高校や大学の進学期になり,おカネが必要になりますが,辛いですね。明るいことをいえば,私費依存型(家計押し付け型)の日本の教育費構造を変えてくれる,最初の世代になってくれるかもしれません。

 時代遅れになった制度慣行を打ち壊すという点で,「黒船世代」というネーミングもいいのではないかと,私は勝手に考えています。

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 ツイッターでつぶやいていますが,某新書でグラフを無断転載されました。金曜の朝,ツイッターで情報提供があり,出版社に確認した所,その旨を認めました。

 無断で使われたのは,『ニューズウィーク日本版』サイトの記事に載せたグラフです。

 先方曰く,「許諾申請を怠っていました。事後の承諾をいただきたく,使用料等の条件がありましたらお知らせください」とのこと。同時に,「引用なので,許諾申請は不要と思っていた」とも言いました。

 なるほど,一定の要件を満たした「引用」の形での使用は法で認められており,許諾は要しません。しかし,記事の一文や二文をカッコ付けで引用するのとはワケが違います。作者の思い入れや労力が多く詰まっている写真,イラスト,統計グラフといったコンテンツの使用に際しては,事前に許諾を求めるのが礼儀です。相手の意向によっては使用料を払うことも求められます。一般向けの新書という営利性の高い媒体なら,なおのことです。
https://twitter.com/n_en_u/status/1000354116390993921

 無断で使われたグラフは,既存の公表数値を単純な棒グラフや折れ線グラフに起こしただけのものではありません。国際調査の個票データを独自の観点で集計し,表現方法にも工夫を凝らしているものです。当該グラフが載った記事は,『ニューズウィーク日本版』の中でも高いPVを得ていると聞いています。

 多くのメディアさんは「礼儀」を心得ているようで,私の所にはグラフの使用願いが数多く寄せられます。学術書や教育関係の資料集など,公共性の高い出版物の場合は無料で使用を認め,雑誌や新書といった営利性が高いものについては,使用料を頂くことにしています(断ることも多し)。

 ちなみに,『ニューズウィーク日本版』サイトの利用規約では,「掲載の記事・写真・イラスト等すべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます」と明記されています。要件を満たした「引用」でも,グラフをそのまんま載せるというのは「複写」ですので,アウトと解すべきでしょう。
https://www.newsweekjapan.jp/tos.php

 100歩譲って「引用なんで許諾は不要」という先方の言い分を認めるにしても,糾弾を止めるわけにはいきません。なぜなら,私の名前と記事名はちゃんと書かれていたものの,『ニューズウィーク日本版』という掲載誌名が記されていないからです。出典明記という,引用の要件を満たしていません。担当編集者の資質を疑います。

 先方は過ちを認め,使用料を払うと言ってきていますが,私がおカネをもらって済む問題ではありません。出典記載不備で,版元のCCCメディアハウス社も迷惑を被っているのですから。

 倫理にもとる無断転載,加えて出典記載不備…。現在,版元さんと対応を協議しています。相手の出版社名を公開してもいいと思いますが,現段階では伏せておくことにします。