2019年8月9日金曜日

都道府県別の大学進学率(2019年春)

 今年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。学校数,児童・生徒数,卒業後の進路などが載っている,公的な統計資料です。統計表は,e-Statにて見ることができます。

 教員の女性比率が上がった,高校生が減るなか通信制高校の生徒だけは増加している…。面白いファインディングスが報じられています。私はというと,この資料のデータが公開されたら,真っ先に,都道府県別の大学進学率を計算することにしています。地方出身という身の上もあり,教育機会の地域格差の問題には関心を抱いています。都道府県別の大学進学率は,それを「見える化」するのにうってつけです。

 大学進学率とは,18歳人口ベースの浪人込みの4年制大学進学率をいいます。短大は含みません。分子には,大学入学者数を充てます。分母は,推定18歳人口(3年前の中学校卒業者,中等教育学校前期課程卒業者)を使います。分子には上の世代(浪人経由者)も含まれますが,当該年の現役世代からも,浪人を経由して大学に入る者が同数いると仮定し,両者が相殺するとみなします。これは私が独断で考えたのではなく,公的に採用されている計算方法です。

 今年春の大学入学者は63万1267人,推定18歳人口は117万4801人。よって大学進学率は,前者を後者で割って53.7%となる次第です。同世代の半分が大学に行くという,今の時代の数値的な表現です。性別でみると,男子が56.6%,女子が50.7%と,ジェンダー差があります。

 ここまでは文科省の調査結果概要に載っていること。では,47都道府県別の大学進学率を計算した結果をご覧いただきましょう。都道府県別に出す場合,分子には,当該県の高校出身の大学入学者数を充てます。上記e-statの「出身高校の所在地県別大学入学者数」という表に出ています。


 黄色は最高値,青色は最低値です(赤字は上位5位)。全国値は53.7%ですが,県別にみると,最高の73.3%(東京)から最低の38.1%(岩手)まで,大きな開きがあります。

 女子の大学進学率の最低は,今年も郷里の鹿児島ですか…。東京の女子は73.5%,鹿児島の女子は33.7%と,倍以上の開きがあります。同じ国内とは思えぬほどの格差です。2015年だったか,鹿児島県知事が「女子に三角関数を教えて何になる」と発言したことが思い出されます。

 右端の性差は,男子と女子の差分です。大半の県で「男子>女子」ですが,10ポイント以上開いている県もあります。北海道,埼玉,山梨です。女子は,地元の短大や専門学校に行くのでしょうか。ここでの大学進学率は,高校の所在地に依拠して出してますので,埼玉の場合,優秀な女子が都内の高校に流れ込んでいるためとも考えられます。

 女子の大学進学率が男子より高いのは,東京と徳島。この2都県は毎年こうなのですが,その理由は如何。東京は,自宅から通える大学が多いからでしょうが,徳島は何ででしょう。ツイッターで意見を募ったところ,「県内の大学に,文学,教育,栄養,薬学,音楽といった学科が多いからではないか」ということでした。
https://twitter.com/PKR2000G/status/1159457167449006080

 おっと細部に入ってしまいましたが,大学進学率には,本当に大きな地域格差があるのだなあと,実感させられます。今では同世代の2人に1人が大学に行くと言われますが,それは一部の地域に限った話です。大学進学率が50%を超えるのは,16県だけです(女子は9県!)。

 大学に進学する・しないは自由ですが,上記の統計的事実が,各県の高校生の意向の差とは思えませんよね。まぎれもなく,環境の要因を被っています。子どもの学力トップの秋田の大学進学率が低いのも,その証左なり。

 まず考えられるのは,家庭の所得水準です。大学の学費は高く,地方の場合,都市部に下宿するための費用も上乗せされます。ただでさえ所得が低い地方の家庭にとって,このダブルパンチは痛い。東京大学は,2017年度から女子学生の家賃を補助する制度を始めていますが,地方の才女を呼び寄せるのに有効だと思います。

 あとは,親の考え方もあるでしょう。大学を出ている親は,そうでない親よりも大学の価値を認め,子の進学に肯定的な態度をとると。事実,大卒の親が多い県ほど,大学進学率は高い傾向にあります。下図は,親世代の大卒者率と,上表の大学進学率の相関図です。親世代の大卒者率は,2017年の『就業構造基本調査』より計算しました。


 明瞭なプラスの相関関係が見受けられます。相関係数は+0.834にもなります。ダイレクトな因果関係と言い切ることはできませんが,親世代の大卒率は,県民所得よりも大学進学率と強く相関しています。貧しくとも,大学に価値を認める親なら,子を行かせようとしますからね。経済資本よりも文化資本が効く,ということでしょう。

 大卒の住民が地域にたくさんいるというクライメイトが,大学進学を当然視するよう,子どもを仕向けることも考えられます。

 東京工業大学は,親が大学を出ていない学生に奨学金を給付する制度を始めるとのこと。親が進学に否定的な地方在住者の進学を促すのが狙いだそうです。賛否両論ありそうですが,いい視点だとは思います。

 あと一つの大きな要因は,自地域に大学があるかです。自宅から通えるかどうかは,結構デカイ。否とあらば,下宿費用が加算され,コストが直ちに倍増しちゃうからです。また大学がない田舎の場合,大学とはどういうものかのイメージができないのですよね。この点は,鹿児島の奄美群島を調査してよく分かりました。勉強ができる生徒であっても,進路の選択肢に大学が入ってこないのです。これは私が修論を書いた頃の話で,IT化が進んだ今では,この障壁は低くなっているとは思いますが。

 ざっと考えて,こういう環境要因が,当人の能力に関係なく,大学進学チャンスを規定しているのではないかとみられます。女子の場合,男子にもましてそれが顕著でしょう。大学進学率の都道府県格差は,その可視化に他なりません。

 昨年度から給付型奨学金が導入され,来年度から高等教育無償化政策がスタートします。対象がかなり限られていますが,地方から都会に出てくる学生には,各大学の裁量で支援を上乗せしてほしいものです。地元へのUターンを条件とした,奨学金を支給するのもいいでしょう。高等教育を修めた人材のチカラが,地方の発展に寄与してくれるのは間違いありません。